itt TOKYO2024
itt TOKYO2024

ハウステンボス、澤田秀雄氏の挑戦-「未来都市」の実現に向けて(その2)

  • 2011年8月9日

<<「黒字達成の取り組みと震災後の課題」は前ページへ

▽澤田氏が描くHTBの未来像

スタッフと同じ「スーパークールビズ」で園内を歩く澤田氏。現場への近さを感じた

 ここまでテーマパークとしての取り組みについて書いてきたが、澤田氏はテーマパークとしてのHTBについて、「エンターテイメントメインにやっていくには立地条件が悪すぎる」とし、さらにエンターテイメントへの投資規模でも不十分と指摘する。

 また、HTBのもともとのコンセプトは、オランダ、ヨーロッパ、チューリップなど。澤田氏は、「電線が1本もなく、室外機もない。オランダよりここのほうがきれいなくらい」と語り、2200億円を投じて作りこまれたハードを評価しつつ、それでも「本物のオランダを超えることはなく、オランダのコンセプトでは伸びない」と断言する。

 その上で澤田氏が語るHTBの未来像は、「観光ビジネス未来都市」であり、「ヨーロッパの良さは残しながら、未来都市を構想していく」という。


▽医療観光で「楽しく健康に」

トモダチ・ファクトリー内の様子。フレンドリーなネイティブと話しながら英語を学べる 「観光ビジネス未来都市」、あるいは「未来都市」とは何か。

 この問いに対する答えの一つは、医療観光だ。テーマは、「なるべく薬に頼らず、楽しく健康になる“リゾートウェルネス”」で、治療ではなく「アンチエイジングと未病」に取り組む考え。すでに、温熱療法に取り組むソアラメディカルと今秋から、免疫力向上を目的としたサービス開始で合意。1日、1週間、1ヶ月のコースを用意する。

 もう一つの答えは、ベンチャー企業の誘致だ。温熱療法の企業もベンチャーだが、すでに第1号として「HTBで英語学習」をテーマにした地区“イングリッシュ・スクエア”に、楽しみながら英会話を学ぶことを目的にした施設“トモダチ・ファクトリー”が開業。こうして新たな需要を開拓することで、来場者数の増加と客層の多様化をはかっていく。


▽長崎/上海間定期航路でインバウンド誘致
 “大航海時代”を予測

 観光ビジネス未来都市とはやや離れるが、外国人来場者の増加にも中長期的に取り組む。現在は2割程度のシェアを4割から5割に高めたい考えで、2012年3月からは長崎/上海間に客船フェリーを就航。澤田氏が「ローコスト・エンターテイメント・シップ」と呼ぶ同船は、最大1700名を収容可能だ。

 澤田氏は、飛行機と船を比較し、収容人数の多さやそれによるコストの低減などの点から「飛行機の方が早いだけで、後はすべて船のほうが優れている」と強調。さらに、ショーや音楽、多様な食事など飛行機の機内では実現不可能な点を挙げ、「飛行機と船が両立する“大航海時代”が来ると思う」と自信を示した。

 このほか、HTBの街としての機能をいかし、“スマートグリッド”などエネルギー関連の先進的な取り組みも進めたい考え。ベンチャー企業の力を活用しつつ、他都市の模範となるようなあり方を実現し、その点でも海外からの訪問につなげていきたいという。


メンタル面にも変化?
現場の空気に“勢い”と“真剣さ”

夜のミュージカルショーの様子。“熱”や“パワー”で観客をリード

 現地を訪れて強く感じられたことは、観念的な話だがHTBの現場に“勢い”と“真剣さ”があることだ。実際のところ、澤田氏が「58点」と評価するとおり、広大な敷地すべてに改革、改善の手を行き届かせるのに1年は短く、粗が目に付いた部分もあった。しかし、不完全な状態であっても、勢いを持って真剣に取り組んでいるのが感じられると、不思議と嫌な印象は残らない。

 例えば、夕方からのパレードやミュージカルは東京ディズニーランド(TDR)などのそれと比較すると、規模や内容はどうしても見劣りする。こういったケースで出演者側がそれを自覚し、卑下し、恥ずかしがって萎縮してしまうと、観客もそれを敏感に感じ取り、その場の雰囲気は一辺に悪くなる。しかし、HTBの彼らは、こちらを圧倒するまでの勢いで演じきる。“観客を押し切る”あるいは“突き抜ける”という言葉が適切かもしれない。

 澤田氏は着任時に「みんなで掃除をしよう」「明るく、元気に、楽しく仕事をしよう」「2割の効率化をめざそう」と社員に語りかけたという。このスローガンが効果を発揮したか、あるいは“19年目で初めての黒字”によるモチベーションの向上も当然あっただろう。澤田氏は「(社員の)モチベーションは(来場者数の増減によって)上がったり下がったり」と笑うものの、HTBの快進撃は、月並みな言葉でいえばこのような“その時にできることを本気でやり抜く”姿勢がカギになっているのではないかと思う。


取材:本誌 松本裕一