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誰も知らない国を売る-ユーラシア旅行社のツアーGP受賞商品

ヨーロッパロシアの6共和国で特別賞
再受賞の上野氏「旅行会社の原点回帰」

-日本人には馴染みのない国々へのツアーを造成する上で、苦労はありましたか

タタールスタンの国境で写真撮影する参加者(写真提供:ユーラシア旅行社)上野 極端に困ったことはありません。辺境の未承認国家なども含めて約170ヶ国を商品化している当社にとって、ロシア連邦はツアーを造成しやすい先進国です。あえて言うなら、日本にもオフィスを構えているようなメジャーなツアーオペレーターはこれらの国々を取り扱っていないので、自ら現地のオペレーターを探して、手配を依頼する必要があったことくらいです。

 このツアーで訪れる国や都市は、日本でこそ知られていませんが、ロシアでは良く知られた国や都市で、治安も良く、ロシアのオペレーターにとっては通常の仕事で取り扱える範疇に入ります。ただし、日本人旅行者を扱った経験がない会社が多いので、注意事項などについては事前にしっかりと打ち合わせをしました。また、これらの国々では日本語ガイドが見つからず、だからといってモスクワなどから連れてくることも難しかったので、代わりに質の良い英語ガイドを探しました。

 「小さな共和国」とは言っても、昨年のサッカーワールドカップ大会で日本代表がキャンプ地に選んだタタールスタンのカザンや、バシコルトスタンの首都のウファなどは大都市ですし、ホテルも充実しています。モルドヴィアの首都のサランスクなども立派ですし、その他の都市も、近郊に工業地帯があることなどから道路の整備が行き届いていて、快適に移動できます。マリ・エルの首都のヨシュカル・オラだけは、ホテルの数が限られていて少々苦労しました。

-ツアーの販売実績についてもお聞かせください

上野 昨年の11月と今年の5月にそれぞれ1回催行し、今後は9月の催行が決定しています。過去2回の参加者数は平均15名程度で、ほぼ想定通りでした。1回あたりの参加者数は少なくても、末永く安定的に送客していける商品をめざしています。

 短期間で大量に送客し、現地サイドに期待を持たせておいて、コスト面で叩くような送客はしません。適正な利潤を得ることは大事ですが、我々の儲けのために値段を下げさせれば、結局はツアーの内容が悪くなりますし、それは旅行会社にとっても現地にとっても良くありません。これまでのツアーでは、お客様から「もっと各共和国の違いを感じたい」といった声が聞かれましたので、そのようなご意見に耳を傾け、内容を充実させながら継続していきたいと思います。

-日本では誰も知らない国や地域を商品化する意義やメリットについて、どのようにお考えですか

上野 私は、世界地図を眺めて「ここには何があるのだろうか」と思うことが、旅の原点ではないかと考えています。そう考えると、知名度の低い国々や地域を訪れるツアーを造ることは、旅行会社としての原点回帰につながります。「変わったところ」への需要は衰えることはないので、大々的な宣伝こそしませんが、知的好奇心をくすぐるイベントなどを開催したりして、地道にアピールしていきます。

 人々の旅行会社離れが進んだり、各地でオーバーツーリズムが問題化したりする背景には、旅行会社による大量送客があると思いますが、有名な観光地への大量送客は観光地に歪みを生み、疲弊させます。それに対して、無名の地への送客には、歪みと疲弊を緩和する効果があります。

 また、複数の国や地域を巡り、何回も国境を超えることで、旅行者の世界観も変わり、国家というものを考えるきっかけになるかもしれません。ロシアの小さな共和国を訪れて、イスラム教のモスクとキリスト教の教会が仲良く並んで建つ姿や、複数の言語で表示された道路標識を目の当たりにし、1人でも多くの旅行者に平和と共存の尊さを理解していただくことができれば、平和産業である旅行産業に携わる一員として、喜ばしいことではないでしょうか。