持続可能な宿泊施設に向けて攻めの一手ーべっぷ野上本館社長野上泰生氏
別府の特徴を活かし長期滞在の誘致を
地域とともに生きる宿泊施設へ
野上 壊滅に近い状況だと思います。年が明けてから、五輪に向けて回復するだろうと予想していましたが、Go Toキャンペーンは始まらず、旅行振興策も県内だけなど、きつい状況が続いており、これからさらに悪くなるのではと危惧しているところです。宿泊業はまだいい方ですが、飲食業への影響はかなり大きい。大分県には緊急事態宣言が出ていませんので、自粛や時短営業でも協力金は出ません。都市圏よりも厳しい状況ではないでしょうか。
別府では「ANAインターコンチネンタル別府」や「星野リゾート界別府」が開業し、今後も大手資本のホテルの開業などで1500室ほど増えると言われています。もともと5000室のところに3割ほど増える計算になり、これは旅館業にとっては大きな影響です。地域全体で伸びないと、厳しい状況になると思います。特にハイエンド旅行者で勝負している旅館などは競争がさらに激しくなるでしょう。
野上 まず、これまで夕食で使っていたスペースは朝食以外では使わなくなりましたので、朝食後はラウンジとして開放しています。今後は、そのスペースや宴会場を活用し、夜の街で働く女性のために新たに託児サービスができないか検討しているところです。
「野上本館」について言うと、現在のビジネスモデルは減価償却も終了しているため成立しますが、今後の建て直しを考えるとき、今のモデルは通用しないと考えています。そのなかで、新しい収益性の高いモデルとして、「シンプルステイ別府」のようなロングステイの滞在型宿泊施設にする事業計画を策定しています。
その前に、まず東京に自社で土地を買い、民泊のいいところとアパートホテルの効率的なところをミックスした事業モデルを始める計画です。全9部屋のうち8部屋を自社オペレーションで運用し、最終的には直販で販売する。そのチャレンジで得たノウハウを別府に持ち帰り、同様のビジネスモデルとして展開していく計画です。全15室の温泉付きアパートメントホテルを想定し、一部を滞在型宿泊施設に、一部をウィクリーマンション賃貸にする構想です。
コロナ禍では、事業再構築補助金や資本性劣後ローンなどファイナンスの面で有利になる制度があるので、それを最大限活用しながら、新しい事業を立ち上げたいと考えています。
大手資本とどのように差別化するかが重要です。コロナ禍で多拠点居住やワーケーションのマーケットが拡大し、長期滞在の需要が高まると思います。東京から地方だけでなく、地方から東京の移動も増えてくるのではないでしょうか。しかし、そのニーズに応える宿泊施設がまだ少ないと思います。
野上 別府全体で見ると、旅行形態は一泊二食の宴会型から個人型に変わってきていますが、今後は長期滞在型にいかに転換していくかがカギではないかと見ています。現在、平均泊数は二泊を切っていますが、それを三泊、四泊にするような提案力を地域としてどのようにつけていくか。人手も不足していくと考えられるので、滞在型にした方が地域にとっても有益になると思います。
ワーケーションが、それを考えるきっかになっていると思います。別府は、温泉があり、物価が安く、食べ物もおいしい。ロングステイには非常に適したところです。私としては、そのモデルを示したいと思っています。
野上本館では現在、提供しているのは朝食だけです。食事については、周辺の飲食店と役割をシェアし、旅行者にはこの街で暮らしながら、消費してもらう。そういうスタイルを続けていきたい。新しい滞在型宿泊施設の構想でも、1階は地域とつながるスペースにしたいと考えています。