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「夏に向けて需要は必ず戻ってくる」コロナ禍で進める戦略とは-星野リゾート代表 星野佳路氏

雇用調整助成金の活用で固定費の引き下げを
ポストコロナは海外案件と再生事業にも注力

—現在「Go Toトラベル事業」は全国一時停止されていますが、18ヶ月サバイバルプランは継続されていくお考えですか。

星野 この計画を立てた昨年4月の段階で、「Go Toトラベル事業」がどうなるか分からなかったため、それを想定せずにプランを立てました。そのプランには、巨大な国内旅行市場でのマイクロツーリズムの推進も入っています。

 星野リゾートでは昨年6月に市場調査を実施し、そのなかで、旅行に行くことを「迷っている」層が多くいることを知りました。感染することの心配ももちろんそうですが、迷っている一番の要因は、旅行に行っても帰ってこれなくなるのではないかという交通の問題でした。たとえば、家族で旅行に行き、子どもが熱を出した場合、公共交通機関は利用しづらい状況です。

 そこで、星野リゾートでは、全施設での感染対策とともに、自宅から1、2時間程度の範囲を旅行するマイクロツーリズムに注目しました。地域の方々の需要を取り込むために、宿のサービスや料理も変えました。二度目の緊急事態宣言は東京などで発出されましたが、たとえば青森県と秋田県の県境超えを自粛する必要はありません。すべての市場を閉めてしまうと、需要は9割減となってしまう恐れがありますが、マイクロツーリズム商圏を動かせば、4〜5割の需要を取り込むことが可能になると思います。

2019年と2020年(7月・8月)の星のや京都の稼働率の比較。インバウンドの需要減をマイクロツーリズムが補っている

 市場調査によって得られた知見がマイクロツーリズムにつながり、それが7月と8月に稼働実績として表れました。温泉旅館ブランドとして展開する「界」では8月に前年実績を上回るところもありました。9月に「Go To トラベル事業」に参加した後は、全国展開とマイクロツーリズム商圏と組み合わせることで業績を好調に維持し、4月と5月のロスをある程度取り返すことができました。

2019年と2020年(7月・8月)の星野リゾート界 出雲の稼働率の比較。マイクロツーリズムの取り込みで8月は前年を上回る実績となった

 年明けから2回目の緊急事態宣言に入りましたが、それが解除され、「Go To トラベル事業」が再開されると、市場がどのように動くのか、前回の経験から把握済みです。緊急事態宣言は3月7日まで延長されましたが、3月まで我慢すれば、4、5、6月と夏に向かっての観光需要は必ず戻ってくると確信しています。

—コロナ禍で獲得した海外旅行ファンやマイクロツーリズム商圏のお客様は、コロナ後も継続していくとお考えですか。

星野 「国内旅行も昔に比べてかなり進化している」という海外旅行ファンの声も多く聞かれます。毎年夏には海外旅行に行くという層が、国内を見直してくれたのはコロナ禍での大きな成果だと思います。また、「Go To トラベル事業」での割引によって、それまで星野リゾートを利用したことのない方々にもお越しいただく機会になりました。今後、星野リゾートのファンになってもらうチャンスだと思っています。

 星野リゾートでは、「Go To トラベル事業」の一時停止が発表されたあと、停止期間中の予約を持ち、予定通り宿泊を希望する人に対して、当初通りに35%割引を適用する対応をいち早く出しました。お客様の評価は高く、星野リゾートに対する信頼を得ることができたのではないかと思っています。