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日本観光振興協会 オンラインで新春観光フォーラムを開催

「新しい観光スタイルへの挑戦」
DX推進、地域・行政が一体となって新たな価値を

上段左から矢ヶ崎紀子氏、好本達也氏、冨田哲郎氏。下段左から高橋広行氏、高橋飯泉嘉門氏

 新春観光フォーラムには東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)取締役会長の冨田哲郎氏、株式会社JTB取締役会長の高橋広行氏、一般社団法人日本百貨店協会副会長でJ.フロント リテイリング株式会社取締役兼代表執行役社長の好本達也氏、全国知事会会長で徳島県知事の飯泉嘉門氏が登壇し、東京女子大学現代教養学部教授の矢ヶ崎紀子氏がモデレーターを務めた。

JR東日本 冨田哲郎取締役会長「デジタル化と人材育成を」

 日本観光振興協会の副会長も務める冨田氏は、日本の経済成長の鍵は地方の活性化にあり、ポイントとして観光、農業、再生エネルギー、まちづくりの4点を挙げた。なかでも観光は雇用効果が大きく、インバウンドや国内観光もさらに成長が期待できるという。

 一方で観光産業には人手不足や生産性などの課題があることも指摘。都市や大企業がヒト・資金・技術を地方に向けると同時に、地域の企業や大学などの幅広い主体が一体となり、新しい観光を切り開くことが重要だと強調し、まずは業界として雇用を守り、事業を継続した上で、今だからこそ観光の役割の大きさや近未来的な観光の在り方を自ら発信していく必要があると説いた。

 冨田氏は観光産業の生産性の低さの背景にはデジタル化の遅れがあるとし、JR東日本のMaaSへの取り組み事例を紹介。同社では地域交通やマイナンバーカードとSuicaとの連携を開始しているほか、今年4月からは東北を対象としたデスティネーションキャンペーンと並行して「TOHOKU MaaS」を展開し、キャッシュレス化を通じてチケット手配や決済を一つのプラットフォーム上で提供していく構想を示した。今後は交通系サービスから宿泊などにも範囲を広げ、旅に関するすべての商品の予約決済ができるプラットフォームを作ることが目標だという。

 新しい観光需要の創出に向けては、スタートアップ企業との協業、古民家ホテルのリノベーション、ワーケーション、新幹線による荷物輸送などの事例が紹介された。人材育成ではプロジェクトを通じて地域と一体となって行うOJT型が重要だといい、そのなかで地域の新しい観光資源を発信していくことも必要だとした。

 冨田氏は「我々だけでは観光、地域の活性化は難しい」として地域との連携の重要性を強調し、「国には税制優遇など、地方創生に取り組むインセンティブについてご支援いただきたい」と要望。「デジタル化や人材育成を通じ、観光産業全体の生産性を向上させ、魅力ある産業として日本の経済を引っ張っていく時代を必ず作れる」と結んだ。

JTB 高橋広行取締役会長「ツーリズムプラットフォームを広く開放」

 高橋氏ははじめに、コロナ禍により旅行業界もDXが迫られていると言及。ただしDXを進める上で既存業務を置き換えるだけでは不十分であり、いかに新たな価値を生み出すか、「タビマエ」「タビナカ」「タビアト」を通じていかに価値を感じてもらえるかという視点が重要だと述べ、自社の取り組みを紹介した。

 JTBの観光型MaaSは「デジタルの力で交通手段を束ねるだけでなく、さまざまな観光コンテンツを一元的に集約、デジタル化、多言語化し、オンラインでワンストップで提供する」仕組みで、旅行者と観光事業者の抱える課題を解決しながら、魅力ある観光地づくり、地域の活性化にも貢献する。旅行者と観光事業者とをマッチングさせるソフトウェア「JTB MaaS API gateway」は、商品登録販売、決済、複数モビリティ経路検索、利用ニーズに合わせた配車・AI運行策定の4つの機能を備え、観光事業者は旅行者が求めるサービスをワンストップで提供することが可能となる。実証実験では滞在時間や消費支出の拡大にも繋がったという。

 また観光型MaaSを支えるツーリズムプラットフォームは、全国の観光コンテンツをデジタル化、多言語化してワンストップで供給する仕組みで、マーケティング分析やプロモーションにも活用できる。JTBでは自社だけでなく国内外の旅行会社や自治体、DMC、DMOなども利用できるよう広く開放したプラットフォームにしていくという。

 高橋氏はニューノーマルの時代に入っても観光業の寄って立つところは感動の創造にあるとし、「今後はヒューマンタッチとデジタルの力を結集して、持続可能なニューノーマルツーリズムの構築をともに目指していきたい」と締めくくった。

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