現地レポート:フランス、コートダジュールの新素材
日本人市場に適した素材とクオリティ
パリの次のデスティネーション、コートダジュール
南フランスの世界的リゾート地、コートダジュール。ニース、カンヌ、モナコなど、その名を耳にするだけで青く美しい海を擁する高級リゾートのイメージが浮かぶほど、日本市場での認知度は高い。19世紀から世界の高級リゾート地として君臨した伝統的観光地であるため、4ツ星以上のホテルや洗練された食事などの質は日本市場の要求を満たすものが揃う。印象派やピカソなど高い訴求力を持つ素材も豊富だ。「パリの次のデスティネーション」として人気の高いコートダジュールで、新たな商品提案に繋げる可能性を探った。
定番の美術館巡りに
アート・トレイルをプラス
南フランスのコートダジュール地方は南に地中海、北から東はアルプス山脈に面し、海と山の美しい風景を望む地だ。フランスではパリに次ぐ第2の観光地として人気が高く、日本でもコートダジュール周遊、あるいはプロヴァンスと組みあわせた南仏周遊商品は、パリとモンサンミッシェルに次ぐ地位にある。
そのコートダジュールで主要素材となるのが、印象派をはじめとする画家の足跡だ。この地に魅せられて訪れ、居を構えた画家はルノワールやピカソ、シャガール、セザンヌ、マティス、ペイネなどで日本でも人気が高い。アンティーブのピカソ美術館やペイネ美術館、ニースのシャガール美術館やマティス美術館のほか、カーニュ・シュル・メールのルノワール美術館、マントンのコクトー美術館はすでにコートダジュールの定番素材となっている。コートダジュールの市町村観光局も重要素材のひとつとして捉えており、美術館の整備のほか、画家が絵を描いた場所にパネルを設置して「アート・トレイル」として整備するなど、街歩きの楽しみを提案している。
そうした街のひとつ、カーニュ・シュル・メールは1920年代の芸術家グループ「エコール・ド・パリ」に名を連ねたモディリアニやスーチン、レオナール・フジタといった画家たちが一時住居を構え、作品を残した芸術の村だ。村には10数枚のパネルが設置されており、今後も数を増やしてルノワール美術館以外の観光の目玉を増やす考え。街自体もコンパクトで歩きやすく、小高い丘の上からは地中海を望む風景が美しい。スケッチ旅行や絵画に深い興味を持つグループ、リピーターなどにすすめても面白いだろう。
中世の小さな村にも画家の足跡が残っている。ニースから車で1時間強のヴァンスにはマティスが内装を手掛けた「ロザリオ礼拝堂」が、サン・ポール・ド・ヴァンスにはフォロンの装飾による「白色苦行会聖堂」がある。特にフォロンの聖堂は2006年から3年をかけて造られ、昨年公開がはじまったもの。フォロンは2005年に亡くなるまで、この聖堂の建設計画に携わっており、いわばフォロンの遺作である。このほか、シャガールの墓所や芸術家のギャラリーが軒を連ねる場所もあり、アートの街となっている。ニースのマティス美術館にはヴァンスの礼拝堂装飾を作成する際の習作スケッチやステンドグラス、教会の模型も展示されているので、ともに訪れればより理解が深まるに違いない。
美術館・博物館の品質向上
ローマ史跡をあわせた広域商品の可能性も
ニース市のクリスチャン・エストリ市長によると、同市はここ2年をめどに、美術館・博物館の質を向上させる計画だという。その一環として現在、イタリアとの国境の街のマントンと、ローマ時代の史跡があるトゥルビーでは博物館の整備が進められている。
マントンはジャン・コクトー縁の地で、コクトー美術館がある。これに加え、2011年完成を目標に、展示内容を充実させた第2のコクトー美術館を建設している。またマントン市庁舎内にあるコクトーが内装を手掛けたチャペルは挙式が可能で、日本からのカップルの利用も少なくないという。
歴史的にはジェノバ共和国、あるいはサルディニア王国の一部であったため、街自体もイタリア色が強く、コートダジュールの他の町や村とは趣を異にした個性を放つ。歴史を感じさせる細い入り組んだ路地や鮮やかな色彩の家々、青空と青い海を望む高台に建つロシア教会やバロックの教会などを眺めながらの散策は印象深く、「想像以上に良かった」「連泊を組み込んでもいい」という旅行会社の声も多く聞かれた。2月のレモン祭りをニースのカーニバルとともにツアーに組み込む旅行会社も多い。ニースよりホテルの価格が安いマントンを拠点にすることも可能だろう。
また、モナコの北側にあるトゥルビーには紀元前1世紀頃のローマ時代の史跡「アウグストゥス戦勝記念塔」がある。コートダジュールではこれまで、史跡は芸術の陰に隠れてあまり注目されてこなかったが、この戦勝記念塔はローマ皇帝アウグストゥスがカエサルとの戦に勝利した記念に建てられたもので、ローマ史上で非常に重要な史跡のひとつだ。現在、併設の展示博物館をコートダジュールのローマ時代の歴史を学ぶビジュアル設備を含めた博物館にリニューアルする計画があがっており、新設備での開館は2012年を予定している。
コートダジュールは、中世あるいはルネサンス以降からイタリア統一の19世紀までイタリア領だったこともあり、歴史的に両国は深い繋がりがある。欧州の歴史を広域的に体験する意味でも、イタリアとコートダジュールを組みあわせることは興味深いだろう。
滞在型旅行も見込めるニース
カンヌではMICEに尽力
コートダジュールの中心地であるニースには昨年市内を走るトラムが完成。道路も整備され、インフラが飛躍的に向上した。空港までバスで約15分。近郊の町や村までも1ユーロほどでバスが利用できる。「セレブな街」「ファッショナブルな街」というイメージが先行しがちだが、旧市街は生活感のある市場やカフェやレストランがあり、親しみやすい雰囲気が感じられる。生活物価もパリより安く、パリ同様に生活を楽しむ滞在型旅行の目的地としても十分にアピールできる魅力を備えている。
一方、ニースと並ぶ主要都市・カンヌはMICEを中心に日本市場を取り込みたい考えだ。カンヌ映画祭が開催される同市では国内外含め年間200万人の観光客が訪れ、年間約3万5000件もの会議・展示会が開催されている。2009年の観光収益は約3億ユーロにのぼり、同市ではこれを2013年までに4億ユーロとすることを目標としている。
新館完成とともに4月からスパを新たに開業する5ツ星のマジェスティック・ホテルほか、港付近にはカンヌ初のタラソテラピー・スパを擁する4ツ星のホワイト・パーム・ホテルがオープンするなど、ホテルの改装・開業が続いている。「受け入れるホテルのクオリティやノウハウは充実している。もっと日本市場を引っ張りたい」とカンヌ市観光局広報担当のフレデリック・タム氏は話す。中世の歴史を感じさせる旧市街や、「鉄仮面」の逸話が残るサント・マルグリット島の要塞などもあり、こうした史跡をのんびりと巡り、華やかなカンヌの側面をのぞくのもいいだろう。
日本市場を強く望むコートダジュール
多様な客層に合わせた商品造成を
今回、コートダジュールで強く感じたのは、日本市場のプライオリティの高さだ。コートダジュールは同地の主力素材を芸術や文化、質の高い食事などとしており、ニース市観光・会議局コミュニケーション・ディレクター、シルヴィ・グロスゴジェ氏は「これらに高い興味を持つ市場に来てほしい。そういう意味ではニースは日本のための市場ともいえる」とまで語っている。ニースでは今後、パッケージ商品の主力となっているニースのカーニバルとマントンのレモン祭りに加え、ニースの東にあるマンデリュー・ラ・ネープルの村でのミモザ祭りを含めた3つのフェスティバルを提案し、横ばい状態にある観光客数を増加させたい考えだ。
「一度行けば十分」とリピートに繋がりにくいのが地方都市の課題だが、定番にプラスアルファを加えること、あるいはパリに次ぐ都市滞在型旅行の提案などでリピーター誘致に繋げられる可能性は十分にある。
パリの次のデスティネーション、コートダジュール
南フランスの世界的リゾート地、コートダジュール。ニース、カンヌ、モナコなど、その名を耳にするだけで青く美しい海を擁する高級リゾートのイメージが浮かぶほど、日本市場での認知度は高い。19世紀から世界の高級リゾート地として君臨した伝統的観光地であるため、4ツ星以上のホテルや洗練された食事などの質は日本市場の要求を満たすものが揃う。印象派やピカソなど高い訴求力を持つ素材も豊富だ。「パリの次のデスティネーション」として人気の高いコートダジュールで、新たな商品提案に繋げる可能性を探った。
定番の美術館巡りに
アート・トレイルをプラス
南フランスのコートダジュール地方は南に地中海、北から東はアルプス山脈に面し、海と山の美しい風景を望む地だ。フランスではパリに次ぐ第2の観光地として人気が高く、日本でもコートダジュール周遊、あるいはプロヴァンスと組みあわせた南仏周遊商品は、パリとモンサンミッシェルに次ぐ地位にある。
そのコートダジュールで主要素材となるのが、印象派をはじめとする画家の足跡だ。この地に魅せられて訪れ、居を構えた画家はルノワールやピカソ、シャガール、セザンヌ、マティス、ペイネなどで日本でも人気が高い。アンティーブのピカソ美術館やペイネ美術館、ニースのシャガール美術館やマティス美術館のほか、カーニュ・シュル・メールのルノワール美術館、マントンのコクトー美術館はすでにコートダジュールの定番素材となっている。コートダジュールの市町村観光局も重要素材のひとつとして捉えており、美術館の整備のほか、画家が絵を描いた場所にパネルを設置して「アート・トレイル」として整備するなど、街歩きの楽しみを提案している。
そうした街のひとつ、カーニュ・シュル・メールは1920年代の芸術家グループ「エコール・ド・パリ」に名を連ねたモディリアニやスーチン、レオナール・フジタといった画家たちが一時住居を構え、作品を残した芸術の村だ。村には10数枚のパネルが設置されており、今後も数を増やしてルノワール美術館以外の観光の目玉を増やす考え。街自体もコンパクトで歩きやすく、小高い丘の上からは地中海を望む風景が美しい。スケッチ旅行や絵画に深い興味を持つグループ、リピーターなどにすすめても面白いだろう。
中世の小さな村にも画家の足跡が残っている。ニースから車で1時間強のヴァンスにはマティスが内装を手掛けた「ロザリオ礼拝堂」が、サン・ポール・ド・ヴァンスにはフォロンの装飾による「白色苦行会聖堂」がある。特にフォロンの聖堂は2006年から3年をかけて造られ、昨年公開がはじまったもの。フォロンは2005年に亡くなるまで、この聖堂の建設計画に携わっており、いわばフォロンの遺作である。このほか、シャガールの墓所や芸術家のギャラリーが軒を連ねる場所もあり、アートの街となっている。ニースのマティス美術館にはヴァンスの礼拝堂装飾を作成する際の習作スケッチやステンドグラス、教会の模型も展示されているので、ともに訪れればより理解が深まるに違いない。
美術館・博物館の品質向上
ローマ史跡をあわせた広域商品の可能性も
ニース市のクリスチャン・エストリ市長によると、同市はここ2年をめどに、美術館・博物館の質を向上させる計画だという。その一環として現在、イタリアとの国境の街のマントンと、ローマ時代の史跡があるトゥルビーでは博物館の整備が進められている。
マントンはジャン・コクトー縁の地で、コクトー美術館がある。これに加え、2011年完成を目標に、展示内容を充実させた第2のコクトー美術館を建設している。またマントン市庁舎内にあるコクトーが内装を手掛けたチャペルは挙式が可能で、日本からのカップルの利用も少なくないという。
歴史的にはジェノバ共和国、あるいはサルディニア王国の一部であったため、街自体もイタリア色が強く、コートダジュールの他の町や村とは趣を異にした個性を放つ。歴史を感じさせる細い入り組んだ路地や鮮やかな色彩の家々、青空と青い海を望む高台に建つロシア教会やバロックの教会などを眺めながらの散策は印象深く、「想像以上に良かった」「連泊を組み込んでもいい」という旅行会社の声も多く聞かれた。2月のレモン祭りをニースのカーニバルとともにツアーに組み込む旅行会社も多い。ニースよりホテルの価格が安いマントンを拠点にすることも可能だろう。
また、モナコの北側にあるトゥルビーには紀元前1世紀頃のローマ時代の史跡「アウグストゥス戦勝記念塔」がある。コートダジュールではこれまで、史跡は芸術の陰に隠れてあまり注目されてこなかったが、この戦勝記念塔はローマ皇帝アウグストゥスがカエサルとの戦に勝利した記念に建てられたもので、ローマ史上で非常に重要な史跡のひとつだ。現在、併設の展示博物館をコートダジュールのローマ時代の歴史を学ぶビジュアル設備を含めた博物館にリニューアルする計画があがっており、新設備での開館は2012年を予定している。
コートダジュールは、中世あるいはルネサンス以降からイタリア統一の19世紀までイタリア領だったこともあり、歴史的に両国は深い繋がりがある。欧州の歴史を広域的に体験する意味でも、イタリアとコートダジュールを組みあわせることは興味深いだろう。
滞在型旅行も見込めるニース
カンヌではMICEに尽力
コートダジュールの中心地であるニースには昨年市内を走るトラムが完成。道路も整備され、インフラが飛躍的に向上した。空港までバスで約15分。近郊の町や村までも1ユーロほどでバスが利用できる。「セレブな街」「ファッショナブルな街」というイメージが先行しがちだが、旧市街は生活感のある市場やカフェやレストランがあり、親しみやすい雰囲気が感じられる。生活物価もパリより安く、パリ同様に生活を楽しむ滞在型旅行の目的地としても十分にアピールできる魅力を備えている。
一方、ニースと並ぶ主要都市・カンヌはMICEを中心に日本市場を取り込みたい考えだ。カンヌ映画祭が開催される同市では国内外含め年間200万人の観光客が訪れ、年間約3万5000件もの会議・展示会が開催されている。2009年の観光収益は約3億ユーロにのぼり、同市ではこれを2013年までに4億ユーロとすることを目標としている。
新館完成とともに4月からスパを新たに開業する5ツ星のマジェスティック・ホテルほか、港付近にはカンヌ初のタラソテラピー・スパを擁する4ツ星のホワイト・パーム・ホテルがオープンするなど、ホテルの改装・開業が続いている。「受け入れるホテルのクオリティやノウハウは充実している。もっと日本市場を引っ張りたい」とカンヌ市観光局広報担当のフレデリック・タム氏は話す。中世の歴史を感じさせる旧市街や、「鉄仮面」の逸話が残るサント・マルグリット島の要塞などもあり、こうした史跡をのんびりと巡り、華やかなカンヌの側面をのぞくのもいいだろう。
日本市場を強く望むコートダジュール
多様な客層に合わせた商品造成を
今回、コートダジュールで強く感じたのは、日本市場のプライオリティの高さだ。コートダジュールは同地の主力素材を芸術や文化、質の高い食事などとしており、ニース市観光・会議局コミュニケーション・ディレクター、シルヴィ・グロスゴジェ氏は「これらに高い興味を持つ市場に来てほしい。そういう意味ではニースは日本のための市場ともいえる」とまで語っている。ニースでは今後、パッケージ商品の主力となっているニースのカーニバルとマントンのレモン祭りに加え、ニースの東にあるマンデリュー・ラ・ネープルの村でのミモザ祭りを含めた3つのフェスティバルを提案し、横ばい状態にある観光客数を増加させたい考えだ。
「一度行けば十分」とリピートに繋がりにくいのが地方都市の課題だが、定番にプラスアルファを加えること、あるいはパリに次ぐ都市滞在型旅行の提案などでリピーター誘致に繋げられる可能性は十分にある。
取材協力:フランス観光開発機構
取材:西尾知子