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【リクエストインタビューvol.1】先駆者に聞く、日本版DMOの課題とこれから―Intheory村木智裕氏

  • 2022年5月19日

DMOの理想形は公益と共益の間
ロジックとセオリーに基づいた戦略を

 読者諸氏の「あの人の話を聞きたい」を実現する新企画、第1回のリクエストは、せとうちDMO立ち上げの立役者であり、現在はDMOの設立や戦略立案を手がける村木智裕氏。公務員を辞してDMOなど観光地のマネジメント組織のサポートに力を注ぐ村木氏に、せとうちDMO立ち上げにまつわるエピソードや日本のDMOが抱える課題を聞いた。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)

Intheory代表取締役社長の村木智裕氏

-まずは事業とご自身の紹介をお願いいたします。

村木智裕氏(以下敬称略) 以前は広島県の職員として20年勤めていました。財務関係の業務や秘書業務を経て、せとうちDMOを構想するために立ち上げられたプロジェクトチームに配属。これが観光キャリアのスタートになりました。

 せとうちDMOの立ち上げから7年ほど経つと、DMO黎明期から関わってきた経験を買われ、各方面から「手伝ってほしい」とお声がけいただくようになりました。そこで、公務員のままでは異動もあるため、退職してIntheoryを設立。社名には「DMOが機能するために必要な仕組みは何か、地域単位のマーケティングとはどういうことかを、普遍的なセオリーやロジックから外れずに考えていく」という意味を込めています。

-せとうちDMOは日本版DMOのパイオニア的存在で、ご苦労も多かったと思います。

村木 構想から立ち上げまで3年かかりました。「せとうち」という広域エリアでマーケティングを行うことについてメンバーである7つの県とディスカッションを重ねるなかで、思うように進まず心が折れそうになるときもありました。ですがオリンピック・パラリンピックの東京開催が決まり、インバウンド対策という課題が出てきたことにより、一気に広域でやる意義が理解され、話が進みました。

 状況が動き始めてからの大きなミッションは、組織構成とマーケティング施策の方針を明らかにすることでした。まず、一定の投資がないと地域事業者の成長が期待できないため、地域にお金が集まる仕組みを作ることを目的に、DMOの立ち上げと並行して銀行による事業者支援の組織とファンドも金融機関が中心となって作ってもらいました。マーケティングを担う行政サイドと事業者支援を行う投資ファンドサイドの両輪で回していく必要があったのです。

-ファンドの具体的な役割はどのようなものだったのでしょうか。

村木 コンセプトは事業化支援です。事業家には金銭面だけでなくソフト面のサポートも提供します。地銀中心の銀行団で100億円が集まったものの、果たしてリターンがあるのかどうかが議論になりました。観光需要が地域で高まらないと、そもそも支援対象となる事業が立ち上がらないので、行政側がどれだけ効果的なマーケティングをできるかが肝だと考えました。

-そこで先ほどのマーケティング施策が出てくるわけですね。

村木 はい。私自身もマーケティングを担う行政側の中心メンバーとして4年間活動しましたが、本当にゼロから学びながら試行錯誤して形を作っていきました。最初の半年はほぼ事務所にはおらず、インバウンドマーケティングに詳しそうな人に片端から会いに行きました。

 その後、海外の観光局などとも会ううちに、徐々にインバウンドマーケティングのグローバルスタンダードが分かり始め、今度はそれを日本で実現する方法を模索しました。地方はOTAに加え、リアルエージェントとのネットワークが重要になる場合もあるので、海外とのリレーションをどう構築するのか、またマーケティングの「4P」のカテゴリごとに、漏れがないようそれぞれの分野で得意な人に話を聞いて回ったりもしました。

 1年がかりでようやくマーケティング戦略が定まり、DMOのボードメンバーにも承認を貰い、オフラインのPRから旅行会社対策、デジタル環境の整備などを順番に整えていきました。

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