現地レポート:豪・メルボルン、宇宙科学プログラムの教育旅行で新提案

  • 2011年4月1日
メルボルンで宇宙科学プログラムの教育旅行
未来志向のテーマで差別化が可能に


 英語圏、治安の良さ、時差の少なさなどを強みに、教育旅行市場で確固たる地位を築いているオーストラリア。修学旅行や語学研修先として人気があるなか、新たに注目したいのが、「宇宙科学」からの切り口だ。ビクトリア州の州都メルボルンにあるビクトリア宇宙科学教育センター(ビクトリアン・スペース・サイエンス・エデュケーション・センター:VSSEC)は、生徒・教師用の学習プログラムや本格的な研究室を整えた体験型の施設。文部科学省が指定するスーパーサイエンスハイスクール(SSH)をはじめ、理系校への提案に活用できそうだ。満足度の高い、郊外でのファームステイもあわせて視察した。
                        
                     
宇宙服に白衣も用意
宇宙科学プログラムで火星探査体験も


 VSSECは宇宙科学に特化した学習センターとして、2006年にオープンした州立の施設。メルボルンの市街から車で約30分、ストラスモア・セカンダリー・カレッジの敷地内に位置する。ここでは、SSHにふさわしいハイレベルな内容から小学生向きまで、さまざまな科学教育プログラムを開発している。日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)もスポンサーに加わっており、2年前から相互交流を実施。昨年ミッションを終えた小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還した際、搭載カプセルをオーストラリアに落下させた縁もあり、「はやぶさ」の模型を見ながら説明を受けることもできるという。

 なかでも生徒達が最も夢中になるプログラムが、「ミッション・トゥ・マーズ」だ。これは、「火星に行ってさまざまな任務をこなす」という設定のロールプレイング・アクティビティ。火星探査チームとコントロール室チームに半数ずつ分かれ、12人から24人程度で実施する。火星探査メンバーは隊長、科学者、エンジニアといった役割を当てられ、宇宙服を着て、火星表面に見立てて造られた施設に入る。そこで隊員同士協力しながら、「鉱物サンプルを採取する」、「探査機の故障を直す」といったミッションに従事。最後にはソーラーラディエーションの稲妻が光り、全員で脱出するというシナリオだ。

 コントロール室ではメンバーが1人1台のPCに向かい、探査チームと連絡を取り合いながら指令を出す。全員で工夫してミッションに取り組むため、課題解決能力の養成とチームビルディングの効果があるという。ミッションは生徒達の関心や能力に応じて設定されるので、文系や理系などの専攻分野にかかわらず、誰でも充分楽しめるだろう。すべて英語で行なわれるが、「ミッション・トゥ・マーズ」は他のプログラムに比べると身振り手振りが多く、分かりやすい。VSSECのプログラムはどれも、宇宙服や白衣を身に着けるところからスタートして気分を盛り上げ、生徒達の心をつかむようにしているという。




科学者を育てるプロ級の設備
日本市場で需要の発掘を


 また、宇宙ステーションを再現した研究室では、「太陽と水で電気を生産する」「宇宙空間での人体の変化を調べる」といった、実際に宇宙で行なわれているのと同じ実験ができる。受け入れ人数は最大30人。「ミッション・トゥ・マーズ」など他のプログラムと合わせて、VSSEC全体で一度に60人程度の生徒に対応する。教師用に地理学、天文学、宇宙物理学などの知識やティーチング・スキルを学ぶコースもあるので、あわせて紹介してもよいだろう。所要時間はいずれも、昼食を含めて6時間程度。ただし、希望によって短縮も可能だ。

 これまでに国外からは、香港やシンガポールの学校を受け入れているという。日本からの生徒の受け入れはまだないが、JAXAとの協力関係やオーストラリア人向けの日本語プログラムの開設など、日豪の交流には積極的な姿勢だ。今回の視察旅行では複数の参加者が、「宇宙科学系の素材はほかではあまり見られない分、潜在需要に期待できる」「乗り継ぎしてまで訪れる理由となるメルボルンならではの要素」と考え、「最も印象に残ったところ」としてVSSECをあげた。参加する学校や生徒の英語力に応じて、専門的な科学用語に対応するための事前の英語学習や日本語の説明書を用意すれば参加が可能だろう。こうした対策を含めて総合的にコンサルティングし、教育旅行の新たな市場を開拓したい。


リピート率90%のファームステイ
温かな交流と質の高い宿泊


 一方、オーストラリアの生活と大自然に触れる体験素材としては、ファームステイがおすすめだ。メルボルン市街から車で約1時間30分で到着するカイントンは、広々としたファームタウン。ここでは、日本の教育旅行の受け入れに16年の実績があるダウンアンダー・ファームステイズが、ファームステイ事業を展開している。経営者のスティーブン&ヴィッキー・バーン夫妻はともに日本での滞在経験があるため、日本の文化・習慣を熟知しており、利用客の9割は日本人。また、大人数の団体を得意とし、一度に500人の受け入れが可能だ。アレルギーのある生徒にもきめ細かく対応するという。

 同社の特徴は、ホストファミリーの選択とクオリティの高さにこだわっていること。今回の参加者もプチホテルのようにお洒落で快適なファームに宿泊し、家族の優しい笑顔と心遣いにもてなされた。現在、登録されているファームは150軒。ファームの登録には、清潔な環境、床のマットレスではなく1人1台のベッド、三食の温かい手料理、オージービーフなど土地の食材を使ったディナーの提供といった基準を設けており、何より心のこもったホスピタリティを最重視しているという。広大な敷地でのアクティビティは、季節によって羊の毛刈りやアルパカの餌やり、乗馬やピクニックなど。朝は産みたての卵での朝食、夜は晴れた日なら満天の星空を堪能する。

 1、2泊で利用する学校が多いが、別れの時には男子生徒でも涙を見せるという。今回の視察参加者からは、「初めてのファームステイだが、こんなに良いとは知らなかった」「ホームステイよりファームステイ」といった感想が聞かれた。バーン氏によると、実施校のリピート率は90%以上だという。人と人のつながりはリピーターを生む最大の要素である。中味の濃い交流は、学校とファームを結ぶ立場として、安定した長期的な関係を築くことに役立つはずだ。




教育水準の高いビクトリア州
体験・参加・目的型の潮流


 近年は旅行市場でも教育現場でも同様に、体を動かして参加することやテーマ性を求める声が高まってきている。最先端の教育研究に基づいたVSSECのメソッドやファームステイは、旅行者の新しい需要に沿うものだといえるだろう。また、ビクトリア州教育省ではテーマ学習を軸に英語学習と校外アクティビティ、地元のクラスへの参加をセットにした国際交流に力を入れている。生徒達は参加する分野の英語学習を終えたら校外ですぐ実践でき、同じ興味を持った地元の生徒と交流するため、英語学習と相互文化理解の相乗効果がある。1クラスは20人までの少人数制で教育の質を確保。滞在中は学校のある地区でのホームステイで地域文化も体験する。スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)などへの素材として最適だ。

 メルボルン周辺にはほかにも、教育旅行に適したスポットが集中する。たとえば市街にあるメルボルンミュージアムは、南太平洋で随一の総合博物館。アボリジニのブーメランや毛皮の衣服を触ったり、再現された昔の民家に入ったり、主体的に楽しめる展示法が面白い。

 市街から車で約90分のフィリップ島自然公園は、フェアリーペンギンのパレードやコアラの保護センターで知られる、動物達のサンクチュアリ。レンジャー達とのペンギンの巣箱作りなど、ユニークな環境教育プログラムがあり、ビクトリア州のエコツーリズム賞を受賞している。宇宙科学、自然環境といった未来志向のテーマは、これからの教育旅行で需要が伸びそうな分野である。体験素材を中心に、欠かさずチェックしておきたい。




取材協力:ビクトリア州政府観光局
取材:福田晴子