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新春トップインタビュー:日本旅行業協会会長の田川博己氏

旅行業にも「ものづくり力」を
リスク対策、コンプラ遵守、「外交」も

19年から導入される国際観光旅客税(出国税)についてはどう見ていますか

田川 重要なのはその使途だ。海外旅行の振興のためにも使われることを期待しており、主に旅行者の安心・安全を担保する施策と、若者などの国際交流を促進する策の2つを要望するつもりだ。現政権は、日本を背負って立つ人材を育成することを公約の目玉の1つに掲げているが、若者の将来の人脈作りに資する国際交流を推進するには、やはり政府の力が必要だ。新たな財源を充てることはごく自然なことだし、出国税の使途については海外からも注目を集めているので、政府には意識していただきたいと思う。

 そのほか、昨秋には観光庁で「若者のアウトバウンド活性化に関する検討会」が立ち上げられたので、単なる提言だけではなく、具体的なアクションプランやロードマップが示されることを願っている。


海外旅行者の安心・安全の担保に向けては、17年度補正予算と18年度の本予算で、安否確認のための情報プラットフォームの構築に予算が配分されました

田川 日本人は危険に対する警戒心が強すぎる一方で、安心・安全さえ保証されればどこへでも行くので、海外旅行者数を拡大する施策として非常に有難い。「海外旅行に対する恐怖を助長する」と見る向きもあるが、旅行会社が旅行者の安心・安全を確保することは義務であり武器でもあるのだから、登録促進には業界を挙げて取り組みたい。施策の詳細が明らかになった時に、旅行者がどのように反応するかを注視するつもりだ。


昨年はてるみくらぶの経営破綻が業界を揺るがしましたが、今後の旅行会社のコンプライアンス遵守についてはどのようにお考えですか

田川 JATAはこれまで、会員企業の経営については問題意識こそ持っていたが、各社の事情があることなので特段のルールは定めてこなかった。しかし今回は会員企業の社長が詐欺で逮捕されるという、あってはならない事件が発生したので、信頼回復に向けて「海外募集型企画旅行の企画・実施に関する指針」を定めた。てるみくらぶの件については、旅行業法が改正されて「旅行代理店」から「旅行会社」に変わった35年前の業界のDNAが失われたことを示したかのようで、単なる中小企業の倒産と軽視することはできない。

 コンプライアンスに関しては、今後は遵守するだけでなく、そのことを武器に変えたい。35年前の精神に立ち返った上で、働き方改革など今日の課題に取り組み、業界の活性化につなげたいと思う。単に「守る」だけではなく、攻めるために守る。「防御は最大の攻撃」という発想がなくては。


昨年6月のJATAの総会では「旅行業界が外交の一部になる時代が来た」と仰いましたが、真意を詳しくお聞かせください

田川 近年は国土交通省から国連世界観光機関(UNWTO)に事務局長アドバイザーが派遣され、私も世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の副会長に就任するなど、国際的なツーリズムの舞台で日本の地位が向上している。そのようななかUNWTO やWTTCなどが昨年1月に、イスラム圏7ヶ国の国民の入国を禁止する大統領令に対して反対声明を出したことなどは、わかりやすい「外交」の1つと言える。大袈裟に聞こえるかも知れないが、日本の旅行会社には単なる商品販売だけに終わらず、そのような「外交」の一部を担ってほしいと考えている。

 例えば私は海外で在外公館を訪れた際に、大使や領事に旅行会社との連携や情報交換などを呼びかけている。その甲斐もあり、例えば英国大使は「田川さんのお話を聞いて(Team EUROPEが「美しい村30選」に選出したウェールズの)コンウィを訪れた」と仰って下さった。それも「外交」の結果で、大使に「美しい村」を宣伝していただければ効果は大きいし、ウェールズ人がラグビーのワールドカップを機に訪日して人的交流が生まれる可能性につながる。


ありがとうございました