海外医療通信 2018年4月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

  • 2018年5月7日
 ※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

【リンク】
東京医科大学病院・渡航者医療センター

=====================================================

・海外感染症流行情報 2018年4月号

(1)世界の麻疹流行状況

日本では3月末から沖縄県で麻疹の患者数が増加し、4月23日までにその数は70人近くになっています。愛知県名古屋市でも、沖縄訪問後に麻疹を発病した患者から二次感染がおきている模様です。今回の沖縄県での流行は、台湾からの旅行者が初発例とされています(国立感染症研究所 2018-4-19)。台湾では2000年代初頭に麻疹がほぼ撲滅されましたが、今年の3月から台北周辺で航空会社の職員を中心に12人の患者が発生しました(台湾CDC 2018-4-19)。この台湾での流行が沖縄県にも波及したものとみられています。なお、フィリピンでも麻疹患者が増加しており、ミンダナオ島のダバオなどでは、今年になり4,000人以上の患者が確認されました(英国FitForTravel 2018-4-16)。

ヨーロッパでは今年3月からフランスやイタリアで麻疹の患者が増加しています(ヨーロッパCDC 2018-4-13)。フランスではボルドーなど南西部で患者が多く、4月中旬までに1300人を超えました。イタリアでも400人以上の患者が確認されています。これらの国々には、ゴールデンウイーク中に日本から多くの観光客が訪れるため、十分な注意が必要です。

南米ではベネズエラで麻疹の患者が増えており、ギアナ高地のあるBolivar州を中心に今年は300人近い患者が確認されました(米州保健機関 2018-4-6)。また、ベネズエラと隣接するブラジルの北部でも麻疹患者が増加している模様です。

日本では20歳代後半から40歳代前半の世代で、麻疹の免疫力が低下しています。この世代が流行国に滞在する際には、麻疹ワクチンの接種を受けておくことを推奨します。

(2)カンボジアでマラリア患者が増加

2017年にカンボジアでは、前年に比べて2万人多いマラリア患者が発生しました(FORTHホームページ 2018-3-29)。英国FitForTravelのホームページに掲載されたMalaria Mapでは、カンボジア北西部のタイ、ラオス、ベトナム国境付近が高度流行地域になっています。これらの地域に滞在する際にはマラリア予防内服などの対策が必要です。

(3)フィリピンのデング熱流行状況

フィリピンのマニラ北部にあるPangasinan県で、1月から3月までにデング熱の患者が1000人近く発生しました(英国FitForTravel 2018-4-18)。これは昨年同期の3倍近い数です。フィリピン全体の患者数は、2月末までに15,000人と例年よりも少なくなっていますが、今後、雨季の到来とともに全国的に患者数が増加する可能性があります(WHO西太平洋 2018-4-12)。

(4)ブラジルでの黄熱流行は沈静化

ブラジル南東部で発生している黄熱の流行は4月になり沈静化の傾向にあります。3月末から4月中旬までの新規確定患者数は26人で、2月から3月の1ヶ月間に発生した400人以上の患者数に比べて大幅に少なくなりました(ブラジル保健省 2018-4-19)。ブラジル政府による住民のワクチン接種が進んでいることや、ブラジル南東部が4月から乾季に入り蚊が減少するため、流行は次第に終息するものと予想されます。

(5)ジカウイルスの精液中における感染性

米国CDCの報告によれば、ジカウイルスを発病した184人の男性を調査したところ、多くの患者から発病3か月後まで、精液中にウイルスのRNAが検出されました。しかし、ウイルスの感染性は、発病して1か月後には消失していました(New England Journal of Medicine 2018-4-12)。WHOや米国CDCでは、ジカウイルスの流行地域に滞在した男性は、流行地域を離れても6カ月間はコンドームを使うなど安全な性行為をするように勧告しています。今回の調査結果により、この期間が短縮される可能性があります。

 

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2018年3月12日~2018年4月18日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2018.html

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢10例、腸管出血性大腸菌感染症6例、腸チフス・パラチフス3例、アメーバ赤痢6例、A型肝炎4例、E型肝炎1例、ジアルジア症2例が報告されています。前月と比較して大きな変化はありませんでした。

(2)蚊が媒介する感染症:デング熱は4例で、全例が東南アジアでの感染でした。デング熱の今年の累積患者数は27例で、2017年同期(60例)、2016年同期(99例)に比べて大幅に減少しています。マラリアは2例で、アフリカでの感染例でした。

(3)その他:麻疹の輸入例が4例報告されており、このうち3例がタイでの感染でした。

 

・今月の海外医療トピックス

マラリアワクチンの現状

4月25日はWHOの世界マラリアデーで、様々なイベントが世界中で開催されています。マラリアは熱帯や亜熱帯地域で広く流行しており、年間の死亡者数は、10年前の100万人から最近は40万人まで減少しました。これは殺虫剤を浸み込ませた蚊帳の普及が効果を発揮しているようです。ワクチン開発も半世紀にわたって行われてきましたが、GSK社の開発するワクチンの最終的な治験結果が2015年に発表されました(Lancet 386:31-45, 2015)。それによれば、流行地域で2歳未満の子どもに接種したところ、マラリアの発病阻止は36%、重症化阻止は32%で、ワクチン単独での予防は難しいという結論でした。流行地域に滞在する旅行者への効果は調査されていませんが、マラロンなど抗マラリア薬による予防内服の効果が100%近くあることを考えると、ワクチンによる予防はまだ現実的なものではありません。(濱田篤郎)


・渡航者医療センターからのお知らせ

(1)第20回渡航医学実用セミナー(当センター主催)

当センターでは、渡航医学に関連するテーマのセミナーを定期的に開催しています。

次回は「海外出張者の健康管理」などをテーマに、下記の日程で開催いたします。。

・日時:2018年6月28日(木)午後2時~午後4時半
・場所:東京医科大学病院6階 臨床講堂

・プログラムの詳細は5月に当センターのホームページでお知らせします。http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/seminar.html

(2)ジカウイルス感染症の予防啓発ポスター

当センターでは日本医療研究開発機構の研究事業の一環で「ジカウイルス感染症の予防啓発ポスター」を作成しました。下記サイトから印刷できます。海外渡航者の予防対策などにご活用ください。

http://www.tra-dis.org/data/zika_poster.pdf