現場目線の予約システムを追求、宿泊者と施設の高度なマッチングを目指す-CHILLNN永田諒氏

-現在の導入状況と今後の展望をお聞かせください。

永田 現時点で600強の施設にご利用いただいています。目標としては、施設数は来年末までに倍程度まで伸ばしたいと思っています。加えて、コロナ禍が収まってきたこともあり、流通総額をどれだけ伸ばせるかがミッションです。導入してくださっている施設の流通を現在の1.5倍まで伸ばしたいと考えています。

水星が運営するブティックホテル「香林居」でもCHILLNNを利用している

 1施設単位での流通総額がこれまでで最も良かったのは、ベータ版の運用を開始したコロナ直前の時期に、自社の施設で運用を始めたときでした。現在はコロナ禍で最も落ち込んでいた時期の2.7倍程度にまで戻ってきていますが、それでもコロナ前の約7割という状況です。伸びしろはまだまだあります。

 この2年間宿泊業界は非常に苦しかったので、自分達の施設で試してみて上手くいったことをどんどん業界に還元していこうという観点で事業を進めてきました。代表の龍崎も「業界全体を盛り上げなければ自分達も生き残っていけない」と常々言っていますが、若い会社なので、これからも自分達でPDCAを回して、商品化して、宿泊業界に還元していきたいと考えています。

-新たに開発された全国旅行支援のチェックイン処理を支援するツールについて教えてください。

永田 OTAを除き、他の予約エンジンを作っている会社では、全国旅行支援に対応した機能を新規開発するという話はあまり聞きませんでした。どれだけ開発コストを投下しても、12月には終了するものですので、それも分かります。一方私たちは、自社運営施設と共用で利用しているチャットツールで現場の混乱を目にしていたので、何もせず放置するわけにはいかないという気持ちがありました。せっかく流通やキャッシュフローが戻ってくるのに、ここで現場のスタッフが疲弊して、さらに人材流出が加速してしまい経営が立ち行かなくなることは避けなければいけない。少なくともCHILLNNを利用してくださっている施設はストレスなく対応できるようにと思い、新たに機能を開発しました。結果的には、豊富にあった既存機能をカスタマイズすることで着想から4日程度で対応を完了させることができました。

 今回の全国旅行支援で特殊だったのが、適用条件が当日になってみないと分からないということでした。チェックインの段階で身分証明書やワクチン接種証明書を見せていただいて初めて値引き額が決定するという仕組みです。OTAの場合、予め値引きされた価格で予約されているため、必要な書類を忘れてしまったときなどに追加で料金を支払っていただく必要が出てきます。これはお客様とホテリエ間のクレームの温床になります。実際に自社の施設でもその問題は発生していました。

 そこでCHILLNNでは、予約の段階では「必要書類を持参すれば割引きが適用できる」というコミュニケーション方法を取り、現地で確認が取れたら3ステップ程度ですぐに割引き分を返金できるシステムを作りました。こうすることで現地で追加で料金の徴収を行う必要がなくなったのでクレームの防止につながりました。

 また、他にこだわったのは、「あえて全ての自動化をしないこと」です。全国旅行支援を処理するツールを作り始めた当初は、ディスカウントの仕様が不明瞭でした。また、全国的にも地域によって仕様がバラバラで、完全にシステムで自動化を行ってしまうと、多発するであろう現場での例外オペレーションに対応できなくなってしまいます。最終的に私たちは、「ディスカウントの金額を提案する」、「ミスの可能性を指摘する」など、入力の負荷軽減とミスの排除をしつつも、必要十分な自由度を持って使うことのできる可用性の高いシステムを提供することにしました。

 弊社では、使われるシステムを作る能力を「実装力」と呼んでおり、「実装力」の高いチームをとても誇りに思っています。

-確かにその方が現場の負担は減りますね。ただ、販売の段階ではOTAよりも高く見えるので、消費者がそちらに流れてしまうということはないのでしょうか。

永田 やはりOTAはマーケティングコストをかけて認知を獲得されているので、部分的に流れているとは思います。一方で、当社から送客するお客様は、宿泊施設への理解が深く、そのスタンスに共感して選んでいる方が多いので、そうしたお客様は当社のシステムを使って予約してくださっており、これまでのところ数字上大きな増減はありません。

-割引きがあるから利用するという客層はOTAに流れても、今後もリピートしてもらいたい客層は確実に取れているということですね。

永田 そうですね。また、事前には割引きはしないのですが、参考価格として割引き後の価格が表示されるようにはしています。OTAでは全国旅行支援の開始前に予算を使い切ってしまったという例もあったので、結果的には宿泊施設に問い合わせが入り、そこから誘導していただいているケースもあります。

 今後は再びOTAが割り振られた予算を使い切る状態になると思うので、これから「全国旅行支援を予約できるのは自社予約エンジンだ」という認知を取りに行き、後半戦で恩恵を受けられるものと見込んでいます。

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