通訳案内士のインバウンド考:第6回 悲喜こもごものお土産ショッピング

  • 2011年2月8日
 2011年最初のコラムのテーマは「ショッピング」です。買い物は旅行の楽しみのひとつですが、お客様が探し求めているものや興味をひかれるものは多岐に渡ります。観光庁の訪日外国人消費動向調査でも、中国人が電化製品の購入率が高い一方、米国人は着物や民芸品を好んで買うなどざっくりとした傾向がわかります。でも、実際の現場ではやはり一筋縄ではいかないもの。実際にお客様と接していると予想外のリクエストの連続だったりしますが、お客様の満ち足りた思い出がご帰国後も続くよう、ガイドはショッピングの場でも奔走しています。


その土地のモノと思い出を持ち帰る
こだわりのコレクターズアイテムは必須アイテムか


 一般的な「お土産」とは、その旅行先を代表するモノや食べ物ですが、「土から産まれる」と書くだけあって、訪れた国や地域のかけらを持ち帰る旅の大事な要素なのでは、と私は思います。もちろん、日本で売られていてもメイド・イン・ジャパンではないことは少なくはありませんが…。とはいえ、お土産はお客様にとっては「日本で買った」記念の品。華やかな色づかいの和小物は日本土産の代表格として、特に日本に初めて来たお客様には人気があります。

 一方で、「自分の国では当然あるのだからここにもあるはず」という、自分の中での「定番土産」を探し求めるお客様もいらっしゃいます。わかりやすい例でいうと、某コーヒー店のタンブラーです。世界中にあるチェーン店なだけに旅行先でご当地タンブラーを必ず買うというファンもいます。それと同じ感覚でお客様のご要望を受けて、困ってしまったことがあります。

 個人のお客様を連れて都内観光をしていた時のことです。「TOKYOと書いてあるショットグラスがほしい」といわれ、浅草寺周辺のお店を1軒1軒探したのですが見つからず。東京と書いてあるおちょこや湯のみは発見したものの、「それではダメだ」の一点張り。

 その方によると、アメリカの観光地では地名入りのショットグラスが売っているそうで、自分は必ず旅行先で買うようにしているとのこと。残念ながらこのお客様のイメージするお土産は見つかりませんでしたが、こうした「訪日客が探しているお土産」をヒアリングすればヒット商品が生まれるかもしれません。


日用品や菓子類は富裕層にも大人気
買い物そのものが日本観光


 旅行者向けの土産物だけでなく、日用品に感激するお客様も多くいらっしゃいます。お土産スポットとして100円ショップが人気だということは周知の事実ですが、英語で書かれた有名ガイドブックには店内に激安品が所狭しと並べられた「ドン・キホーテ」も紹介されています。

 実際にお客様をお連れするとお客様のテンションは最高潮に達します。見るものすべてが目新しいようで、質問の嵐。「これは一体なんだ?」とイカのスルメを指差し、「これは安い!」とお箸を大量購入。まさにショッピングはエンターテイメントといわんばかりの勢いです。

 多くの訪日旅行者はこうした場所でのお買い物を通じ、「普通の日本人の生活」を垣間見る機会を得て、旅行者としての楽しみを覚えるようです。そんな理由も手伝って、スーパーやディスカウントストアでの買い物はバジェットトラベラーから富裕層にわたり、幅広い層に人気があります。

 例えば、東南アジアからのインセンティブツアーで大阪に行った時のこと。お客様は「日本のお菓子を大量に買いたい。スーパーに連れて行って!」と空港に行く直前にリクエストされたことがありました。本来であれば規模の大きなショッピングモールにお連れするのですが、フライト時間の関係もあり担当の旅行会社の方とドライバーさんに相談した上で、関西空港に近い岸和田のコテコテのスーパーに立ち寄ることにしました。あまりにもローカルすぎるのではないかと心配したものの、お客様は嬉々としてお買い物を楽しみ、「ここは観光客向けではなくて本当に地元の人しかいないんだね!」と感激。30分のフリータイムの後、お客様は両手に大きなビニール袋をもち、満面の笑みを浮かべていました。


アキバでの2つの異なる反応
家電好きVS興味のないお客様


 よくニュースなどで中国人観光客が家電を買い求める姿が紹介されていますが、確かにアジア方面のお客様は家電好きが多いように見受けます。旅行会社さんからの指示で秋葉原でのショッピングタイムが入っていることも多くありますが、私はガイドで行く時にはとても緊張してしまいます。

 私が一番心配になるのは、家電好きとそうでない方とではっきりと分かれてしまうという点です。しかも、実際に行ってみないとお客様が興味関心があるかがわからない場合が多いのが、辛いところだったりします。

 例えば、今まで東南アジアの某国のお客様を2グループお連れしたことがあるのですが、人数や旅行者の年代、旅行先がほぼ一緒だったにもかかわらず、秋葉原に関してはまったく反応が違いました。片方のグループは秋葉原でのショッピングを大満喫したものの、もう一方のグループはその真逆。自由時間を30分としたところ、10分もしないうちに1人2人と戻ってきました。バスの乗降の関係で、集合場所が半野外でとても寒いところだったので「店内でお待ちになったらいかがですか?」とお声をかけたものの、「ここでいいです」と、すっかり飽きてしまったご様子。一方、12人のグループ中3、4人は集合時間ぎりぎりまで現れません。

 興味のない方も楽しく時間を過ごしていただける工夫や、快適にお待ち頂ける場所を探す必要があると反省させられた出来事でしたが、いまだに秋葉原での過ごし方は私の課題となっています。お土産のショッピングは「ここなら絶対大丈夫!」というスポットを探すのはなかなか難しいものです。それゆえにすべてのお客様を満足させられるショッピングタイムを実現できれば、ツアーの満足度もさらに上がるのでしょう。そのためには旅行会社さんが手配するときの場所の選定や、ガイドの現場での対応力が鍵になるのではないでしょうか。お互い切磋琢磨して協力し合い、お客様に日本の「かけら」をたくさん持ち帰っていただきましょう。


▽これまでの通訳案内士のインバウンド考
通訳案内士のインバウンド考:第5回 バス車内での盛り上げ術(2010/12/21)
通訳案内士のインバウンド考:第4回 インバウンドで必要な国際感覚(2010/11/30)
通訳案内士のインバウンド考:第3回 下見はガイドの大事なお仕事(2010/10/15)
通訳案内士のインバウンド考:第2回 質問・疑問はヒントの宝庫(2010/09/07)
通訳案内士のインバウンド考:第1回 旅行者の胃袋をつかめ(2010/08/03)


文:旅野朋/通訳案内士(英語)