現地レポート:南アフリカ、港町ダーバンとマンデラ遺産でツアーの多様化を
ここにしかない自然と動物に出会う、南アフリカ
港町ダーバンからの観光とマンデラ遺産にも注目
ダーバン郊外の世界複合遺産「ドラケンスバーグ」
先住民族の壁画を見学
ダーバン郊外には世界遺産もある。ズールー族が住む村や田園地帯を通り、車で約3時間。ドラケンスバーグはジャイアンツキャッスルという城壁のような山と独自の生態系、先住民サン族の壁画がある。同地域のウカシャンバ・ドラケンスバーグ公園はレソトのセサバテーベ国立公園とともに「マロティ=ドラケンスバーグ公園」として複合遺産に登録されている。
ドラケンスバーグは険しい岩峰群と丘陵からなる山脈で、3000メートル級の山もある登山やハイキングの目的地。複数の自然保護区があり、各種ハイキングコースが整えられている。自然保護区のひとつ、ジャイアントキャッスルゲームリザーブにあるメインケーブの壁画までは往復3時間のコースで、玄武岩の岩峰が連なる中、川のせせらぎを聞きながら歩いて行く。一部急登があるものの、全体的にはなだらかな道のりで、途中には景色を眺めながら休める椅子もある。
クワズールー・ナタール州発行の地図によると、サン族の壁画はドラケンスバーグの520ヶ所に約3万件ある。赤土や粘土、木灰などで描かれた絵は鮮やかで、中には写実的な表現もある。専門ガイドのスボネロ・ザザ氏によれば、ここで見られるのは3000年前から4000年前の壁画で、シャーマンがトランス状態で見たものが描かれているという。
なかでも遊牧民のサン族にとって、ウシ科ほ乳類のアンテロープの一種である「エランド」はパワーをもらえる神聖な動物であり、壁画の重要なモチーフに使われているとのこと。サン族は8000年前から19世紀まで住んでいたが白人の入植により追われ、今では南アフリカ北西のカラハリ砂漠にわずかに住む程度だという。
南アフリカの歴史が始まったケープタウンとケープ半島
ワイナリーや動植物の見学も
南アフリカ訪問のハイライトとなるのがケープタウンだ。テーブルマウンテンのふもとに広がる街は英国とオランダの統治時代の歴史を伝える場所が随所にあり、ケープ半島には大航海時代に発見された喜望峰をはじめ、ここでしか見られない世界遺産の植物群や野生動物などの見どころが多い。さらにワインの生産地にも近いなど、南アフリカの魅力が詰まっている。
「アジアで貿易をしていたオランダが航海の間に食料を供給する場所として目を付け、農地を作ったのが始まり」とガイドの福島康真氏はケープタウンの成り立ちを語る。その歴史を反映しているのが、マレー系の人が住むマレー地区。オランダ東インド会社によってインドネシアやマレーシアから連れてこられた人々が解放後に住み着いた一画だ。これによりイスラム教や食などアジア文化が入り、ケープマレー料理発祥の地となった。
南アフリカワイン産業の発展も歴史とは切り離せない。ワインの生産は「新世界」で一番古い1659年に始まり、その生産量の8割をケープタウン周辺が占めているという。なかでもワイナリーが集中するのがステレンボッシュで、その背景は「オランダ東インド会社総督のサイモン・ファン・デル・ステル氏が街を建設した後に、フランスからユグノーが入植したことでワイン生産が盛んになった」(福島氏)ことによる。ファン・デル・ステル氏はニースリングホフなどのワイナリー創業にも関わり、南アフリカ固有のブドウ品種として知られるピノタージュもステレンボッシュ大学の教授が開発したものだ。
独自の植物もケープタウン周辺の大きな魅力だ。プロテア、エリカといった灌木類の総称である「フィンボス」は、ケープ植物区に約9600種生息するが、乾燥した土地に山火事によって発芽するなど独自の習性によって、7割が固有種。この貴重なフィンボスは「ケープ植物区系保護地域」として8つの植物分布が世界遺産に登録されており、ケープ半島、テーブルマウンテンもそれらのひとつとなっている。
身近に見られる野生動物もケープ半島の大きな見どころとなっている。そのひとつがホウトベイから船で行くドイカー島で、岩いっぱいに寝そべるミナミアフリカオットセイにぎりぎりまで近づくことができる。ケープ半島の東海岸にあるボルダーズビーチにはアフリカンペンギンのコロニーがあり、ボードウォークから体長約70センチメートルのかわいらしい姿を見学できる。ペンギンが住み出したのはここ30年のこと。「1985年のある日どこからともなくペンギンの大群がやってきて住み着いて繁殖地となった」(福島氏)。今では絶滅危惧種として保護されている。