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ベストシーズン再発見(4)オーロラ、白夜─―北極圏の自然現象を体験

  • 2011年1月15日
 世界には、日本ではまず体験することのできない自然現象が見られる場所がある。そのなかでも、一生に1度は体験したいのが、極圏特有の自然現象であるオーロラと白夜だ。こうした特異な自然現象を目的とする旅は、その時期がおのずと限定されることはいうまでもない。そこで、今回はスウェーデン北部の町ユッカスヤルビを拠点とするオーロラ観賞の旅と、ノルウェー領のスピッツベルゲン島で体験する白夜の旅をテーマに、ベストシーズンを考えてみたい。


〜顧客が希望する出発月から、最適なデスティネーションを提案〜
 この連載では、世界的なビジュアル誌「ナショナルジオグラフィック」の書籍「世界のベストシーズン&プラン」の記事をもとに、様々な視点から世界の旅行先の「ベストシーズン」を考えていく。



スウェーデン北部のユッカスヤルビでオーロラを堪能するなら、12月から2月

 夜空に舞う神秘的なオーロラを観に行くツアーはここ数年、日本でも人気が高い。国立極地研究所の資料によると、オーロラが見られる場所は世界地図のなかで南極、北極を取り巻く輪のように分布しており、オーロラ帯と呼ばれている。一般に日本の旅行マーケットでオーロラが観賞できる場所といえば、カナダのイエローナイフやフォートマクマレー、アラスカのフェアバンクス、アイスランド、ノルウェーとスウェーデン、フィンランドのオーロラ帯に位置する町や村など。そのなかで、本書が詳しく取り上げているのが、スウェーデン北部の小さな村、ユッカスヤルビだ。なぜなら、この村には毎年12月上旬から4月中旬にかけて、氷でできたホテルである「アイスホテル」がオープンするからだ。

 1992年から一般客の宿泊を受け入れているユッカスヤルビのアイスホテルは、世界で最も歴史があり、そして最も規模の大きい氷のホテルとして知られる。客室数は30室。館内の温度は常時マイナス5度に保たれており、就寝の際には防寒服を着用し、寝袋に入る。本書では、このホテルの他に類を見ない特徴を次のように紹介している。

 「客室は世界中から集まってきた一流のアーティストが個別にデザインする、この世に2つとないものばかり。ロビーのシャンデリアも、きらめく氷でできている。アイスバーに行けば、トナカイの毛皮を敷いた氷の塊に腰を下ろしてくつろぎながら、北極圏で採れた果実を使ったウオッカベースのカクテルが楽しめる。キンキンに冷えていることは保証付き。氷のグラスで出されるのだから」

 スカンジナビア半島北部のオーロラ帯でオーロラが見られるのは、9月下旬から4月上旬。したがって、アイスホテルに宿泊してオーロラ観賞を楽しめるのは、アイスホテルの営業期間と時期が重なる12月上旬から4月上旬ということになる。ただ、「オーロラはより暗い時期のほうが見やすいので、それを考慮すると、ベストシーズンは12月から2月。特に11月下旬から1月下旬は、日中でも太陽が沈んだ状態が続く極夜が体験できる」(スカンジナビア政府観光局マーケティング部の高橋成美氏)。

 ユッカスヤルビのアイスホテルはヨーロッパ、特にイギリス人に人気が高く、週末などは早くから予約でいっぱいになることも少なくないという。一方、日本人観光客といえば「マイナス5度の部屋のなか、氷のベッドの上で防寒服を着て寝袋で寝るのはかなりの覚悟がいるため、ホテルの見学ツアーのみに参加する人が大半」(高橋氏)だそうだが、一見するだけでも十分に価値のあるホテルといえるだろう。


ノルウェーのスピッツベルゲン島で白夜を体験するなら、7月から8月下旬

 24時間、太陽が沈むことのない白夜が体験できるのも、極圏の旅ならではの魅力だ。白夜は北半球では、カナダやアラスカ、ドイツ、スカンジナビア各国などの北極圏で体験できる。その時期は緯度によって異なり、おおよそ5月から7月。本書では、ノルウェー領のスピッツベルゲン島にスポットを当てて、白夜の魅力を紹介している。

 スピッツベルゲン島は、ノルウェー本土と北極点のちょうど中間に位置するスヴァールバール諸島に属し、同諸島で最も大きい島。島の中心地、ロングヤービーエンの町まで、ノルウェー北部の都市トロムソからでも約1000キロ離れている。まさに、“北極を身近に体験できる島”だ。

 北緯78度。1000人以上の人口の町としては地球上最も北に位置するロングヤービーエンの町は、4月中旬から8月下旬の長い期間、日が沈まないが、「年間を通じて最も気候が温暖な7月から8月下旬が、同地で白夜を体験するベストシーズン」(高橋氏)と考えて良さそうだ。

 せっかくスピッツベルゲン島を訪れるなら、白夜の体験だけではもったいない。7月から8月下旬に訪れれば、極北の厳しい大自然とそこに生きる野生動物や海鳥の様子を心ゆくまで満喫できる。本書では、その素晴らしさを次のように紹介している。

 「島の西岸を巡る人気のクルーズの1つに参加してみよう。ずんぐりしたスヴァールバールトナカイやホッキョクギツネの姿も至るところで見られる。だが、どんな野生動物との出会いも、ホッキョクグマを目にしたときの心臓が止まるかと思うほどのスリルの比ではない。とはいえ、ホッキョクグマがツンドラをのしのしと歩いていたり、流氷を砕きながら主食となるアザラシを狩る姿は、人よりもホッキョクグマの数が多い諸島では、さして珍しくない光景だ」

 ただ、北極圏の野生動物の姿や大自然を満喫するには、クルーズツアーに参加することが前提となるため、少なくとも旅行期間が10日間以上必要となる。高橋氏は「白夜体験を旅の主要目的とするのであれば、ヨーロッパ最北端の岬として有名なノルウェーのノールカップなどを訪れるのも一考」とアドバイスする。ノールカップの白夜のシーズンは5月中旬から7月下旬。この時期、バレンツ海の水平線を太陽がまるで横にすべるように移動する、幻想的な光景が見られるという。

執筆:浅山真
立教大学観光学科卒業後、東急観光入社。1990年日経BP社入社。「旅名人」副編集長などを経て、2009年1月に日経ナショナルジオグラフィック社の企画編集ディレクターに就任。
http://www.nationalgeographic.jp/

出典:「世界のベストシーズン&プラン」 2010年10月発行
英BBC放送の旅番組のプロデューサーなどを務める著名な旅行ライターが、世界の人気観光地について「ベストシーズン」をキーワードに厳選した海外旅行の指南書。旅のタイプを6つに分類し、各月ごとにおすすめの場所をモデルプラン付きで紹介している。




▽これまでの「ベストシーズン再発見」
ベストシーズン再発見(3)一生に一度は見たい、世界の祭りやイベント(後編)(2010/12/25)
ベストシーズン再発見(2)一生に一度は見たい、世界の祭りやイベント(前編)(2010/12/04)
ベストシーズン再発見(1)限られた時期しか見られない貴重な野生動物の姿(2010/11/20)