現地レポート:米国ユタ州(2)、教育旅行、SIT−幅広いテーマで客層拡大へ

  • 2009年11月13日
ソルトレイクシティとグランドサークルの新素材
教育旅行、SIT−幅広いテーマで客層拡大へ



 多数の国立公園や国立モニュメント、州立公園を有するユタ州は、それらを含むグランドサークルツアーのデスティネーションとしてのイメージが強い。前回はこれらの各スポットについて、その特徴や魅力を改めて確認できるよう、基本的な内容をレポートした。2週目となる今回は、メディアツアーで視察した日本では新素材といえる観光スポットを紹介する。すぐに取り込むことが難しいものもあるかもしれないが、大自然を舞台とするこのデスティネーションに、新たな旅行の可能性があることを伝えたい。



ソルトレイクシティ滞在の観光

 ソルトレイクシティは標高1400メートルの高地にあり、周辺に標高2000メートルから3000メートル級の山々が連なる大自然が感じられる都市。人口は約18万人。ユタ州の州都であるが都会的な喧騒が少なく、市街には壁の落書きやゴミなどはほとんどみられない。出会った人々は親切な人が多く、滞在中に不快に思うことはほとんどなかった。

 ソルトレイクシティの滞在ですすめたい観光スポットが、市内から車で45分ほどにあるアンテロープアイランド州立公園。グレートソルトレイクにある島のひとつで、湖を埋め立てた約11キロの道路を通っていく。島内では500頭のバッファローをはじめとする野生の動植物が保護されており、市街から1時間もかからない近場で野生生物を目のあたりにできる。ビッグホーンシープ、鹿、カモシカや水鳥などが生息するとのことだが、今回遭遇できたのはバッファローのみ。バッファローは500頭が生息しており、遭遇率は高いだろう。このほか島内には、ハイキングトレイルが整備され、バッファローポイントという展望台にはバーガー類などの軽食を出すレストランもある。アクティビティではグレートソルトレイクでのカヌーやカヤック、さらに「ガー・ランチ」では乗馬ツアーを実施。山と湖に囲まれた草原の景色をゆっくり歩くツアーで、今回は乗馬中にバッファローの群れが見られた。

 市内観光では全米でも建物の美しさが有名な州議事堂やオリンピック・パークのほか、テンプルスクエア、ディス・イズ・ザ・プレイス・ヘリテージ・パークなど、ソルトレイクシティを開拓したモルモン教ゆかりの場所が組み込まれていることが多い。市内は自由行動でも安心して歩ける雰囲気だが、タクシーがほとんど走っていないので注意したい。また、ソルトレイクシティをはじめ、ユタ州内のレストランやバーでは地ビールやワインなどが豊富で、アルコール類が楽しめることも加えておきたい。



















教育旅行−語学研修やゼミ合宿の可能性も

 アメリカの州には各州にニックネームがつけられており、ユタ州は「ビーバイブ・ステイト」といわれる。勤勉な人柄が“働き蜂の巣”の愛称に反映されたのだ。そんな人々が暮らす環境が、安心・安全が求められる教育旅行の場として適している。また、ユタ州は教育に熱心で、レベルも全米トップクラスだという。ソルトレイクシティのユタ大学、近郊のプロボにあるブリガム・ヤング大学が有名で、ブリガム・ヤング大学は学費を払う価値のある教育の質で全米1位になったほど。長期休暇中の語学研修旅行では、現地の高校や大学を訪問して学生と交流したり、キャンパスの雰囲気を体験するプログラムを取り入れることが多く、全米屈指の大学はその格好の場所となるだろう。これに、グランドサークルの大自然での学びと体験という要素が、教育旅行のデスティネーションの魅力となる。

 大自然ばかりでなく、学習や体験の機会を提供する施設もある。例えば、ザイオン国立公園から約1時間30分の場所にある「ベスト・フレンド・オブ・アニマル」は、怪我や病気の状態で発見された野生動物や虐待されたペットの保護施設。寄付とボランティアで成り立っており、アメリカにおける動物保護の現状を学ぶとともにボランティア体験、さらにはNPO活動の成功例としての視察も可能だ。今年は現在までに8000人のボランティアを含めて3万人が訪問したといい、世界各国からの学生向けに同施設のシステムを習うワークショップも開催している。

 また、ザイオン近郊の「ザイオン・ポンデローザ・ランチ」は、約1600平方メートルの敷地に牧場のみならず、4ツ星クラスのロッジやキャビンを有し、宿泊の場としても利用可能。ロッジには最大45人が宿泊できるものもあり、クラスやゼミ単位で一緒に泊まるユニークな体験もできる。今夏は2万5000人の訪問者があり、家族旅行のほかボーイスカウトやガールスカウトといった、学生世代の団体利用も多いという。乗馬やATVバギー、ジップラインなどのアクティビティもあり、牧場で自由に遊んだり、ザイオンでのハイキングを組みあわせることも可能だ。


SITの可能性、MICEも人気

 テーマを絞った旅行も考えられる。例えば、ユタ州は恐竜の化石が多く発掘される場所として世界的に有名で、それらの展示施設がそろう。ソルトレイクシティから気軽に行けるのは、車で20分ほどのところにあるサンクス・ギビング・ポイント。ここの「恐竜博物館」ではブロンドサウルスやスーパーサウルスといった、世界でも珍しい恐竜の化石がある。今回は視察していないが、ソルトレイクシティとアーチーズの間にあるカレッジ・オブ・イースタン・ユタ大学内の博物館や、ソルトレイクシティから東へ3時間ほどの「ダイナソー国立モニュメント」も有名で、化石の展示物のほか発掘現場も見ることができるという。

 また、アーチーズからモニュメントバレーへ向かう途中にある街、ブランディングの「エッジ・オブ・シーダーズ州立公園博物館」には、多くの古代プエブロインディアンの生活用品などが収蔵されている。敷地内にはプエブロインディアンの遺跡があり、再現した住居の中を歩いて見学できる。また、アーチーズ内のトレイルやその近郊でもインディアンの絵文字のペトログリフが描かれた岩があり、グランドサークルツアーのアクセントとして、こうした博物館やペトログリフの観光を組み込んだ旅行もよいだろう。

 ちなみに、サンクス・ギビング・ポイントとエッジ・オブ・シーダーズ州立公園博物館は主要道路沿いにあり、グランドサークルツアーの移動中の休憩を兼ねた利用をすすめたい。特にサンクス・ギビング・ポイントは土産物屋やレストラン、植物園やミニ動物園など、多様なアトラクションがあり、バンケットルームでグループの食事利用も可能だ。

 このほか、MICEのデスティネーションとしても注目したい。ソルトレイク・コンベンション・アンド・ビジターズ・ビューローのケイトリン・イエ氏によると、ソルトレイクシティからグランドサークルを通ってラスベガスへ抜けるルートが人気だという。今回は視察ができなかったが、ユタ州はゴルフ場が多く、これらの施設を組み込んだツアーも考えられる。例えば、ソルトレイクシティ近郊ではジャック・ニクラウスが設計した「ホームステッド」、南部の州境の町でラスベガスへ約1時間30分ほどの距離にあるセント・ジョージでは「サンド・ホーロー」や「エントラダ」など、大自然を利用したチャンレジングなコースが多い。日本とは造りも景観も異なるコースで、ゴルフ好きの参加者に特別な体験を提供できるだろう。


ソルトレイクシティの冬の需要促進へ

 ソルトレイクシティの観光の目玉のひとつにスキー
があげられる。2002年の冬季オリンピックの開催地
であり、全米でも評価が高いリゾートがそろう。し
かし、日本からのスキー客は現在、年間200名程度
と停滞している。ただし、最盛期には2000人が訪れ
ており、ユタ州政府観光のパトリシア・デニー氏
は、日本からのスキー旅行を誘致したい考え。ス
キーのデスティネーションとして有名なカナダや
コロラド州に比べて予算が50%程度の安価で滞在
できるとして「夏の観光は有名だが、冬も楽しめ
ることを知ってほしい」とアピールする。また、
デルタ航空(DL)の成田/ソルトレイクシティ線
は冬季は運休となっているが「通年運航になるに
はスキーヤーの取り込みが重要」との思いもある。

 ソルトレイクシティから車で1時間ほどのディア
バレーには、オリンピックのメイン会場となり、
全米ナンバー1のスキーリゾートに選出された「パー
クシティ」など3つのリゾートがあるほか、市の近
郊のワサッチマウンテンにも「ソリチュード」「ス
ノーバード・スキー・アンド・サマーリゾート」な
ど4つのスキー場がそろう。スノーバードは冬の時
期以外のアトラクションもそろえ、トラムで標高約
3400メートルのハイデンピークに登ることも可能。
また、ソリチュードは収容客数が約1600人の小規模
のリゾートで、とことんスキーを楽しみたい客を対
象にした静かなリゾートだ。



取材協力:ユタ州政府観光局、アメリカ西部5州観光局、デルタ航空(DL)



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