取材ノート:カナダ復活に手ごたえ、持続的発展へ−JATAミッション派遣

  • 2010年7月8日
 ビジット・ワールド・キャンペーン(VWC)の重点デスティネーション指定後、カナダへの送客増加に向けた取り組みが活発化している。エア・カナダ(AC)のカルガリー直行便就航を追い風に、今年の日本人訪問者数30万人の必達、そして、かつて50万人市場であったカナダの復活をめざすものだ。カナダ側関係者と日本の旅行会社が共同でアクションプランを計画し、その一環として日本旅行業界(JATA)がミッションを派遣。座談会や視察では、単なる意見交換以上の成果があった。今回は座談会の内容を中心に、デスティネーション復活に励むカナダの動きを紹介したい。
                    
                    
「眺める」から「体験する」へ

 JATAカナダ・ミッションは5月30日から6月5日の日程で、日本・カナダ観光促進協議会と現地視察を実施した。参加メンバーは、団長を務めたJATA副会長の佐々木隆氏をはじめ、旅行会社のトップや海外旅行実務の代表クラスを中心とする13名。協議会にはカナダ側から現地の観光局やサプライヤーなどの上層部や日本担当者が参加し、両国の海外旅行のキーパーソンがそろった。

 今回の協議会は座談会の形式をとり、参加者同士が近い距離感で率直に発言しやすくしたのが特徴。4つのグループに分け、カナダ送客への「機会」と「障壁」をテーマに意見を交わし、各テーブルから右表の項目が出された。

 最も多く出されたキーワードが、「体験」だ。「自然を見るだけでは一回の旅行で終わってしまう」「雄大な景色をフックに、何かを体験する方向に変えるべき」というように、多くの参加者が「眺める」から「体験する」への転換の必要性を感じていた。「カナダは体験型素材が多いのに知られていない」との発言もあり、カナダ側の情報発信不足と日本側の知識不足を指摘しあった。また、「体験」を増やすことで、これまで大自然の景色を楽しむ旅行をしていた層の再訪を促せるとし、「リピーターの少なさ」の改善にも繋がるとのコメントもあった。

 このほか、マーケットではアクティブ・シニア層、若者層/学生の開拓とMICEの開発に期待が寄せられた。このうち、若者層/学生では教育旅行を筆頭にボリュームと閑散期対策として有望との意見があがった。例えば、冬季オリンピックの開催をいかし、スポーツ滞在地として冬の「スキー/スタディ」の可能性だ。MICEについては、旅行会社向けの教育や販促ツールの作成などが話された。


航空座席対策はシーズナリティの解消

 障壁としてあげられた「航空座席のキャパシティ」は、日本の旅行会社にとって関心の高いところだ。エア・カナダ(AC)が3月29日に、成田/カルガリー線を週3便で就航したものの、現在の日本/カナダ間のフライトはACの成田/バンクーバー線、カルガリー線、トロント線の週17便と、日本航空(JL)の成田/バンクーバー線の週7便で、関西便はない。座談会では秋以降に予定される羽田発着のアメリカ路線や、復便したデルタ航空(DL)の関空/シアトル線などの経由便を利用する案が出された。しかし、そのほかは現在の座席数を埋めて航空会社の増便意欲を高め、席数増加をめざすとし、直接的に航空座席不足をカバーする意見は見出せなかった。

 AC日本地区旅客営業・マーケティング本部長のワイス貴代氏にカルガリー線の状況を聞いたところ、「就航後、予想以上の推移。夏の予約も好調で目標を達成できる見込み」だという。ただし、冬季はスロットがないため、当初の予定通り夏期運航のみとなる予定。「プレジャー路線であるため、通年でしっかり送客できる環境が必要。それが見込めれば(運航)したいという意向はACとしてある」と話し、「そういう意味でVWCに期待している」とショルダーシーズン対策に期待を示す。ACも冬季のプロモーションを継続していく。

 課題となったショルダーシーズン対策は、座談会では「シーズナリティの拡大」として販売機会にあげられた。VWC2000万人推進室長の澤邊宏氏はキーポイントとして5月、6月の春旅をあげ、「冬は一足飛びにいかないが春は可能性がある。さらに、春旅で冬の名残の風景に出会えば冬旅を垣間見ることになり、旅行の幅を広げるきっかけになる」とし、「春と冬の需要がなければ30万人以上に成長することは難しい」といいきる。

 ミッション後の6月下旬、VWCとCTC日本支社は送客増加に向けた次のステップを協議。2010年冬旅と2011年の春旅の対策として、カナダ側から素材を打ち出し、旅行会社に提供していく予定だ。


熱気を送り、業界あげて持続的な発展へ

 VWCとCTCは今年の日本人旅行者数を前年比50%増の30万人を目標とし、来年以降も継続して成長していくことをめざしている。ただし、急激な伸張よりも「緩やかな上昇曲線を描く方が大切」(佐々木氏)というように、ミッションでは「サスティナブルな発展」を求める声が多く聞かれた。カナダ運営委員会のマイク・ルビー氏も「これからの将来のために、ともに働きあって観光産業をあげていくことが大切」とし、ミッション副団長を努めたANAセールス顧問の北林克比古氏も「どこかが無理をしても持続的な発展は望めない。そうした関係作りをめざし、開発していく必要がある」と、その重要性を話す。そのためにも、日本とカナダ両国の連携を強固にして取り組むことが大切となってくる。

 そういう意味で、今回のミッションは意義深いものになった。ミッション終了後、佐々木氏の「カナダ側がいかに真剣に取り組もうとしているかがよくわかった」という感想をはじめ、日本側とカナダ側双方の参加者から「フェイスtoフェイスで話ができたのがよかった」「一緒にカナダを盛り上げようという気持ちが伝わってきた」というコメントが聞かれた。「復活に手ごたえを感じた」と捉えた人も多い。

 ミッション中の挨拶で佐々木氏が「自分たちができると思わなければ、『復活』することはできない」と語り、日本とカナダ側双方の参加者から大きな拍手を受けていた。澤邊氏も「業界が熱気を持って取り組めば、カナダは必ず現状以上に良質のデスティネーションに変えることができる」というように、送客側と受入側の双方が良好に連携し、デスティネーションの良さを維持しながら利益を享受しあい、長く発展が続いていくことを期待したい。


始動した新たな取り組み

 送客増加の取り組みは、既に各所ではじまっている。
例えばカナダ側ではVWCの指定後、CTCと日本駐在の5つ
の各州観光局(ブリティッシュ・コロンビア州観光局、
アルバータ州観光公社、オンタリオ州観光局、プリンス
・エドワード島観光局、ユーコン準州観光局)、ACが、
「チーム・カナダ」を結成。送客増加に向け、それぞれ
の担当を越えた活動をはじめた。

 そのひとつが、6月まで実施していた夏のキャンペー
ンだ。「仕事のストレスにお悩みのあなたに」など、ウ
ィットに飛んだキャッチをつけたビジュアルを露出した。
CTC日本代表のアンソニー・リッピンゲール氏は「今ま
でにないカナダのイメージを出していく。少しずつ変わ
ってきている」と説明する。

 さらに販売スタッフへの教育として、各旅行会社の支
店にチーム・カナダのスタッフが訪問するセミナーを開
始した。どの州の担当者が行ってもカナダ全体の説明を
するようにして、既に300名から400名ほどの旅行会社ス
タッフと対面したという。リッピンゲール氏によると、
カナダは80%から85%が旅行会社の店頭や電話経由で販
売されており、「これをカナダとしてアドバンテージと
し、店頭セミナーをキャンペーンの一部として実施して
いく」との考えによるものだ。

 今後は航空座席についても経由便を利用し、カナダと
アメリカをコンビにした2国プロモーションも実施した
い考え。「消費者としてもヨーロッパのように1回で2国
に行けるメリットがある。アメリカ経由の旅行はカナダ
のビジネスを奪うものでなく、ビジネスをもたらすもの
として考えたい」と話す。

 一方、旅行会社でも新しい取り組みがはじまっている。例えば、座談会で話された春旅
の商品化をした旅行会社も多い。阪急交通社東日本営業本部メディア営業三部部長の新井
富雄氏によると、売れ行きは好調。「春は価格が安いので、『時間があるので、どこか海
外に行きたい』という客層を取り込んでいる」という。「今年は50%増は堅い。10月29日
までに売る考え」としており、春旅をうまく取り込んだことがうかがえる。

 ジェイティービー(JTB)でも期首パンフレットで、春、夏、秋の旬の魅力を伝える
「彩の四季キャンペーン」のページを用意したほか、家族向け商品「わいわいファミリー」
で、カナダ商品の露出を昨年の1ページから今年は8ページに拡大。6月中旬で既に前年比
40%増の好調な推移だという。

 このほかVWCでは、カナダ駐在の日系ランドオペレータ協会と連携を開始。現地から日
本の親会社や契約会社への新規素材提供を活発化するように依頼し、協力を得たという。
VWCを発端に、カナダは多くの関係者を巻き込みながら復活への歩調を強めている。こう
した取組みは数を落としている他のデスティネーションにとっても参考になるだろう。


取材協力:日本旅行業協会(JATA)、チーム・カナダ(カナダ観光局(CTC)、
ブリティッシュ・コロンビア州観光局、アルバータ州観光公社、オンタリオ州観光局、
プリンス・エドワード島観光局、ユーコン準州観光局、エア・カナダ(AC))
取材:本誌 山田紀子



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