通訳案内士のインバウンド考:第2回 質問・疑問はヒントの宝庫

  • 2010年9月7日
  最近、私が深夜に観ている某ドラマ。日本語学校の先生が外国人生徒相手に奮闘するという話で、生徒からはラーメンを茹でるときに使う道具の名前などマニアックな質問が飛び出します。日本人には気づかないような疑問やその答えに、思わず「ほほーっ」と感心してしまうことが多々ありますが、ガイドをしていても似たような事態に直面します。「えっ!」と驚くようなことをお客様に聞かれることは日常茶飯事。そこで今回は、私が外国人旅行者から聞かれたことのある質問をいくつか紹介します。一見、素朴な質問でも、その裏にはお客様の気持ちや好みが隠れているのです。
                                    
                                    
「サムライって今もいるの? 忍者って実際何なのよ?」

 サムライについては、海外でも武士が登場する映画やドラマが放映されるからか、漠然としたイメージを持っている方が多いようです。着物、ちょんまげ頭、刀を持っているということはほとんどの方が認識されています。しかし、それぞれの認識レベルは大きく異なり、「サムライは長い刀の他に切腹用の短刀を持ってるんでしょ?」など、細かいことまでよくご存知な方もいれば、「サムライって今はいないの?」と、ガイドの「想定問答」どおりの質問をしてくる方も。無論、そんなときは明治維新の話をざっくりとして、侍が日本を治める時代が終わったことを説明します。教科書どおりですね!

 サムライ以上によく聞かれるのが「ニンジャ」。特に、若いお客様は忍者に興味津々。「忍者って実際のところ、どういう人達なの?」と、わかっているようでわかっていないようです。「ジャパニーズ・スパイだよ」と、安直な説明をすると「じゃぁ、今もスパイとして忍者は活躍しているの?」とつっこまれることも。それに対して、単に「忍者はもういない」とだけ話すと、お客様をがっかりさせてしまうことがあります。

 外国人のお客様は「自分のイメージする日本」と事実があわないとき、期待はずれだと落胆することがあります。私はガイドとしてお客様のイメージを程よく残しながら正しい説明をしたいな、と思うので、例えば忍者の場合だと「今も三重県に忍者村がありますし、都内にも忍者体験ができる道場がありますよ」と、その文化が完全に廃れていないことを伝えるようにしています。

 思い描いている日本に対するイメージ、そして実際に訪れてみたときの「良い意味での」ギャップ。どちらも大事にしてお客様が楽しめる旅作りをしたいですね。


「日本人の朝ごはんはいつも和食なの?」

 先月も食事の話を書きましたが、お客様からの質問でも食事に関することが多いです。食事にまつわる話はガイドをしていると尽きません。ただ、今回の例は単純な質問ではなく、蓋を開けてみると切実なリクエストがあったことがわかりました。

 FITのお客様と1週間近く地方を巡ったときのこと。日本食が大好きなスイス人のご家族で、ビジネスホテルではなく旅館に泊まり、朝食はいつも和食でした。旅館をハシゴして3泊目、意を決したようにお客様が「日本人は和朝食しか食べないの?」と聞いてきました。

 私が「パンとコーヒーっていう洋食の朝ごはんも食べたりしますよ」と答えると「じゃぁ、何で旅館の朝食は和食ばっかりなの?」と、少ししかめ面で聞かれました。私は内心、「えっ!できるだけ和食にしたいってリクエストされたのに」と驚きつつ、「旅館は日本のトラディショナルな朝食、つまりご飯、お味噌汁、焼き魚を提供することが多いですね」と説明。しかし、お客様の真意は「もう和朝食は耐えられない。日本食は好きだけど、朝からご飯を食べるのが辛い」ということだったのです。さすがに3泊目で和朝食に辟易してきたようで、結局、その後泊まる旅館に予め連絡を入れて、朝食はすべて洋食に変更することになりました。

 「郷に入れば郷に従え」とはいうものの、四六時中異文化に触れ続けるのは、やはり旅慣れている方でも疲れてしまうようです。特に食べ物となると余計に…。そこで、朝食ぐらい、コーヒータイムくらい、自国文化にふと立ち戻れる瞬間がほしくなるようです。例えば、「日本って素敵!食事も美味しくて毎食でもいいくらい!」という人でも、某有名コーヒーチェーンの看板を見て「あー、ちょっと休憩」と、美味しそうにカフェラテをすすって顔をほころばせたりします。私達も海外旅行中に日本食をはさむとちょっと落ち着くのと同じように、インバウンドでもお客様に食事の「休息時間」を多少なりとも盛り込むことも「日本を飽きさせない」コツなのかもしれません。


「日本人はなぜモノトーンの服ばかり着るの?」

 日本は流行の発信地として注目をされているからか、「日本人はおしゃれな人が多いね」というお客様が多いのですが、反面、アジア系のお客様は「どうして日本人は明るい色の服を着ないの?きっと似合うのに…」と、ファッションチェックが入ります。

 私自身はお客様が見つけやすいようにと、寒い時期にはイエローの派手なパーカーを着ているのですが、これは大好評。「普段はこんな黄色い服は着ませんよ。でも、日本にもリーズナブルな価格のカジュアル衣料ブランドがあり、これは2000円以下だったんです!」と話のネタにしたところ、「私もそれがほしい!そのお店はどこにあるの?」と香港のお客様から問いあわせがあったほど。「こ、こんなド派手な色がいいのか…」と驚かされました。このパーカー、日本人以外には常に大好評です!

 ところで、日本人がモノトーン好きになったのは千利休が大成した「わび・さび」の文化が影響しているといわれています。また、スーツ姿のサラリーマンが街に多く見られることから「日本×モノトーン」のイメージが強いのかもしれません。落ち着いた色合いを気に入ってくださる旅行者も多いのですが、アジア系、中国系の女性にウケが良いのはやはり断然、明るい色の服や小物。年齢問わずキレイな色を好まれる方が多いようです。

 日本の伝統色は1000種類以上あるといわれますが、機会があったらいくつかをピックアップして外国人旅行者に人気のある色を調査してみたいと思っています。そうすれば、お客様が視覚的に喜ばれるモノや場所を探るヒントにもなるかと思うのです。性別、国籍、年齢などで傾向が見えたら面白いですね。お土産屋さん選びなどでも役立つかもと思っています。

 お客様からの質問は簡単に答えられるものばかりですが、ちょっとした質問から隠れたニーズを掴み、先を読んだ対応ができるようになれば満足度も向上するのではないのでしょうか。私もガイドとして、現場でお客様の疑問に「答え」、そしてニーズに「応えて」いきたいと思います。


▽これまでの通訳案内士のインバウンド考
通訳案内士のインバウンド考:第1回 旅行者の胃袋をつかめ(2010/08/03)


文:旅野朋/通訳案内士(英語)