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新春トップインタビュー:ジェイティービー代表取締役社長 田川博己氏

  • 2009年1月7日
2009年はリーディング産業への進化のチャンス
我慢の一年も攻めの姿勢は堅持


燃油サーチャージの高騰や世界規模の景気後退などにより、厳しい市場動向となった2008年。2009年はさらに厳しさが増すと予測されているうえ、新たに日系2社を含む複数の航空会社のゼロコミッション導入も予定されている。この環境の中で、最大手のジェイティービーはどう展開していくのか。特に、2009年度は新中期経営計画の初年度でもある。舵取りを担う代表取締役社長の田川博己氏に、方策を聞いた。



−JTBとしての2008年の総括は

田川博己氏(以下、敬称略 田川) 分社化した後の2006年、2007年は景気の後押しもあって、中期経営計画で目標としていた単年ごとの経常利益額を達成した。最終年度である2008年もまずまずの成績で推移していたが、夏ごろから原油価格の下落や円高、景気後退が一度に起き、結果的に08年上期の決算は良くない結果となった。他の産業でも同様の傾向にあると思うが、原油の下落と円高、景気後退が一度に発生するとは想像しておらず、変化の激しさについていけていない状況だ。06年、07年の好調さで改革の手が緩んでしまっていた可能性もあるのだろう。

 ただし、構造的にはそれほど苦しいわけではない。唯一問題があるとすれば2006年から進めるグローバル化やIT投資が軌道に乗る前に景気が後退し、投資と収益のバランスが悪くなってしまっているということ。これらは先行投資であり、決して無駄な出費ではない。経営体制としては、先日の朝日旅行のグループ化や海外展開などを含めて予定通り進んでいるといえる。円高は予想外のレベルになっているが、これが3年、4年と続くとは考えていない。新中期経営計画で完全に軌道にのせる考えは変わっておらず、心配はしていない。


−2009年の見通しは。市場はさらに厳しくなるとの予測もあります

田川 2009年は我慢の一年になるだろう。しかし、「大転換」の年になるとも考えている。世界金融システムの破綻により、時代が変わり「真の21世紀」がはじまる予感がしている。物づくり、金融が破綻した今、旅行業を含む「人的サービス流通業」がリーディング産業として表に出る舞台が整ったと思う。努力次第でツーリズム産業の新しい時代が本当にくる。このチャンスを皆で逃さないようにしなければならない。

 旅行需要については、私は根強いものと考えている。現在も飽和しているわけではなく、買い控えの状態。燃油サーチャージや中国の食の問題などが払拭されれば、需要は戻るはずだ。需要の戻りを判断する機会になるのは燃油サーチャージが相当下がると考えられる4月以降で、最初の機会は5月のゴールデンウィーク、これを過ぎると夏場だ。これらの時期に需要が戻ってくれれば、2009年の日本人出国者数は2008年並みの規模になるのではないか。

 法人需要も、必ずしもすべてが悪くなるわけではなく、提案の仕方次第だろう。たしかに、景気後退の影響で需要の縮小が予想されるが、このような状況だからこそ人材の確保や教育などを強化しようとする動きはあるはずで、こうした部分に関するプロモーションは多くあるのではないか。やりようによってチャンスはある。

 中国の回復への取り組みや若年層の需要喚起もしっかりと実施していきたい。若者対策は「妙薬なし」が現状だが、火をつければ行く。「行かないと損」、「行ったほうが良い」と思わせられるよう、時間をかけてプロモーションしていきたい。


−新・中期経営計画の方針を教えてください

田川 中期経営計画について議論をはじめた08年7月ごろからは環境が変わってしまった。従来のように全体的な拡大は難しく、2009年度は「選択と集中」をせざるを得ない。しかし、待っているだけでは淘汰されてしまうため、基本的には「仕掛けていく」方針だ。現在の経営環境のなかでは、グローバル化と地域交流を車の両輪として、どのようにブレーキとアクセルを使い分けて推進するかが重要になるだろう。

 グローバル化では、まずは中国での戦略をしっかり進めたい。かねてからアジアで1位になれなければ世界に出られないといっているとおり、韓国、台湾、中国、そしてシンガポールなど東南アジア、さらにロシアなどで、連携をして仕事をできるかが重要。その中で、まずは中国の外資系旅行会社への規制が緩和されたとき、消費者にどう選ばれるかを考えている。

 一方、地域交流は地域の活性化であり、そう簡単には成果が出てこないもの。しかし、地域交流や交流文化事業の取り組みが浸透してきたため、自治体からの注文が増えてきている。一つの具体策として、JTB協定旅館ホテル連盟が現在展開する「旅百話」があるが、これをさらに普及していきたい。地域の宿泊施設とJTB社員、地元の自治体を含めた観光関係者が共同で実施する地域密着型のプランで、ここから出るプランが旅行商品となれば素晴らしい。

 ITは遅れてしまっている。昨年10月に専門組織を作ったが、どこまですべきか奥の深さが読みきれていない。まだネット専業の会社と比べて食い込めておらず、今後もしばらく時間がかかってしまう可能性がある。ただし、インターネットが購買行動に結びついたことは確か。現在のJTBの取扱額のうちウェブ経由は18%程度で、間違いなく30%までは行くはずだ。JTBとしてはお客様が必要とするのであれば、今後も相当の投資を惜しまない。ITで投資すべきはハードではなくコンテンツと考えており、その点でJTBは地域交流の推進など強みがあると考えている。


−今年は日本での発券手数料廃止を開始する航空会社が増加します。ゼロコミッション導入についてどう考えますか

田川 今回の航空会社によるゼロコミッションの導入の対策は、アメリカでも同様であったが、航空会社の集中と選択、交渉により、「取引する量によってもらうべき収益」の数字を決めていくことになる。もともと私は、コミッション・ビジネスはできる限りやめたいと考えている。サプライヤー側が決定するコミッションで商売することは、旅行会社が主役にはなれないことを意味するうえ、自らの手に値付けの権利があったほうが、裁量権が高いためだ。業界としても10年から15年後にはコミッションをもらわない時代になっていくのではないか。

 国内航空券やホテルのコミッション廃止はまだ議論もされていないが、時代は間違いなくその方向を向いている。「コミッションとは何か」を改めて考えてみる必要があるだろう。収益率向上が叫ばれているが、値付け権がなければ不可能だ。ただし、コミッションカットで生き残れた航空会社と生き残れなかった販売店、といった図式が成り立ってしまうのであればおかしな話であり、制度の整備が必要だ。


−昨年はITCチャーターの規制が緩和されたが、具体的な戦略は

田川 設定路線はこれから検討する必要があるが、基本はオフラインの路線で、新しい需要喚起につながるだろう。例えば、来年取り組む予定のヨーロッパのバルト三国や、就航路線の少ない南米などは可能性がある。しかし、既存の定期便路線で、取り込みきれていない需要を取り込んでいくことも重要だ。すでに存在する需要に対しての提案であり、仕掛けがしやすく、需要規模も想定しやすい。特に需要回復のカギとなるゴールデンウィークと夏場に、規制緩和を大々的に活用した戦略を実行できれば需要喚起になるはずだ。

 昨年6月の代表取締役社長の就任当時、規制緩和が実現する以前は、他社との連携も必要と考えていたが、どの路線でも最低50%の個札が可能になったことで、単独で実施しやすくなった。連携か単独かの選択は方面の得手、不得手や、単独では人数が少ないケースに連携するなど、ビジネスライクに決定すれば良いと考えている。


−10年先のJTBの姿は

田川 今後、日本市場が縮小する現実を考えれば、世界の市場を相手に仕事をできる仕組みを作る。日本市場は世界市場のなかの一つになる。中国、アジア、オセアニア、南米、アフリカ、あらゆる市場で勝負できるようにしたい。そのための拠点は、日本、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、中国、オセアニアとなる。新・中期経営計画がはじまる09年からの3年間は、その挑戦の下地を作る段階だ。

 10年後はなかなか見通しがしにくい。10年前には分社化している今の姿を想像しようもなかった。しかし、世界の目と地域密着の目の、両方の見方を持っていないと、本当の旅行業はできないことは感じている。世界で「発」と「受け」を担当する会社を作らなければならない。難しいことではないと思うが、今のJTBの力量で困難な場合には、必要な会社をM&Aなどで取得することはあり得る。


−ありがとうございました