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「FSA」トップに聞く:アルパインツアーサービス代表取締役社長の芹澤健一氏

顧客と現地、それぞれと強固な信頼関係構築
次世代がいきいき働ける業界に期待

-御社の強みはどこにあるとお考えですか
木をふんだんに使ったオフィス

芹澤 当社の使命は「一人では行けない、でも行きたい」という場所にご案内し、顧客に心から「行って良かった」と思ってもらえるような付加価値の高い商品を造ることにある。これは使命であり宿命であり、終わることのない課題だ。そのためATSの商品はすべて社員による実体験を基に造成している。地図の上で作ったり、どこかの真似をするのではなく、その地へ出向いて現地踏査するのが基本。そのためにはお金も時間もかかるが、そこは譲れないポイントだ。社員はみな山好きで、好きなことを仕事にしている。逆に言えば他のことに興味はないし、他のことはできない。これが大きな強みと言えるだろう。大切なお客様のために大好きな山のツアーでベストを尽くす、これがATSの企業文化になっている。

-いわゆる一般的な旅行会社とは構造からして異なるわけですね

芹澤 旅行会社の下にツアーオペレーターがいて、その下に現地サプライヤーがいるという構図とは全く違うので、実は自分たちは普通の旅行会社をやっているという感覚がない。企画運営、宣伝販売、オペレーション、運行すべてを自分たちでやっているので、航空座席も客室も仕入れの条件は年々厳しくなっているものの、OTAにも脅威を感じてはいない。

 そう言い切れる大きな理由は、現地のサプライヤーと直接渡り合ってきた歴史があるからだ。世界中の山や自然が舞台ではあるが、各国の文化や歴史、習慣、宗教などに違いがあるなか、日本のツアオペを通すのは無理がある。しかし当社では、大切なお客様を受け入れて最後まで安全にツアーを運行するため、現地パートナーとの信頼関係を長い時間をかけて構築してきた。だからツアーの質を保つことができ、この先も発展性をもって持続可能な仕事として続けていくことができると思っている。

-具体的な商品づくりはどのようにされていますか

芹澤 オフシーズンに現地踏査や企画を立案し、商品が出来たら一緒に働く現地ガイドをゲストスピーカーに招いて営業所のある東京、大阪、名古屋、福岡で説明会を実施している。地域密着で手堅い誘客をめざす時、説明会はとても重要。こうした丁寧な説明を聞けば、他社で同じようなコースが数万円安くなっていても、浮気せずに何十年も当社を選んでいただける。またこうした説明会を通して現地ガイドに当社の在り方を示すことで、現地での受け入れ態勢がより強固に構築されていく効果もある。ただ、この方法は手間と人と費用がかかる。

 一方、時代とともに世の中の状況も変わり、商品にも柔軟性が求められている。私が20代でこの仕事を始めた時はリタイアした60代がお客様の中心だったが、現在では60歳から65歳は少数派となり、最も多いのは70代前半で、80歳を超えても歩きたいというお客様も少なくない。こうした状況では、縦軸で年齢が広がっていくなか、横軸で幅広い商品ラインナップが必要。このバランスを見ながら商品づくりも工夫と改善を繰り返している。