取材ノート:中国人の動向をつかめ−より効果的な検索エンジンの使い方

  • 2010年11月18日
 日中関係で不穏な空気が流れる中、日本の旅行業界にとって依然として日本への中国人旅行客の獲得は大きな課題のひとつだ。これまでとはまったく違う層の旅行者が訪日するようになるため、その消費動向を探りニーズを突き止めることが旅行者の心をつかむ大きなポイントとなる。今では日本と同じかそれ以上に利用者の多いインターネット。その検索ワードから中国人の消費行動を探ることが可能として、中国のインターネットサービス「百度(Baidu)」の国際事業室マネージャーである高橋大介氏が、JATA世界旅行博の会場でセミナーを実施した。
                      
                        
検索方法から異なる中国

 規制の多い中国では、インターネット利用者の7割以上が検索エンジン「百度」を利用しているという。同サービスは広告媒体として利用できることはもちろんだが、高橋氏の提案はもうひとつの利用方法。検索されたワードや属性を探ることにより、中国人の消費行動を探りより効果的な販売戦略や広告活動に役立てることができるというものだ。

 百度利用者の検索ワードは基本的に中国語、つまり漢字で入力される。欧米人や欧米企業のようにもともとローマ字で表記される単語ですら、中国では似たような読みの当て字をあてて漢字に直す。同じ単語でもローマ字と漢字では検索数が10倍も違うといい、漢字で検索されることが圧倒的に多い。とはいえ、中国人にとっても何万とある漢字をすべて覚えているわけではないため、百度では読みから検索ができるよう、音をアルファベット表記して検索ができる「ピンイン検索」や、うろ覚えの漢字を手書きで入力することができる「手書き検索」もできるという。

 中国人の検索方法は「欧米や日本式とはまったく違う」と高橋氏は指摘する。日本でのショッピングに興味がある場合、欧米では「日本 ショッピング」のように主要な名詞を区切って入力する。しかし中国では「日本で買い物をする」「日本買い物」というように動詞を含むものや、いくつかの単語をつなげた“名詞”として検索されることが多い。この点においても「中国は台湾や香港などとのマーケティングとも異なる」という。


消費者の動向を探り戦略をたてる

 そのようにして検索順位の上位に登場するブログや口コミサイトは「まさに中国人のエンドユーザーのひとつひとつの気持ちを探るツール」と高橋氏はいう。中国でも若者の感覚は日本人とそう変わりなく、旅行記などをブログにこまめに発表している人が増えている。今年4月の終わりから5月にかけての調査では旅行関連ワードの検索数は昨年比32.6%増、そして旅行専門サイトは昨年比2.4%増となっており、人々の関心が旅行にも向いていることがわかる。

 さらに、百度の提供する「Baidu指標」というデータ調査ツールを使うと、アクセスの多い地域、男女、年代といった属性が一目でわかる。高橋氏の提案は、このようなデータからヒントを得て仮説を立て、それに基づいた戦略を行なうことである。

 あくまでもたとえ話だが、「日本旅游(日本 旅行)」というワードをBaidu指標で検索すると、アクセスが多いのは規制緩和前から訪日旅行ビザ発給を扱う公館のあった都市部。しかし、広州からのアクセスはほかと比べて少ない。そこで高橋氏は「広州からの団体旅行客の数が少なくないところをみると、広州の人々は自分で積極的に動き回るFITは少なく、団体で行動するほうが好まれるのではないか」というように仮説を立てていくのだという。そのキーワードに影響を与えたニュースソースや関連ワードなどからも、何が中国人に日本への旅行を意識させるかがわかる。これにより、目的を持ってマーケティングをし、戦略を立てるのだ。

 人口はもちろん、インターネットの普及率や利用率も北京や上海といった大都市に集中して高いため、数字の上から単純に推測できるものでもないが、それでもさまざまな数値から動向が見て取れるという。日本に関するニュースがあったときなど如実に反応するというので、定期的にチェックしておけば戦略のヒントをつかむことができるだろう。


的確な広告プラットフォームとして

 百度は広告プラットフォームとして戦略を展開することも可能だ。「海外旅行」というキーワードで検索すると、上位には世界各地の政府観光局のサイトが並び、広告プラットフォームとしては“激戦区”だという。中国でも広告戦略としてサイトを開設して情報提供するという手法が多く用いられているが、先述のとおり、キーワードがマッチしないとヒットしないため、中国語でサイトを作ってもあまりアクセスが伸びないケースもある。また、紹介したいものを前面に出すだけではあまり注目を集められないことがあり、やはり中国人のニーズ(グルメが多い)を盛り込むことが必須である。つまり観光関連のサイトでもグルメ情報を充実させるなどすれば、「美食」関連を調べている人を潜在的な旅行者として呼び込めるということだ。

 日本全国で店舗展開するあるドラッグストアは、日本国内で使える割引クーポンをつけたサイトを百度に開設したことで、通常2000円から3000円だった客単価が1万円から2万円と急増したという。もちろんはじめの1回から突然利益が上がったわけではなく、クーポンは中国国内からのアクセスしか受け付けないように工夫するなど試行錯誤を重ねている。その結果、クーポンを持参する中国人観光客の数が増え、それに合わせ割引対象商品を増やす、中国語が話せる店員を雇うなどの店内サービスの向上といった改良を加えることで、より利益効率のいい客を呼び込めるようになっているそうだ。

 長い休みとなる旧正月には海外旅行にでかける中国人も多い。海外旅行準備は数ヶ月前から、というのは中国人も同じ。「百度を利用したマーケティングと広告戦略で自社独自の必勝パターンを作りましょう」という高橋氏は、動き出すタイミングは“今”であると締めくくった。


取材:岩佐史絵