フィンエアー、アジア戦略の現在、旅客数倍増に向けた取り組み

  • 2010年9月30日
 2010年夏スケジュールで成田線をデイリー化したフィンエアー(AY)。役所広司さんを起用した大規模なキャンペーンの効果もあってか、座席数を急増するなかでも1月から8月までの日本市場の累計旅客輸送量は前年比21%増となっている。来夏にはさらに関空と中部もデイリーで運航しようとするAYの積極的な展開のねらいは何か。また、その勝算をどのように見出しているのか。先ごろにAYがヘルシンキで実施したプレスブリーフィングのなかから、現在、そして未来の姿を探る。


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引き続き順調なアジア戦略、次の目標は旅客数2倍

 フィンエアー(AY)の戦略は「VIA HELSINKI」、つまり「アジア/欧州間をヘルシンキでつなぐ」の一言につきる。これは、アジアと欧州を結ぶ最短ルートの途中に位置するヘルシンキの地理的優位性をいかすものだ。大都市間の単純往復ではなく、1度でもトランジットが必要なアジア/欧州の都市間の移動需要に対して、「どこかを経由するのですから、一番早く到着できるヘルシンキ経由で」と訴えかける。

 この戦略は、これまでのところ非常に順調に推移している。日本路線でいえば、2001年にはたった週2便であったところが、2010年夏スケジュールでは成田、関空、中部から週19便を設定し、そして2011年夏スケジュールで週21便を運航しようと計画。日本以外でも、2001年と2008年の比較になるが、中国は週3便から週25便、インドは0便から週13便と急速な拡大を続けており、2007年にはアジア/欧州間で120万人の旅客を運んだ。2010年は9月中旬に100万人を超え、通年では150万人の突破も見込めるという。

 今回、AYのCEOのミカ・ベフビライネン氏が発表した2020年のビジョンも、当然ながらVIA HELSINKIのコンセプトを踏襲する。その上で掲げたのは、(1)旅客輸送量を表す有償旅客キロ(RPK)、収益性、サービスの質で北欧系航空会社のナンバーワンをめざす、(2)アジア/欧州間市場でのトランジットを必要とする移動において、「欧州系ビッグスリー」を抑えて最も望まれる選択肢(most desired option)になる、などだ。ベフビライネン氏によると、アジア/欧州間の旅客数が2015年までに現在の2倍に拡大するといい、AYとしては現状のシェアの維持、つまり現在の旅客数の倍増を目標としている。

 目標を達成するための具体策の一つは路線網の拡充だ。ハブ&スポークという言葉があるが、AYの戦略は、ハブであるヘルシンキから東西に長いスポークを伸ばそうとするものといえる。旅客に2回トランジットを強いると競争力が落ちてしまうため、アジア線、欧州線ともに路線の拡大、座席数の増加は今後も継続していく。インド/北米間市場もアジア/欧州間と同様の理由で取り組みをはじめている。また、ワンワールドのパートナー航空会社との連携による需要の取り込みも重視する。


「質」向上で弱点カバー、リブランディングも間近

 目標達成に向けた別の取り組みは、サービスの質の向上だ。AYでは、「望まれる(desired)」ことをめざす上で、「早い」だけでなく「良い」航空会社であろうとする。これは、特にビジネス需要を取り込む上で重要な要素で、すでに2009年末にはヘルシンキ空港にスパを備えた新ラウンジを完成。新機材や新シートの導入もこの一環だ。

 そして、現在はリブランディングの準備も進めている。ロゴや機体の塗装、内装などを刷新する計画で、詳細は明らかにされなかったが、ベフビライネン氏は「例えるならば国際的チェーンの高級ホテルではなく、ブティックホテルでありたい」と方向性を示す。キーワードとしては、ビジネス客をターゲットとし、シンプルで簡単であること、細分化する旅客のニーズに応えることなどで、コンセプトは北欧の国らしく「デザイン」。これには「デザインド・フォー・ユー」、つまり旅客一人ひとりのニーズにテーラーメードで応えるというメッセージも込められているようだ。詳細の発表は、新塗装の新機材を披露する12月を予定している。

 また、「質」への取り組みはAYにとって単なる顧客満足度の向上だけではなく、別の意味も持つ。先述の通り、AYは早さを売りにするが、アジアと欧州すべての都市間で「一番早い」を実現するのは不可能だ。そこで、旅客に対して早さだけでない価値を提供することが重要になる。新ラウンジはその好例だろう。本来は短いトランジットタイムが売りであり、快適かつ居心地の良いラウンジはコンセプトにそぐわないのだが、出発までに時間が空いてしまった場合には新しい価値となる。その意味で、質の向上はいわば弱点を補って長所に変えようとする試みにもなり得るのだ。


環境負荷の少なさも武器に

 AYはまた、早さを別の観点からもアピールする。それは「環境負荷」だ。当然のことながら、最短のルートで飛行すれば二酸化炭素の排出量も最小で済む。また、長距離路線においては、搭載する燃油の重量の問題で一旦着陸した方が使用する燃油が少なくなる。例えば、ニューヨーク/デリー間をエアバスA340-300型機で運航する場合、直行便であれば燃油消費量が101トンであるのに対し、ヘルシンキ経由であれば92トンで済み、28トン分の二酸化炭素の排出を抑えられるという。さらに、小さな空港で待ち時間が少なければ、単純に二酸化炭素の排出量も少なくなる。

 また、AYでは新機材への投資を継続しており、機齢を若く保つことも環境負荷の軽減に貢献。現在のところエアバスA330型機とエアバスA340型機を最大15機、エアバスA350XWB型機を11機発注しており、2014年以降に受領予定だ。こうした取り組みにより、AYは排ガスの量を2017年までに2009年比で24%、1999年比で41%削減する目標を掲げている。

 この環境面での優位性をアピールするため、AYではこのほど、ウェブサイト上で「排ガス排出量計算機(エミッション・カリキュレーター)」の提供を開始。平均値や試算値ではなく、搭乗便の実際の旅客数や貨物量に応じて、旅客1人あたりの排出量を計算する。日本市場では環境負荷を考慮した購買行動はあまり顕在化していないが、すでに多くの航空会社が排出量の計算機能をウェブサイトに用意しており、そう遠くないうちに環境負荷の大小で航空会社が選ばれる時代が来るかもしれない。



取材:本誌 松本裕一