現地レポート:スイス、鉄道利用で冬の絶景とクリスマスマーケットを巡る

  • 2010年12月24日
スイストラベルシステムで
冬の絶景とクリスマスマーケット巡り


 スイス政府観光局とレイルヨーロッパは12月1日から8日、「絶景ルートを巡るスイス研修旅行」を実施した。スイスの冬といえば、スキーやスノーボードなど、広大なアルプスでのスノーアクティビティが国内外の旅行客に人気があるが、日本マーケットは夏に偏重してしまう。しかし、スノーアクティビティ以外にも、雪景色やクリスマスマーケットなど、“冬ならでは”の魅力も多分にある。今回の研修旅行はチューリッヒからサン・モリッツ、モントルーへと「スイストラベルシステム」を利用して周遊し、参加者はスイスの冬商品や対象客層など、新たな可能性を見出していた。
                             
                              
国内を網羅するスイストラベルシステムと旅に欠かせないスイスパス

 観光立国スイスでは、主要都市を結ぶ鉄道はもちろん、そこから先の町や村への足となるバス、町なかを走る市街電車やバス、湖を渡る湖水船、登山列車など国内の隅々まで移動手段が約2万キロメートルも張り巡らされている。それらを時計の歯車のように噛み合わせて機能的に運営しているのが、スイストラベルシステムだ。

 このシステムを利用する割引パスは7種類ある。最も多く使われているのが今回の旅で利用したスイスパスで、スイストラベルシステムすべてのネットワークが乗り放題になるというもの。都市間の列車での移動はもちろん、駅から目的地までのバスやトラムによる移動もこれ1枚あればOK。切符を買う手間や精神的な負担が省け、参加者一同「スイスの旅にはスイスパスが欠かせない」と実感した。

 スイスパスにはその他にも登山列車やケーブルカーのほとんどが50%引きになる、国内の400のミュージアムが無料になるなど様々な特典がある。ただし、パスを持参していないと80スイスフランの罰金を徴収されるので注意が必要だ。

 さらに参加者が「とても便利」と口を揃えたのが、朝9時までに駅で荷物をチェックインすれば、同日午後6時までに目的地へ荷物が届く「ファストバゲージ」だ。今回はサン・モリッツからインターラーケンまでの区間を全員が利用。エレベーターの無い小さな駅の乗り換えや、途中下車してルツェルンで観光する際など、荷物に煩わされない快適な旅となった。ただし、インターラーケンからモントルーへ荷物を2つ送った際は、30分離れた別駅に到着するというハプニングも。移動の負担を軽減するファストバゲージは、特に中高年や子供連れの旅行者におすすめだが、予定外の出来事も考慮して、最低限の必需品は手元に置いておくとよいだろう。


冬の世界から陽光のイタリアへ
雪景色を走り抜ける黄金列車の旅も


 スイスには風光明媚な地域を走る「クラシック・シーニックルート」が7つある。今回はそのうち2つを体験した。

 そのひとつが、クールからイタリアのティラーノを結ぶベルニナ・エクスプレスだ。2008年に「レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観」として世界遺産に登録された。ハイライトはサン・モリッツからティラーノ間だ。

 サンモリッツ(標高:1775メートル)から展望車に乗り雪景色の中を進むと、やがて右手にピッツ・ベルニナ山(4049メートル)の堂々とした姿が目に飛び込んでくる。次いでラーゴ・ビアンコ(白い湖)とカンブレナ氷河が姿を現す…はずなのだが、冬は雪に覆われ湖も氷河も雪原状態。目線と同じ高さに湧き上がる真っ白な雲が、2000メートルを超える標高を感じさせる。この辺りは夏はトレッキングで賑わう名所と聞けば、花が咲き乱れる夏山の情景が脳裏に浮かぶ。

 しかし、しばらく走るとミララーゴ(鏡湖)が周囲を湖面に映して広がる景色が見えてきた。有名なブルージオの360度ループ橋を通過すると、まもなくイタリア国境だ。風景は雪と氷の世界からプラム畑や葡萄畑が広がる風景へと変わり、ティラーノ(429メートル)へ到着。イタリア料理を堪能したあと、スイスとはまた雰囲気が異なる石畳が美しい小さな町の散策を楽しんだ。ワインセラー「PALAZZO SALIA」は予約をすれば見学も可能だ。

 もうひとつが、ルツェルンとモントルーを結ぶ屈指の景勝ルートを走るゴールデンパス・ライン。ルツェルンで、乗り物ファンには欠かせない交通博物館を見学したのち、展望車に乗車。白く輝く山々や巨大なつららが下がった岩壁、粉砂糖をまぶしたようなモミの林、箱庭のような町や村、いくつもの湖が現れる風景は、まるでクリスマスカードの中を走っているように美しい。夏は観光客でいっぱいの車内も今回の視察では乗客がまばらで、その静けさが冬景色とマッチしている。ツヴァイジンメンで乗り換えると、今までドイツ語優先だった車内アナウンスがフランス語優先になり、フランス語圏に入ったのを実感。レマン湖が見え始めて間もなく“スイスのリヴィエラ”といわれるモントルーに到着する。




極めつきの冬景色を求め
ヨーロッパの最高駅ユングフラウヨッホへ


 滞在地からのエクスカーションは、観光素材の少ない冬の旅のハイライトだ。登山列車やゴンドラを利用すれば、夏と同じように手軽に冬の大自然を味わえるのがスイスの良さだ。

 サン・モリッツからはスキーヤーとともにケーブルとゴンドラを乗り継いで、3050メートルのピッツ・ネイル展望台へ。青空を背景に白く輝く3000メートルの峰々が連なるダイナミックな冬景色を、展望台レストランで体を温めながら心ゆくまで味わった。

 インターラーケンからはヨーロッパの最も高い鉄道駅である「ユングフラウヨッホ」(3454メートル)をめざした。グリンデルワルトから登山列車に乗り、名峰三山メンヒ、ユングフラウ、アイガーの岸壁を仰ぎながらぐんぐん高度を上げていく。長いトンネルの途中には岩盤をくり貫いた窓もあり、遥かかなたに街が見下ろせる。

 ユングフラウヨッホ駅から氷河をくり貫いたトンネルを抜けて進むと展望台へ到着。雪と氷と岩のモノクロの世界だ。雪に覆われたアレッチ氷河がかすかに氷河と分かる形状で下へ向かって伸び、周囲を3000メートルから4000メートル級の山々が囲む。自然の雄大さに息を飲むと同時に、このような雪山の高所まで鉄道を引き建物を造った人間の力にも頭が下がる思いだ。曇天の寒い日であるにも関わらずツアーを中心に日本人客が多く訪れており、改めてスイス人気を感じた。



冬だけの素材、
鉄道を利用したクリスマスマーケット巡り


 景色はもちろん、冬だからこそ楽しめる素材としてクリスマスマーケットもある。クリスマスマーケットをテーマにした商品はドイツやフランスに比べるとまだ少ないが、国内交通の利便性に長けるスイスでは、効率的なクリスマスマーケット巡りが可能だ。道中では車窓からの景色や車内での食事、マーケットではホットワインを飲んだり熱々の郷土料理を味わったりなど、冬ならではの楽しみをアピールしたい。

 今回は3都市のクリスマスマーケットを訪れた。スイス旅行のゲートウェイとなるチューリッヒでは、中央駅構内にヨーロッパ最大のインドアマーケットが立ち、スワロフスキーのオーナメントが約6000個飾られた高さ15メートルのツリーが一際目を引く。ユングフラウヨッホの拠点となるインターラーケンのマーケットは12月の第1土日のみ開催。生活感溢れる店が多いほか、メリーゴーランドが回りライブ演奏が行なわれるなど、お祭りのような雰囲気だ。

 また、フランス語圏のモントルーでは他では見られないアンティークの店も軒を連ねている。屋根付き市場「マルシェ・クヴェール」の中には名物の大鍋料理がいくつも並び、座って食べる場所も用意されている。登山列車で標高2000メートルのロッシュ・ド・ネへ上ると「サンタクロースの家」があり、サンタクロースが迎えてくれる。子供連れにはおすすめのポイントだ。









低価格で造成できる冬の旅は、リピーターを中心におすすめ

 参加者は「スイスの冬の旅の最大のメリットは、夏は予約が困難な高級ホテルや人気の鉄道ルートが、冬は利用が容易になること。しかもホテルは冬季価格になるので低価格の商品造成が可能になる」と語る。人混みを避けゆったりとした気持ちで旅ができるという点でも、冬に勝る時期はない。

 スイストラベルシステムに関しては「正確に運行している」「接続が便利で待ち時間が少ない」「揺れがなく車内は快適」「展望車が良い」と利便性、快適さをあげる声が多く聞かれ、「スイスパスはぜひすすめたい」と全員が語った。

 旅行者にとってスイスほど夏と冬の顔が異なる国はない。冬のスイスを訪問すれば、リピーターはスイスの新たな一面に触れ、新しい魅力を発見するだろう。一方、初心者にとっては最初のスイスの印象が雪と氷の世界というのは少しきついかも知れないが、だからこそ「夏のスイスも見てみたい」という気持ちに必ずなる。スイスファン、鉄道ファンを中心に、そんな冬のスイスの魅力を発信したい。




スイストラベルシステム、利便性を活かした旅を喚起

 研修旅行では、スイストラベルシステムのマーケット
マネージャーであるアンドレアス・ネフ氏によるプレゼ
ンテーションが行なわれ、サービスの詳細について説明
があった。

 ネフ氏は、空港からはインターシティが30分に1本走
るなど運行頻度が高いうえ、予約が不要で正確な運行に
も定評があると強調。多くの列車にはレストランカーや
ミニバー、パノラマカーのほか、バギースペースのある
ファミリーカー、ゲームができるファミリーゾーン、大
きなテーブルとワイヤレスインターネット(1時間6フラ
ン)を備えたビジネスゾーンを備えるなど、目的に応じ
た利用が可能であるという。

 また、飛行機と比べた利点として、インターシティを
利用するとチューリッヒ/パリ間が4時間30分、インター
ラーケン/ベルリン間は2時間など、チェックインから
搭乗まで時間がかかる国際線よりも早く到着する。また
チューリッヒからはアムステルダム、ベルリン、コペンハ
ーゲンなどへ夜行列車が運行しており、時間や経費を有
効に使いたい旅行者にとっては便利だ。

 荷物のサービスに関しては「ファストバゲージ」のほ
か「バゲージプロダクト」がある。これは出発空港でチ
ェックインした荷物が、スイス国内の主要50駅までスル
ーで届くというもので、現在、スイストラベルシステム
ではすべての航空会社と提携し、同サービスを提供して
いる。

 ネフ氏によると、スイストラベルシステムの利用者は
イギリス、フランス、ドイツ、インドに次いで日本人は
5番目に多い。今後も利便性を喚起し、利用者の増加を
はかっていきたい意向だ。


取材協力:スイス政府観光局、レイルヨーロッパ
取材:戸谷美津子