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特集:「若者の海外旅行離れ」(3)、業界がするべき役割

  • 2009年7月8日
ライフスタイルのなかに海外旅行を位置づける具体的な取組みを

 昨日は若者の主観を中心に、「若者の海外旅行離れ」の実態を検証した。本日も千葉千枝子氏が引き続き、観光学部を設置する私大2校へのアンケート、グループインタビューを通した若者の傾向をまとめ、アプローチ方法を提案する。非日常性を日常に近づけるような取組みで、若者が海外旅行の魅力に気付くきっかけとなる例もある。
                            
                               
                                 
海外旅行デビューが早いほど忌避しない傾向にある

 海外旅行を経験している学生に「初めて経験した時期」をたずねたところ、「中学・高校のとき」が最多で、次いで「小学生までの間」に経験していることがわかった。中学・高校時代の旅行形態として、修学旅行やスポーツ遠征、ホームステイや研修旅行などをイメージしがちだが、半数以上が「両親や親戚と行った」と答えている。共通項は「早期のうち」に「ファミリーで海外旅行」を体験している点だ。その大半は親の出費で、家庭によっては経済的理由などで、そのような環境にない場合もあるだろう。昨今「旅育」が叫ばれているが、修学旅行の海外化と実施率の向上、低齢化を今以上に推し進めることも重要だ。

 一方、海外旅行未経験の学生に「積極的に海外旅行をしたいと思わない」理由をたずねたところ、「お金がない」が第1位で、第2位は「海外旅行よりも先に、もっと国内旅行がしたい」、第3位は「時間がない」、第4位に「言葉がわからないので不安」と続き、なかには「面倒くさい」という表記もあるほどだ。金銭的な障壁もあるが、第3位以降に見られる「食わず嫌い」的な忌避傾向を、未然に防ぐ工夫や努力も必要だろう。

 また、阻害要因として、親世代の「収入格差」や「忌避傾向の世代継承」、さらには「過保護」が考えられる。ある女子学生のコメントのなかに、「友だちとの海外旅行は親が反対する(から行くことができない)」としたものがあり、「国内旅行は反対されない」と続いた。




若者の海外旅行離れは親の世代からの継承

 非観光系の一般学生に「パスポートを持っていますか」と「成田国際空港に行ったことがありますか」の質問を投げかけたところ、いずれも男女の差が歴然としている。女子学生のパスポート保有率は38%に対し、男子は19%と低く、成田空港へ行ったことがある人も男子が大きく下回った。かつて餞別を片手に、友人知人の無事を祈って国際空港へ見送りに出たことがある世代にとって、海外は憧れであり、空港は格別なる想いの場でもあった。そうした世代との隔世感を如実に示す。


 彼らに、親や兄弟の海外旅行経験値をたずねたところ、「よく海外へ行く」と答えた学生は13%にとどまり、「あまり海外へ行かない」(13%)と「まったく海外へ行かない・行ったことがない」(74%)をあわせると、実に9割近い学生が海外渡航経験の豊富な人を身近に持たないことがわかった。

 それを裏付けるかのように、アンケート用紙の余白に書かれた自由意見のなかには、「周囲に海外へ行く人をみかけない」と述べる学生も複数存在した。海外旅行は「もはや大学生のトレンドではないから、カッコ悪い」ということだろうか。なかには、「簡単に(海外へ)行ける時代だから、自慢できない」という意見もあった。前者のような一種の「横並び意識」や後者のような希少性の喪失が、海外旅行離れに拍車をかけているようである。

 不要不急の海外旅行はひとつの趣味であり、暮らしに余裕がなくては実行に移せないものだ。しかし、かつては親世代に海外渡航歴がなくとも積極的に国際人としての素養を身につけようと海外へ飛び出す若者が少なくなかった。そこで現代の若者たちの本音をさぐると、「海外に魅力を感じない」、「他に楽しいことがいっぱいある」「この時代に出費する勇気も余裕もない」といった言葉が、アンケート用紙の余白を埋め尽くす。

 面白いことに今回、協力を要請した横浜商科大学・羽田ゼミナールの学生のなかには、海外で旅行業の実務を経験した40代後半の男性が在籍しており、世代の違うクラスメートらと休みのたびに海外を旅していた。海外に憧れて社会に出た半生を熱く語る人を身近に置き、それに導かれるかのように旅の虜になる周囲の若者たち。そうした経験値の高い人、海外の魅力を表せる人を身近に置く、交わらせる、ということも必要なのではなかろうか。


海外旅行は内面を磨くためのツール、動機付けの4つのポイント

 若年層に対して、外見だけではない内面を磨くための一つのツールとして、海外旅行を動機づけさせる必要性がある。有効な方法として例えば、(1)インターンシップ制度の波及効果が考えられる。インターンシップはホテルや航空業界での例は多いが、旅行会社での職業体験機会を増やすべき時期に来ているのではないだろうか。職業訓練の場を提供して門戸を開き、若年層に気づきを促す。目先の利益追求ではなく、長い将来を見据えた一つの対策=社会貢献活動として取り組む必要があるだろう。

 また、(2)共働き夫婦の子連れ旅行の情報発信と事例の積極的な露出も重要だ。女子学生たちをリピーターに育てあげるためには、女性の生き方、生きざまと並行した世代別の旅の楽しみ方を明示することが効果的といえる。それにともない、(3)身近なところにメッセージリーダーを置き、若いころの海外旅行経験がいかに重要であったかを実例をあげて紹介することも必要だ。

 さらに、教育課程における総合学習の「旅育」と並行して、職業観や人生観が形成される高校生・大学生を対象に、(4)ライフスタイルの意識改革を促すプロデュースをする必要がある。海外旅行は人生をより豊かにする『ライフイベント』であり、未来につながる機会であることを、外部講師の派遣などで地道に語りかけることも重要だ。修学旅行やゼミ、サークル旅行などの機会を利用し、学生の声をとり入れながら総合的なプロデュースをしていくことが望ましい。双方向に風通しをよくし、小さな声を拾う努力を惜しまぬようにしたい。そのためには業界人のなかに、若年層に特化したマーケッターやプロデューサーを育成することも課題となる。次世代消費のリーダーたちへの働きかけをさらにアクティブにするには、一業界の定量的な取り組みではなく、業種をまたいだクロスオーバーな連携も視野に入れるべきだろう。



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 取材、調査研究:千葉千枝子