取材ノート:環境への意識の高まり−これからの旅行ビジネスのあり方

  • 2010年4月13日
 環境問題への意識の高まりを受け、旅行業界もいずれ対応を迫られることになる。「日経エコロジー」誌編集長の神保重紀氏は、2月のJATA経営フォーラムの分科会で「環境ビジネス最前線〜新しいビジネスフィールドはここに〜」と題し、環境問題をめぐる世界の現状と企業の姿勢、そして消費者の反応を分析し、これからのビジネスのあり方を提示した。

                            
「売れる」エコ商品、“一人勝ち”の商品も
                                          
 日経BP刊行の「日経エコロジー」誌は1999年に創刊された、環境と経営の未来を考える“環境経営”応援マガジンだ。30代、40代の母親向けの別冊季刊誌「ecomom(エコマム)」も発行しており、世間一般よりもさらに意識が高い「子どもを持つ母親」をターゲットにしている。創刊時よりも深刻さを増した環境問題と、それに対応する企業や人々の意識などを10年にわたりウォッチしてきた雑誌といえる。

 同誌の編集長を務める神保重紀氏によると、近年ますます高まる環境への問題意識は一般消費者にも浸透し、商品の多様化に大きな影響を与えている。大ヒット商品となるエコ商品も多く、さまざまな業界で「エコ」をうたった商品が売り上げの独走状態となるケースもある。

 その好例がトヨタ自動車のハイブリッドカー「プリウス」だ。自動車業界の売り上げの傾向は、同車の登場で一変した。それまでは価格が安く燃費もいい軽自動車が売り上げの3位、4位くらいまでを占めていたが、2009年5月からの9ヶ月間、新車販売数のトップはプリウスとなった。もちろん減税や補助金などの政府政策も売れゆきを後押ししてはいるものの、「多少、値がはっても環境にいいものを」という考えを持つ消費者が増えているという証である。

 また、興味深いのは一代目のプリウスの売り上げはそれほど目覚しくはなかったが、デザインを今のような「近未来風」にしたことで一気に売り上げを伸ばしたということ。神保氏によれば「一代目は一般の乗用車と見た目が変わらなかったが、新デザインは一目でハイブリッドカーであることがわかる。これに乗っている人は“環境に気を配っているかしこい人”というアピールにもなるので、購入した人の満足感が高まる」のだそうだ。

 同じように、デザインを一工夫したことでその性能をアピールしている例としては、日本コカ・コーラの販売するミネラルウォーター「い・ろ・は・す」があげられる。この商品の特長はボトルを軽量化し、捨てる際にタオルのように小さく絞れ、スペースを省略することができるほか、軽量化により運送業者にとっても燃料などの削減につながるということ。だが、ここで注目されたのは、ミネラルウォーターでは珍しい緑色を基調としたパッケージデザインだ。エコ商品であることをより強くアピールし、累計2億本を売る大ヒット商品となったのではないかと神保氏は分析する。「消費者は中身のよさだけで買うのではない」と、デザインによる参加意識の喚起の重要性を話した。

 ほかにも、完全にリサイクル可能なスイス製水筒や何度も繰り返し充電して使える乾電池、電動自転車などは従来の商品よりも高くとも環境に優しいという点が評価され、よく売れているという。また、JTB関東が法人向け商品「CO2ゼロ旅行」を販売しているように、旅行業界にもエコ商品開発の動きが波及しているという例をあげた。


旅行商品への応用
ポイントは「かっこよく」「参加」できること


 「プリウス」がヒットしたのは、エコを気にかけることは“かっこいい”ことであり、それを所有(利用)しているだけで“環境にやさしい自分”を対外的にアピールできることがポイントだと、神保氏は述べる。つまり「ただ環境にやさしいだけでは売れない」のであり、従来品の代替用品ではなく環境+αの付加価値が必要だという。

 旅行商品の場合、ただ自然を見に行くだけではなく実際に参加できる自然体験をさせることが重要で、こういった活動に参加できるというだけでも多くの人を呼ぶことができる。「ecomom」誌上で植林体験などを企画し、参加者を募集すると「瞬く間に定員がいっぱいになる」といい、環境問題だけでなく教育的な観点からも、子どもを持つ母親には特に受けがいいのだそうだ。こうした体験型の旅行は参加した人々が改めて環境問題を見つめ直すきっかけにもなり、社会貢献につながるといえる。神保氏は「旅行業者が消費者に対し積極的に提案を」と述べ、価格よりも「参加意識や貢献意識を得られる工夫が売れ行きにつながる」と語った。

 企業として温暖化対策に取り組むことはもはや「社会貢献」ではなく「社会参加」。どんなサービスや商品も環境に配慮していなければ売れない時代がやってくる。単なる「エコ」とうたうだけの商品は消費者にすぐ見破られてしまう。企業側は環境への理解を深めるとともに本当に環境に良いのかを吟味する目を持たなくてはならない。それには環境問題に取り組むNGOやNPOをアドバイザーとして活用することや、「生活者と同じ視点を持つことも大切」とのことである。


取材:岩佐史絵