取材ノート:MICE誘致の鍵は情報と人材−観光庁主催シンポジウム

  • 2010年7月20日
 観光庁は7月14日、MICE誘致や開催にともなう支援事業のひとつとして「Japan MICE Year 記念シンポジウム」を大阪で開催した。MICE関連の代表的な国際組織の関係者など5名の講師による講演は、どれも具体的な成功例をあげ、実践に直接結びつくノウハウが数多く示された。挨拶に立った観光庁MICE担当参事官の岩本晃一氏は、MICEを観光庁がめざす「訪日外客数3000万人計画」の要と位置づけていることを強調。MICE関連の訪日客は、通常の観光以上に大きな経済効果が期待でき、日本への関心や理解を深める度合いが高いことなどを説明し、MICEによる広範囲の効果への関心をうながした。
               
               
デスティネーション・マーケティングの鍵は情報

 最初に登壇したICCA(国際会議協会)元会長のトゥーラ・リンドバーグ氏は、「デスティネーション・マーケティング−成功への鍵」と題して、MICE誘致活動における情報収集の重要性について語った。まず、国際会議開催数で日本は世界第4位、アジアではシンガポールに続いて第2位であることを指摘。日本が国際会議ばかりでなく、MICE全体において大きな可能性を持っていると述べた。

 しかし、MICEの誘致では極めて激しい競争がなされており、デスティネーションとして選ばれる条件も複雑だ。誘致の場所に大学や研究所などの高等教育機関や大規模な病院、企業の本社が多いことなどが有利な条件になるが、会議をするためのインフラが整っていることや交通アクセス、治安、環境への企業や市民の取り組み、観光素材の多さなども、開催者がデスティネーションを決定する要素として見逃せない。

 さらにリンドバーグ氏は、MICEに関連した国際組織に所属し、積極的に活動することによって得られる情報やネットワークの重要性を指摘した。同氏はICCA(国際会議協会)で会長を長く務めたほか、現在もUIA(国際団体連合)の正会員である。しかし日本には、こうした国際組織でアクティブに活動している人が非常に少ないのが現状だ。例えばミーティングプランナーの国際組織であるMPI(ミーティーング・プロフェッショナル・インターナショナル)は、世界に2万4000名の会員がいるが、日本からの加盟はわずか31名。インセンティブ関連旅行の専門家組織であるSITE(インセンティブトラベル・エグゼクティブ協会)は世界87ヶ国に2100名以上のメンバーを持つが、日本からの参加は4名にとどまっている。MICE誘致への国際競争力を高めるためには、こうした組織に参加して国際レベルのノウハウを学べる人材の確保と育成も必要だ。

 また、リンドバーグ氏は、デスティネーション・マーケティングにおけるコンベンションビューロー(CVB)の重要性に言及。開催者がCVBにコンタクトをとれば、必要な情報がすべて入手できるように準備することが大切であると語った。開催者と自治体との橋渡しをはじめ、業者との調整、広報など、CVBが開催者のニーズを敏感に汲み取り、ネットワークをいかして問題解決にあたることが、誘致獲得への大きな鍵となる。さらに誘致のマーケティングもCVBで一本化することで、デスティネーションの特徴を強く打ち出すことができること、各地のCVBが質が高く情報量の豊富なウェブサイトを運営することも強くすすめ、マーケティングに説得力を持たせるために、各種の統計記録を把握することの重要性も指摘した。


有能なDMCこそMICE成功の必須条件

 デスティネーションの国際的な評判は、次の誘致獲得の大きな力になる。誘致成功後、参加者が実際にする「体験」の価値を最大限に引き出すのがディステネーション・マネジメントだ。今回のシンポジウムで2番目の講演者として登場したパトリック・M・ディレイニー氏は、国際的に高い評価を受けているDMC(デスティネーション・マネジメント・カンパニー)であるオベーション・グローバルDMCの代表取締役。ディレイニー氏は、実例を細かくあげながら、MICEの成功におけるDMCの重要性を語った。

 効果の高いDMCとは、MICE開催者の意図や目的を理解し、そのデスティネーションでなければ体験できないようなユニークで内容の濃い観光や食事、宿泊などを的確にアレンジできる組織のことだ。例えば、空港から会場までのアクセスにしても、単にバスやリムジンをアレンジするだけでなく、クラッシックカーや特別仕立ての列車を用意するなど、「体験」に特別性を持たせる工夫が求められる。また、観光もDMCの重要な業務。これも単に観光ガイドをするだけではなく、参加者の興味や嗜好、関連ビジネスなどに応じた「対話のできるガイド」が求められる。

 なかでも特に必要とされるのは、それぞれの地域に関するより深い情報を把握していること。その地方独自の料理からアクティビティまで、参加者の思い出に残る体験に結びつけられる能力が問われる。例えば、ワインテイスティングのプログラムでも、ローカルの人気シェフを呼んで料理との組みあわせを体験させることや、ワインマスターから直接話を聞けるようにするなど、より付加価値の高い体験になるような演出がのぞまれる。日本ならではの「参加型体験」「本場のもの」、そして「地元の人との出会い」が、より印象的な体験を生む要素だ。MICEの誘致には、こうした「良き思い出」を語る口コミが、あなどれない力となるとディレイニー氏は指摘する。

 DMCは、MICE開催者の開催意図や目的を的確に把握し、それをサービスに具体化させる能力が求められる。そのためには「考えるDMC」の養成が不可欠だ。ディレイニー氏もリンドバーグ氏と同じく、MICEの誘致拡大へ向けての人材育成には、海外の見本市への参加や国際組織への積極的な係わりが必要と指摘して、講演を締めくくった。


小さな自治体でのMICEの可能性−グーグルの国際会議・事例

 小さい自治体でもビジネスチャンスはある。DMCについて講演したオベーション・グロー
バルDMC代表取締役のパトリック・M・ディレイニー氏は、昨年5月、アイルランドのキラニ
ーで開催されたグーグルの国際会議を事例にあげ、小さな自治体ならではのビジネスチャン
スを語った。

 キラニーはアイルランドの南西部にある人口1万4000人ほどの小都市。グーグルの会議参
加者は2300名にのぼり、会議開催期間中の街は、文字通りグーグル一色となるほどのイベン
トとなった。

 ディレイニー氏は「最も重要なのはデスティネーション。すべては後からついて来る」と
強調。今回の場合、環境問題に対する企業責任に非常に敏感なグーグル社の意図を汲みあげ
て、あえて小都市での開催を提案したという。キラニーは小さな街だけに、宿泊先から会議
場やアクティビティの現場まで、ほぼすべて徒歩で行けること、さらに周辺の豊かな自然環
境などがセールスポイントとなった。また、街全体で歓迎の雰囲気を盛り上げることができ
たのも成功のポイントだったという。


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取材:宮田麻未、写真:神尾明朗