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本気のエコ&ラグジュアリー、西豪州「サルサリス」宿泊レポート

  • 2019年5月21日

ネットもスマホも役立たず
世界遺産で過ごす豊かな時間

日中は充実のアクティビティ、「ザトウクジラ」と泳ぐツアーも

アクティビティへ参加するにはメインロッジのボードに名前を記入する

 さらに、サルサリスは複数泊を前提としていて、毎日異なったアクティビティを提供している。基本的には午前と午後それぞれに洞窟や峡谷の散策、スノーケリングなどが用意され、いずれも無料。

 例えば今回トレッキングで訪れたヤーディー峡谷は、このエリアでは唯一常に水が流れている場所で、周囲との植生の変化を感じるだけでも面白いし、運が良ければエミューやカンガルー、ロックワラビー、ディンゴに出会うことができ、あるいはトカゲや蛇などを見かけることもあるという。

トレッキング中に出会ったロックワラビー(上)と脳サンゴの化石。サルサリス敷地内ではカンガルーの姿も

 またスノーケリングも、東海岸のグレート・バリア・リーフの知名度には及ばないものの、実力は十分。ジュゴンやマンタレイ、ウミガメなどに会える可能性がある。シーカヤックやスタンドアップパドルボードの道具なども取り揃えている。

 このほか、追加料金を払えばジンベイザメのツアーに参加することも可能だ。本稿の冒頭でジンベエザメの生態に変化はないと書いたが、実はツアー催行25年の積み重ねにより遭遇率は向上しており、現在の確率はなんと97%。また、こちらはまだ開始3年で遭遇率も77%だが、近年はザトウクジラと泳ぐツアーも人気となっているという。


困難を楽しむ気持ちで広がる世界

施設の従業員がそのままガイド役に。彼らのホスピタリティにも癒やされる

 長短両面を書いてきたが、では本当にもう一度行けるかというと率直にいって分からない。まず自分はその気でも同行者が受け入れられるかが課題となる。例えばドライヤーが使えないのは、私の妻にとってはそれだけで俄然ハードルが高くなるようだ。

 また、すでに書いた通りメールすら確認できず、有事の備えとしてはかろうじて代表番号を伝えることができるだけというのも、現役社会人としてはなかなか厳しい。それに、せっかく行っても、天候次第で景色を楽しめなくなったり寝るのも一苦労となるかもしれない。

施設から車で10分程度の「ターコイズ・ベイ」。沿岸部はキャンプサイトも豊富で、州政府観光局が予定するセルフドライブプロモーションとも親和性が高い

 とはいえ、繰り返しになるが非常にユニークな場所であるのは事実。そもそも名ばかりのエコフレンドリーとは格が違い、話を聞いていると不器用なまでの姿勢に畏敬の念を抱くほど。もしかしたら世界にはもっとスマートにエコとラグジュアリーを両立させる施設もあるかも知れない。しかし、困難さをあらかじめ理解し逆に楽しむ心づもりで行くことができれば、ほかにはない豊かな時間が得ることができるはずだ。

 エコとは、快適とは、生活とは――。サルサリスは、私たちが日ごろ当たり前と考えているものをリセットできる、そんな場所だ。否が応でも自然と向き合うこととなる。こんな環境で働くとどんな毎日だろう、などと思い始めると人生にまで考えが及ぶ。そういった意味では、子供連れでの旅行先としても可能性を感じられるのではないか。

2017年末に完成した地域のビジターセンターでは水族館や歴史の展示も。エクスマウスは米軍の基地建設に伴ってできた街という

 例えば旅行会社が不便を多少なりとも緩和する手伝いをし、あるいは事前にしっかり説明して覚悟を決めてもらうことで、日本からの旅行者が彼の地を訪れて美味しい料理と飲物を楽しみ、美しい自然を満喫し、世界の誰かと仲良くなったとしたら本当に素晴らしいことだと思う。