ハノイ/ホーチミン間1726kmを結ぶベトナム国営、南北鉄道。ベトナム戦争終結後の1976年に全線が開通。「統一鉄道」とも呼ばれ、南北統一のシンボルとして親しまれてきた。全行程およそ30時間を走破するのはいささか非現実的だが、ダナン/フエ間の3時間をローカル気分満点で揺られてみるのも一興。奇しくもベトナムでは日本の新幹線の導入を検討中。そう遠くない未来ここを新幹線が走るのだと思うと、鉄道ファンならずとも感慨は一入。
車種はSE、TN、SHの3つ。SEはSuper
Expressの頭文字を取ったもの、TNはThong Nhat(ベトナム語で「統一」の意)でいわゆる鈍行、SHはSaigon-Hueの略でその区間を往復する。ほとんどの外国人旅行者が利用するSEは全席ソフトシートでエアコンも完備。アジア慣れしている旅行者なら、まず問題のないファシリティだ。
ダナン/フエ間のクライマックスは海抜496mのハイヴァン峠。ベトナムではこの峠を境に、気候も人の性格も変わるといわれている。2005年には車用のトンネルが開通したが、列車は往時のまま稜線をゆっくりと登ってゆく。峠を越えると右手に見えてくるのがランコーの白砂ビーチ。かつての漁村は近年リゾート開発が目覚ましい。
ベトナム最後の王朝、阮(グエン)朝の都として1802年に建設されたフエ。中国と同等の文明国であることを誇示すべく、紫禁城をモデルに建設されたという王宮は周辺の寺院、歴代皇帝の陵墓である帝廟などとともに1993年ベトナム初の世界遺産に登録された。古都らしい落ち着いた佇まいはシニアを中心に支持を集めている。
南北鉄道以外のアクセス方法としては、VNがハノイから週1日3便(所要時間:1時間10分)、ホーチミンから週1日4便(所要時間:1時間20分) を運航している。
ミンマン帝廟やティエンムー寺、ホンチェン殿はフーン川沿いに建てられているので、ボートに乗っての散策もおすすめ。ラオスからの熱風ヨーラオを受けるフエの夏の暑さは相当に厳しく、川面を渡る風はなんとも心強い味方になってくれるのだ。また、フエといえば宮廷料理も忘れてはいけない。やさしい味付けと繊細なカービングによる野菜飾りが特徴で、中高年のみならず女性客に人気となっている。
フォンニャケバンには大小約300もの鍾乳洞があり、中でも「風の歯の洞窟」という意味を持つドンフォンニャはベトナム最大。洞窟内には長さ45kmにもおよぶ地底川が流れ、ライトアップされた鍾乳石や石筍(天井から落ちた石灰分を含む滴が地面で固まり、筍状になったもの)が見事な造形を作っている。
船着場から14人乗りのボートに乗り上流に向け約40分、まずは583段の階段を擁するドンティンソン(神の山の洞窟)へ。健脚で約15分の道程はそれなりにハードだが、それだけにその先で見る鍾乳洞の美しさは格別。
再びボートに乗ったら、ドンティンソンと隣接するドンフォンニャへ。水位の高低により洞窟内にボートが入れないことがあるので事前に現地に確認したい。なお、ボートが入れない場合でも、洞窟手前で下船すれば徒歩での見学は年中可能。これらの鍾乳洞は、およそ2億5000万年前に形成されたものと考えられており、古くはチャム族が聖地として崇め、ベトナム戦争中には病院および武器庫として使用されたという。
フエから車で片道約5時間を行き来するルートが一般的だが、フォンニャケバン探索後にフエ/フォンニャケバン間にある港町ドンホイで一泊し、翌朝ドンホイ空港からハノイへ向かうこともできる。ただしドンホイにはまだ日本人旅行者を満足させるだけのホテル、レストランが不足しているのも事実で、今後のさらなる発展が望まれるところだ。