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明確すぎる目的が需要を生む、若者の行動意識しアプローチを-観光庁の研究会

  • 2011年7月7日

 観光庁は昨年7月、若者の旅行振興を目的とし、民間企業や大学関係者、行政・観光関係団体の関係者で構成する「若者旅行振興研究会」を発足した。このなかで、研究会の参加企業、団体が若者旅行に対するモニターツアーを通して、若年層の旅行性向や意識に関する調査分析をしており、先ごろの第4回の研究会で発表されたその最終報告では、若年層への旅行を促進するキーワードが見えてきた。今回はダイヤモンド・ビッグ社、楽天トラベル、じゃらんリサーチセンターの報告を中心にまとめる。


社会貢献活動を通じた旅行のケース

 ダイヤモンド・ビッグ社「地球の歩き方」では、「ボランティア等社会貢献活動を通じた旅行性向・意識に関する調査・分析」を実施し、7つのモニターコースを造成。実際には5コースを催行し、75名を集客した。

 発表した同社副本部長の奥健氏によると、1人参加の場合、アンケートには「ボランティアは初めて」ながら「こういうのに行ってみたかった」「全国規模の友人ができてよかった」「今回のメンバーと付き合いが続くといいな」という感想が多い。実は同じ目的を持つ学生と知り合う機会が少ないといい、このツアーがこうしたニーズを提供する役割をも果たしているという。また、訪問先で「ありがとう」との感謝の言葉をかけられることも、満足度を高める要因となったようだ。

 申し込みの参考にしたものは「インターネットの書き込み」「インターネット上の体験談」「インターネットやガイドブックで調べて」が多かった。モニターツアーに申し込まなかった学生の理由では「過去の参加者の声を聞いて判断したい」が65.5%と半数以上であることから、奥氏は今の若者世代が内容が分からないものに対しては参加しにくい傾向があることを指摘する。

 消費傾向はツアーに食事が付いていたこともあり、現地での1人当たりの使用金額は約1万円。「旅行業としてお金を使ってもらう工夫が必要だ」と奥氏は課題をあげる。「物品を購入する際には常にコストパフォーマンスを意識している」との回答が57.8%、「将来役立つかを基準としている」は55.9%でシビアだが、今回のモニターツアーの申し込み時に他のツアーと比較検討したのは15%と少ない。「価値があると感じたものは価格を比較することなく購入するケースがある」とも分析する。

 こうしたことから、奥氏は「ボランティアをテーマにした国内旅行は確実にマーケットがある」と総括。今後の推進には、受入側自治体との情報交換や連携、ボランティアをまとめるリーダーの育成とノウハウ共有が課題であるとまとめた。


キャラクターツーリズムのケース

 楽天トラベルではキャラクターツーリズムとして、長野県渋温泉で「カピバラさん」を用いたモニターツアーを実施した。カピバラさんののぼりや案内板を設けて街全体をカピバラさんワールドに演出したほか、参画した温泉施設には必ず1室、カピバラさんの小物類を配置した「カピバラさんルーム」を用意。参加者にはカピバラさんのオリジナルグッズもプレゼントするという、徹底振りだ。

 総予約人泊は847人泊で、総宿泊者数は600名のキャパシティに対して468名。東日本大震災の影響でキャンセルが相次ぎ、3月12日以降に171人泊のキャンセルとなったが、3月19日には戻り始めた。発表した同社執行役員事業推進第二部長の上山康博氏によると、「キャンセル待ちをしていた人の予約があった」と、キャラクターの訴求力を示唆する。

 参加者の内訳は、6割が女性で、10歳から24歳の参加者が18%、10歳から29歳が全体の42%を占めた。同社の通常の利用客層は男性が75%、30代、40代で64%であることから、明らかにキャラクターが新しい市場を誘発したことがうかがえる。

 旅行をした理由は「カピバラさんが好き」(93.7%)と圧倒的に多い。ツアーの情報源を見ても、「カピバラさんのホームページ」(62.0%)が最も多く、2位の楽天トラベルホームページ(21.3%)の約3倍。キャラクター公式メルマガ(14.0%)も3位だ。宿泊者の満足度は94%で、同行者(若年層以外)も「とても満足」(68%)との回答が多かった。「また参加したい」(93.2%)とリピート希望率も高い。

 上山氏は「キャラクターツーリズムが訴求できるのは、明確すぎるほどの強い目的が作れること」と、その強みを強調。「拡大解釈すればミッキーに会いたいから行くという、東京ディズニーリゾートと同じ」と語る。若者向け旅行には「既存の観光目的では若者を引っ張るほどの目的にはならない。キャラクターに代表されるコンテンツの力が必要」とし、例えば若者の間で人気の「夏の野外音楽フェス」、テレビ番組で人気の「工場見学」などを例示。こうしたコンテンツにインターネットを絡めることで、若年層の旅の可能性が広がるとまとめた。


平日・閑散期の需要促進商品のケース

 リクルートのじゃらんリサーチセンターでは、「既存の枠組みにとらわれない視点での平日・閑散期の旅行需要促進商品造成事業」を実施。調査対象のうち、旅行を実施したのは7割で、そのうち平日の旅行を楽しんでいる人は5割強だった。年代別では若年世代を含む18歳から34歳の女性が50.5%と最も多い。

 平日旅行をした理由は「平日の方が旅先でゆったりできそう」(38.8%)、「学校・仕事が休みだったから」(28.2%)、「同伴者等の日程調整の関係で」(27.2%)、「土日祝の旅行に比べて割安」(20.3%)と続く。同社研究員の横山幸代氏によると、「今の若年層は『合理的な世代』といわれているが、インタビューでもその面が現れている。『ゆったり感』『割安感』に加え、同行者などの『条件面』も旅行を誘発している」とする。

 横山氏は今回の事業推進にあたり、(1)値下げ以外での平日需要拡大、(2)消費経験値の高いといわれる若年層への商品開発、(3)ネット販売が一般化したなかでの流通施策、の3点を課題として紹介。同事業はこれらを検証しながらすすめた。特に流通の課題では、フラッシュマーケティングサイトの認知度が8割にのぼるものの、旅行・宿泊商品を利用したことがある人は2.5%で、「今後伸びていく分野」と期待する。

 今回の熱海でのプランは、フラッシュマーケティングサイト「ポンパレ」でも販売しており、「ポンパレでの購入がきっかけで旅行を決めた」(67.9%)と、検討していなかった旅行の誘発に成功している。横山氏は「旅行商材を探している人だけを対象にするのではなく、旅行を誘発できる情報インフラの活用で需要が生み出せる」と示唆した。

 さらに、若者世代は上の世代より「知人に相談」「現地に行ってから、PC・モバイルで探す」人が多く、「現地で、ツイッターなどで『おいしいお店を教えて』『今晩泊めてくれる旅館はありませんか』など呼びかけることもある」と、若者世代ならではの行動を紹介。今後のテーマとして、「行ってから探す」「とりあえず聞いてみる」といった、若者の行動を捉えたアプローチの必要性を述べた。


海外旅行も若者の行動に合わせたアプローチを

 今回の研究会では、玉川大学経営学部観光経営学科教授の折戸晴雄氏が、同校の学生に対して実施した海外旅行に対する意識調査の結果を発表。これによると、「誰と旅行したいか」「前回旅行したのは誰か」の項目では、前回の旅行を一緒にしたのは「家族」が31%から40%であったが、希望では「家族」は11%にとどまっており、「旅行費用を負担するスポンサーとしての家族の存在が見える」とする。旅行費用は「10万円から15万円で、旅行に付帯する金額はその半額」という。

 また、海外に興味を持ったきっかけは「テレビ、雑誌」などのマスメディアが約4割で、インターネットは3、4%にとどまる。ただし、旅行へ行く手段の情報収集ではインターネットが約4割をしめ、テレビや雑誌、ガイドブックなどは約3割に低下。興味の喚起と具体的な情報の収集先を使い分けていると説明した。

 さらに折戸氏は、別の意識調査で、ネットや雑誌、クチコミの3つの情報源を使い分け、旅行中に情報を発信した人が8割以上だったことを説明。「安い価格で仲間や家族に旅行経験をアピールしたい。他の人には負けたくない、今すぐに楽しみたい」という若者心理を紹介するとともに、「若者は分からないことがあれば、すぐにスマートフォンで調べ、結果を求める。ユーザー視線のコンテンツをつくり、思い立った時に何度も行けるコンパクトな旅行といった、若者の行動傾向にそったアプローチも必要だ」と語った。