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キーパーソン:JATA理事・事務局長の越智良典氏(後)

安心・安全の確保に向け日々の努力を
旅行会社が損をしないためには

─中小企業がリスク対策会社と契約することは資金面で難しいのでは。「JATAサイバーリスク団体保険」のように複数社で情報武装することは可能ですか

越智 以前にリスク対策会社と交渉したこともあるが、色々と制約があり難しかった。その代わりと言っては何だが、JATAのウェブサイトの会員向けページでは、東京海上日動リスクコンサルティングの協力により、13年から「海外安全トピックス・海外危険日情報」を無料で提供している。ラマダンなどの日程や、デモが予定されていて危険度が高い日など、ある程度の情報は得られるようにしている。

─14年には、レベル4の退避勧告が発出されていたアフリカのニジェールに、ある中小の旅行会社がツアーを送り込んで注目を集めました

越智 JATAのガイドラインでは、レベル3以上の地域ではツアーを催行すべきでないとしている。しかし会員のなかには入念な下見をし、軍隊に警護を依頼するなど独自のリスク対策を講じた上で、信念をもってお客様を送り出す旅行会社もある。JATAとしてはガイドラインを遵守してほしいところだが、そのような会社は単に無謀なツアーを催行しているわけではない。大手とは異なる戦略で、特定の強みを活かして勝負に出ているのだと思う。

 旅行会社が催行するツアーには、旅行会社のツアーならではの“重み”がある。我々には、お客様の命を預かった上で旅を楽しんでいただくという使命があるが、その旅先が危険度の高い土地である場合は、十分な裏付けと確信があるのであれば、催行すればいいと思う。ただし、お客様に十分な説明をできるようにするためには、通り一遍の努力ではいけない。

 最近では、12年にアミューズトラベルが万里の長城で3名の犠牲者を出した時のように、怪しげな旅行会社が現地スタッフ任せのツアーを造成して販売しているケースも散見されるので、消費者には注意を呼びかける必要がある。以前、ある旅行会社の社長と話していたら「ランドオペレーターを通すと高くつくから、現地の知り合いに手配を頼んでツアーを造成している」と聞いて驚いたことがあった。そんな重みのないツアーでも、インターネット上では売れてしまうことがある。怖い話だと思う。

 そのような会社には、ツアーが事故に遭った時に果たしてどうなるのか、といったことは想像もできないと思う。KNTの海外旅行部長時代には、経営陣が事故後の謝罪会見で「人でなし」と罵られる姿を目の当たりにした。それが何かが起こってしまった場合の現実だ。2月末に開催する「JATA経営フォーラム2017」では、体験型セミナーとしてシビアな模擬記者会見を開く予定なので、ぜひ注目してほしい。

─今後も海外旅行に対してシビアな状況が続き、旅行者がますます及び腰になった場合、旅行会社はどうするべきですか

越智 ひと昔前はリスク対策会社も「旅行会社に『安全に関する情報を買いませんか』と提案したら、『お客様が逃げるからそんな話はやめて下さい』と言われた」といった笑い話をしていた。しかしインターネットが発達した今日では、旅行会社が情報を隠し続けることは難しい。多くのお客様が外務省の「海外安全ホームページ」をチェックしているし、DeNAトラベルなどは「たびレジ」とシステムを連携させて、お客様への情報提供に努めている。

 今後はすべての旅行会社にとって、リスク対策の強化が必要になるが、そのことが結果的には旅行会社をお客様に売り込むチャンスにつながると考えれば、ものの見え方は大きく変わる。特にJATA会員の多くを占めるリアルエージェントは、「そこまで取り組んでいるのか」とお客様に知っていただくことで、安心感を高めるべきだ。少々値段は高くても「安心できるものには価値がある」とお客様が認める時代になってきていると思う。

─ありがとうございました