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トップインタビュー:ルフトハンザAG取締役会長のクリストフ・フランツ氏

  • 2011年2月22日
日本市場は持続可能な成長のモデル
顧客の視点で流通戦略を考え、旅行会社と消費者のネットワーク強化へ


 2011年1月24日に日本就航50周年を迎えた、ルフトハンザ・ドイツ航空(LH)。昨今の「日本の空」は、オープンスカイや羽田の国際化などにより大きく様変わりしているが、世界有数の航空会社であり、日本/欧州間の旅行市場においても重要な役割を担ってきたLHは、日本をどのように位置づけ、将来を見通すのか。50周年に合わせて来日したルフトハンザ・グループ(ドイチェ・ルフトハンザAG)取締役会長兼CEOのクリストフ・フランツ氏に聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
              
           
−この数年間、航空業界は非常に厳しい環境にありました。直近の状況と今後の見通しについてお聞かせください

クリストフ・フランツ氏(以下、敬称略) リーマンショック後の経済危機で、多くの航空会社が損害を受けてきたが、現在の航空業界は全体的に回復基調にある。今年もこの傾向は世界的に続き、航空は成長産業となっていくだろう。地震や火山の噴火など自然災害がなければ、持続的に成長していくのではないか。これまでの損害を埋め合わせるためにも、安定した収益を上げる年を続けていく必要がある。成長のスピードは地域によって異なり、例えばアジアは経済成長も著しく、それが航空産業の成長率にも反映されていくだろう。


−2010年の旅客数は前年比17%増と発表していますが、今年はどれくらいの供給量の増加、旅客数の伸びを期待していますか

フランツ 昨年の結果は明らかに市場が回復してきたことの表れだろう。2011年は、「回復基調」から真の「成長基調」に移行しなければならない。成長のためには機材の追加も必要だ。我々は現在フリートの刷新をはかっている。リージョナル市場では、50席クラスの機材はすべて最低でも90席クラスの機材に更新していき、長距離路線ではボーイングB747型機をエアバスA380型機に代替する。それによって供給座席数は増加するだろう。

 また、ヨーロッパ路線で使用しているエアバスA320ファミリーとボーイングB737型機の改修を進めていき、キャビンの快適性を向上すると同時に座席数の増加もはかってく計画だ。こうした取り組みを通して、ルフトハンザだけで50%ほど供給量は増えていくと思う。これに見合う旅客数を獲得していかなければならないが、現在ドイツ経済は高い成長率を維持しており、賃金も上昇し、レジャートラベラーも増加している。

 また、グループ企業についていえば、スイス・インターナショナル・エアラインズ(LX)も長距離路線機材で大型化をはかっている。一方、オーストリア航空(OS)はまだ供給量の拡大はしていない。OSは国からの補助金を受けている状況で、欧州委員会が自ら利益が上げられるまでは、一定のレベルまでしかビジネス拡大を認めていないためだ。今年あるいは来年にはビジネスの拡大が可能になるよう願っている。


−日本就航50周年を迎えた現在、日本市場をどう位置づけていますか。また、今後の見通しについてもお聞かせください

フランツ 日本市場は持続可能な成長のモデルだと思っている。この50年間、我々は日本市場の開発を続けてきた。大阪、名古屋など就航地も増やしてきたほか、グループのLXやOSも日本に就航している。日本は、アジアでの売上の3分の1をあげており、我々にとって最も重要な市場のひとつであることは疑いのないところだ。また、日本支社の尽力により、その売上の50%が日本国内で生み出されていることも高く評価している。

 さらに、日本の旅行会社との長年にわたる関係も重要な要素。特に、A380型機の就航で供給量が増えたが、それを埋めるためにも、セールスパートナーとの協力は欠かせないと思っている。我々が日本で成功している要因のひとつは、素晴らしいネットワークを持っていること。そして、日本人の趣向に合わせたプロダクトを提供していることも挙げられると思う。本拠地であるドイツはヨーロッパの真ん中に位置するため、日本からヨーロッパ各地に向かうゲートウェイとしては最適で、その意味でも我々は日本にとってベストパートナーだろう。


−羽田就航の可能性についてはいかがですか

フランツ 羽田空港の国際化は喜ばしいことだと思う。羽田は特にビジネストラベラーにとって便利な空港なので、就航には興味を持っている。一方で、時間帯などの制約もある。スロット、適切な発着時間、ドイツでの乗り継ぎなどの問題がクリアされれば、すぐにでも就航したいとは考えている。


−LXやOSなどの買収によって事業を拡大してきていますが、今後の組織戦略をお聞かせください

フランツ ヨーロッパで航空自由化が進むなか、我々は他国の航空会社をグループ化して事業を拡大してきた。これまでその戦略は成功していると思う。グループのなかで異なるブランドを持ち、異なる定義の質を持つが、いずれもハイクオリティを提供しており、特に質にこだわりを持つ日本人には受け入れられていると思う。それぞれマネージメントは異なるため、柔軟に市場のニーズに応えることができる。


−航空会社は直販を進めていく傾向にあります。日本の旅行会社との関係について中長期的な流通戦略をお聞かせください

フランツ 我々は常に顧客の視点から流通戦略を考えている。日本市場でも我々は旅行会社との強力なネットワークを持っている。この関係は今後も続いてくだろう。一方で、インターネットなどダイレクトなチャンネルを通じて航空会社にアプローチする消費者が増えているのも事実だ。我々としては、市場のニーズを満たすために、こちらの方にも力を入れていかなければならない。

 また、ビジネストラベラーに対しては、我々は独自のプログラムを提供しており、ヨーロッパに進出している多くの日本の大企業とはすでに契約を結んでいる。今後は中小企業との関係も強化していきたい。


−航空業界におけるイベントリスクに対してどのように対応していくお考えですか

フランツ 天災、原油価格の高騰など航空会社にはリスクが多い。そうしたリスクを和らげる措置はいつもでも講じておかなければならない。例えば、燃料価格や為替レートの変動に対するリスクについて、我々は独自のヘッジプログラムを持っている。

 また、コストカットや燃油サーチャージなどの措置をとることも大切だが、非常に重要なのは、最新の機材を揃えることだと思う。最新機材はユニットコストの軽減を可能にし、燃費も向上させる。さらに環境にも配慮するなど現代的なテーマにも適応している。航空会社には、2020年までに二酸化炭素の増加を抑え、2050年までに排出量を半減させるというIATAの戦略にも取り組んでいく義務がある。

 例えば、A380型機はその取り組みに応える機材であり、またルフトハンザ・グループがローンチカスタマーとなるボンバルディアの新しいCシリーズもそうだ。我々は常にイノベーションの先頭に立つことをめざしている。


−世界最大規模の航空会社グループのトップとして、今後の抱負や目標を教えてください

フランツ 顧客の視点を大切にしていきたい。規模は問題ではない。顧客に利益をもたらすことが重要だ。そのためには、運航便数、就航地の数、健全な財政、最新の機材などを通じてクオリティの高いサービスを提供していくこと、そして財政的に安定した信頼できるクオリティキャリアとしての地位を維持していくことが肝要だと考える。このスタンスは今後も変わらない。航空会社を買収することは簡単だが、大切なことはそれぞれを成功させていくことだ。(グループ内の)異なるクオリティを組み合わせ、相互にリスペクトしながら、ともに進んでいきたい。


−ありがとうございました


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