顧客と社員の満足度が業績に連動する−リッツ・カールトンの人材教育に学ぶ

  • 2009年2月24日(火)
 「人財」という言葉を多用する企業経営者やリーダーが増えている。社員教育をどのように実践し、現場で活かすか。顧客の満足度はもちろん、従業員の持てる力を最大限に引き出し、業績に反映させるための手法に黄金律はあるのだろうか――。世界45ヶ国、従業員数3万2000人のすべての人材開発・育成をつかさどるザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニーの「グローバルラーニング&リーダーシップセンター」で最高責任者を務めるダイアナ・オレック氏が先月、日本通運本社ビルで開催されたビジネスリーダー向けセミナー「汐留塾」に登壇。感動と伝説を生むとされる同社の「レジェンダリー・サービス」、その企業ノウハウを講演した。


先読みができる専門家に育てなくてはならない

 「全米一のサービス品質」「世界で最も優れたカンパニー」など、数多くの受賞歴を持つザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニー(リッツ)。この四半世紀でホテル業という一枠を超え、企業としての「文化」にも注目が集まる。世界70ヶ所にホテル&レジデンスを展開するリッツでは、従業員の人材開発と育成を目的に今から10年前、リーダーシップセンターをワシントンDCに開設。何千マイルも離れた地でも、共通の従業員教育、企業理念の徹底を可能にした。

 従業員を「スタッフ」ではなく「紳士淑女」と呼び、彼らは常に「クレド(ラテン語で『信条』)」という小さなカードを身につける。そこにうたわれる従業員への約束事項の冒頭には、「(お客様へお約束したサービスを提供する上で)紳士淑女こそがもっとも大切な資源」と綴られている。CS(顧客満足度)の向上はすなわち、従業員を「資源」ととらえ彼らの満足度の高さ=ESをいかに高めるかによるものだということを、リッツは体現する。

 教育部門の最高責任者であるダイアナ・オレック氏は「(われわれが用いる手法の)8割は原理原則、すべての企業にあてはまる」と断言する。代表的なのは従業員のモラルコンパス「感性の羅針盤」だ。高いアンテナをたて、レーダーの照準をあわせる。顧客のわずかな言葉や態度を見逃さず、先読みをしてタイミングよくサービスを提供する。その決済権を彼ら一人ひとりに与えることで、迅速かつ的確なサービスを生み、ひいては顧客に感動を与える。ダイアナ氏の「先読みができる専門家に育てなくてはならない」との言葉どおり、例えば風邪気味の宿泊客に対しては、オーダーがなくとも蜂蜜とレモンを添えた紅茶を提供したり、客室に残された、外れたボタンは滞在客が不在のうちに縫いつけてあげる。こうした小さな演出は「ワオ・ストーリー」と呼んでおり、「小さな演出は、わずか3ドルもあればできる。われわれは、すべての従業員に一日最大2000ドルまでの決済権を与えている」とダイアナ氏。これが笑顔の向こう側に隠された、確立された企業システムの片鱗なのである。

 こうした企業システムは、緻密な「方程式」のうえに成り立つ。顧客との深い絆を培うためにも(1)極力ミスを減らし(2)混沌とした想いをなくす。例えば「会社が嫌い、仕事が嫌だ、上司が…」などの負の考えを払拭させることが大切で、そこには全従業員参加型の教育制度とモチベーションアップのための具体的な方策が隠される。特有のカルチャー(企業文化)と社内システム、このふたつの融合がリッツに伝説を生んだのである。


機関車をも動かす「華氏212度」になぞられる成否の差

 従業員のモチベーションを上げるために、多くのリーダーは日々頭を悩ます。リッツでは、沸点にあたる華氏212度「トゥートゥエルブ」を合言葉に、熱意を情熱に転化させる人材開発・教育手法を用いる。沸点に達することで機関車をも動かす原動力となるものを、ほんの1度の差で「ただのお湯」とならないよう、一人ひとりが組織の中で責任を持ち、個人としても成功をおさめるよう促す。企業のビジョンやミッションは、ややもすると経営陣だけにとどまり、従業員すべてに浸透しづらい。そのために系統だったキー・プロセスを踏んで新人教育を施し、かつブラッシュアップさせている。

 優れた人材を獲得することが至上ではあるが、新人をパーソナライズさせ、自社の最大のファンにするには、最短でも8ヶ月はかかるとダイアナ氏。新人は2日間の入社オリエンテーションをこなしたあと、コーチとともに現場で3週間の実地訓練に入る。離職率の低さで知られるリッツだが、企業文化にあわないのであればこの時点で辞めてもらうこともある。そして365日通年でのブラッシュアップが待ち受ける。各国で起こった従業員の成功事例やワオ・ストーリーを週に一度、本部が配信し、さらに現場では毎日15分程度のミーティングを実施して、モチベーションの持続を促す。

 しかしここまでは、多くの企業が実行しているプログラムとあまり大差がない。大切な資源を、いかに希少性の高い「人財」に育て上げるかを考えたとき、リッツの手法には、旅行業界が模範としたい点がふたつある。

 ひとつは評価体系である。リッツでは従業員の評価や報奨を、自己申告を可能とする一枚の用紙で、自由に提出できる仕組みをとる。非常にオーソドックスで原始的な手法ではあるが、社内のコミュニケーションを円滑にする役割も果たす。近ごろでは旅行業界でも自己申告制度を導入する企業は少なくないが、人事考課は年に一度が一般的だろう。スピードの時代に呼応しているとはいいがたく、やり方次第で沸点へ高めるどころか冷却を招くおそれすらある。リッツでは、複数の目による評価や励ましが、良好で円滑なチームワークを育んでいるといえる。

 さらにリッツの従業員一人ひとりが、顧客の個人的な情報、嗜好や体質、ペットや子どもの有無に至るまで専用メモに書きとめて、データベース化している点も見逃せない。ネット全盛の時代にあって、こうしたリアルコミュニケーション上での情報は希少性が高い。日本の名旅館が贔屓客に個別に施してきたサービスに近似しているが、従業員全員が社内イントラで情報を共有化できる今の時代に、マニュアルベースな情報の集積は意外と見落とされている。取引先の情報や巷のトレンドをインサイダー化することで、事業の展望や新たなアイデアの創出にもつながるだろう。

 柔軟でアナログ的な思考を日々のビジネスに取り入れる仕組み作りが、事業の成否をわけるといっても過言ではない。なぜなら、ダイアナ氏がいうには「(顧客は)満足すると23%も余計にお金を払うという調査結果がある」からだ。一個人の職人技とせず、情報を共有化し、ともにレベルアップできる体制づくりが、旅行会社には求められている。

取材:千葉千枝子

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