ベストシーズン再発見(5)世界の山岳リゾートでウィンタースポーツを満喫

  • 2011年2月5日
 スイスアルプスやカナディアンロッキーなどに広がる、世界を代表する山岳リゾートを訪れるなら、ベストシーズンは夏と考える人が多いだろう。実際、穏やかな気候のなか、爽やかな高原の風を感じながら、緑鮮やかな森林を散策するのは非常に魅力的だ。だが、一方で、こうしたリゾートはウィンタースポーツのメッカでもあり、ウィンタースポーツを満喫するなら、ベストシーズンは冬ということになる。国内のスキー人口は減少しているとはいえ、こうした海外の著名なスキー場で滑ることは、今も多くのスキーヤーの憧れでもある。

 そこで、今回は世界有数のリゾート地であるツェルマットと、南半球屈指のリゾートタウンとして知られるニュージーランドのクイーンズタウンにスポットを当て、「ウィンタースポーツを楽しむ」をテーマに、ベストシーズンを考えてみたい。


〜顧客が希望する出発月から、最適なデスティネーションを提案〜
 この連載では、世界的なビジュアル誌「ナショナルジオグラフィック」の書籍「世界のベストシーズン&プラン」の記事をもとに、様々な視点から世界の旅行先の「ベストシーズン」を考えていく。



スイスのツェルマットの冬を満喫するなら、1月から2月

 世界有数の山岳リゾートを国内に多く抱えるスイス。なかでも、スイスアルプスで最も有名なランドマークであるマッターホルンの麓の村ツェルマットは、いつの時代も世界中の山好きには憧れの場所だ。本書では、この地で過ごすウィンターライフの魅力を次のように紹介している。

 「ツェルマットの周辺には、ヨーロッパにある76ある4000メートル以上の山々の半数近くが集まっている。この山々からの眺望は圧巻だが、峻厳なマッターホルンの姿を、ほぼ常に視界に入れながら滑るスキーやスノーボードも格別。手入れの行き届いた緩斜面のゲレンデなので、滑りに神経を使わずに絶景をたっぷり堪能できる」

 スキー場のオープン期間は11月下旬から5月上旬と長いが、「1月から2月にかけては一年を通じて気温が最も低く、雪質が良い上に、空気が澄んで山の稜線がとてもきれいに見える。一方で、太陽が出ていれば、冬の日差しでも、日なたではそれほど寒さを感じることもない。それらを考慮すると、ベストシーズンは1月から2月」(スイス政府観光局アシスタントマネージャー・メディアの作永瑠美氏)といえそうだ。

 日本では想像もできないような、充実した移動手段やスキー場の広大な面積も大きな魅力。「同じゲレンデやリフト、ケーブルカーを使うことなく、わずか1日で延べ1万2500メートルの高低差を滑ることが可能だ。元気のいいスキーヤーは、周辺にある山々を制覇するスキーサファリに出かける。急勾配の登山電車で登るロートホルン、赤い列車で登るゴルナーグラート、ケーブルカーで登るクラインマッターホルンの3山である。裕福なスキーヤーならヘリスキーも楽しめる」。スキーで国境越えができるのも楽しみの1つで、イタリアとの国境には、雪の上に旗で国境線が示されているという。

 一方で、スキーヤーでなくても、ツェルマットはそれぞれが自分に合った冬のリゾートライフが楽しめる場所でもある。「そもそもヨーロッパではスキーは冬のライフスタイルの1つであり、合間にスキー場のテラスで日光浴を楽しむ人も多い。日本ではあまり知られていないが、白銀の世界を歩く冬のハイキングも人気で、ウィンターハイキングのトレイルも整備が行き届いている」(作永氏)。一流レストランでのグルメや冬季限定のコンサートなど、アフタースキーも充実しており、冬のツェルマットは、スキーヤーだけでなく、幅広い層に広く訴求できる冬のデスティネーションの1つとして認識しておきたい。

 スイスには、ツェルマット以外にも国際的に名の知られたスキーリゾートが少なくない。そのなかで、作永氏が薦めるのがサースフェーだ。昨年、サッカー日本代表がワールドカップ直前合宿をこの地で行ない、一躍日本でも有名になった。最近では、スノーボードのワールドカップ・ハーフパイプが開かれるなど、スノーボーダーにも人気のスキーリゾートだという。


ニュージーランドのクイーンズタウンでスキーを楽しむなら、7月から9月

 日本と季節が逆になる南半球は、日本の夏の時期にウィンタースポーツを楽しむことができるので、旅行会社にとってはスキーヤーに訴求しやすいデスティネーション。南半球ではまだ冬季オリンピックが開催されたことがなく、世界的に有名なスキー場の数は北半球に比べると見劣りするのは否めないが、そのなかで世界からスキーヤーを集めているのがニュージーランドだ。本書では、南島のクイーンズタウンを取り上げており、その魅力を次のように紹介している。

 「サザンアルプス山脈の斜面には、どんなレベルの人も楽しめるさまざまな難易度のコースがある。圧雪されていない雪をほぼ垂直に滑り降りるヘリスキーは、体中にアドレナリンが駆け巡る体験だ。心躍る急斜面と起伏のあるコースは中級者向け、整備された長いゲレンデ、すり鉢状の地形は初心者向けだ。自然の地形を利用したカードローナとスノーパークのスキー場は、スノーボーダーに人気が高い」

 クイーンズタウン周辺には、本書で紹介されているカードローナやスノーパークのほかにも、コロネットピーク、トレブルコーン、リマーカブルズといったスキー場があり、スキーヤーは自分のレベルに応じて選択することができる。また、いずれのスキー場へもクイーンズタウンからシャトルバスが運行されており、アクセスも便利だ。

 スキー場の営業期間はおおむね6月上旬から9月下旬だが、「シーズン当初は人工雪で営業をスタートする年もあるので、積雪が確実で気候が最も寒い7月から9月がベストシーズン」(ニュージーランド政府観光局PRエグゼクティブのシャノン・ウォーカー氏)。

 クイーンズタウンの他のスキーリゾートにはない最大の特徴は、ゴルフやフィッシング、ジェットボートなど、多様なアクティビティがウィンタースポーツと同時に楽しめることだ。「標高の高いところに十分な積雪があっても、平地ではほとんど雪が降らずに気温もそれほど下がらないので、森林の緑は残り、湖や川も凍らない」(シャノン氏)。真冬でも、日差しがあれば、平地の気温はそれほど下がらない。そのお陰で、ゲレンデから美しい緑の森や湖の景色を眺めながら、スキーを楽しむことができるという。

 さらに注目したいのが、ニュージーランド独自の「クラブフィールド」。これは、スキークラブがクラブ員のために、自然の地形をそのまま生かして整備したスキー場のことで、非営利のため、必要最低限の設備しかない。「ブロークンリバーなど、クラブフィールドは国内に10ヶ所あり、人の手が入っていない自然の雄大さを感じながらスキーが楽しめる」(シャノン氏)という。また、円高の今は、為替相場による“格安感”も魅力で、例えばヘリスキーの場合、1日ツアーが約5万5000円(850NZドル、1NZドル=65円)と、日本人にはリーズナブルな価格で利用することができる。


執筆:浅山真
立教大学観光学科卒業後、東急観光入社。1990年日経BP社入社。「旅名人」副編集長などを経て、2009年1月に日経ナショナルジオグラフィック社の企画編集ディレクターに就任。
http://www.nationalgeographic.jp/

出典:「世界のベストシーズン&プラン」 2010年10月発行
英BBC放送の旅番組のプロデューサーなどを務める著名な旅行ライターが、世界の人気観光地について「ベストシーズン」をキーワードに厳選した海外旅行の指南書。旅のタイプを6つに分類し、各月ごとにおすすめの場所をモデルプラン付きで紹介している。



▽これまでの「ベストシーズン再発見」
ベストシーズン再発見(4)オーロラ、白夜─―北極圏の自然現象を体験(2010//01/15)
ベストシーズン再発見(3)一生に一度は見たい、世界の祭りやイベント(後編)(2010/12/25)
ベストシーズン再発見(2)一生に一度は見たい、世界の祭りやイベント(前編)(2010/12/04)
ベストシーズン再発見(1)限られた時期しか見られない貴重な野生動物の姿(2010/11/20)