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「心のバリアフリー」を、東京都がアクセシブル・ツーリズムのセミナー開催

十河氏

 東京都産業労働局はこのほど都内で「アクセシブル・ツーリズム推進シンポジウム」を開催した。アクセシブル・ツーリズムとは障がい者や高齢者を含めて、誰もが移動やコミュニケーションに不自由を感じることなく旅を楽しめることをめざす取り組み。昨年に引き続いて開催された今年のシンポジウムは、車いすの地下アイドル「仮面女子」猪狩ともか氏の基調講演の後、「世界一のおもてなし都市・東京都『アクセシブル・ツーリズム』」と題して、パネルディスカッションがおこなわれ、設備の充実に加えて「心のバリアフリー」の重要性も訴えられた。

 東京都産業労働局次長の十河慎一氏は、都内のホテルをはじめとする都内施設のバリアフリー化がオリンピック・パラリンピック開催に向け着々と進んでいることにふれ、「東京オリンピック・パラリンピックの期間中に約2100万人の来日観光客が見込まれている。これを機に障害の有無に関わらず、すべての人が旅を楽しめる社会を創出できるよう、旅行会社をはじめ関係機関のますますの尽力をお願いしたい」と挨拶した。

その駐車場、その改札、そのトイレ「でなければ使えない」人のために配慮を

猪狩氏

 第1部の基調講演では「ある日突然両下肢マヒとなったアイドルが語る、東京が変わるべき姿」と題して、猪狩ともか氏が登壇。2018年に事故により脊髄損傷で両下肢マヒとなり、車いす生活となりながらもアイドル活動を続けている同氏は、まず車いすで街に出ようにも段差やエレベーターが設置されていないなど町中の移動の制限の多さを改めて感じるといった自らの体験を紹介。

 一方、車道と歩道の段差は車いす利用者にとっては不便だが、視覚障がい者にとっては必要な段差であることなど、さまざまな障がい者のためになされている配慮などにふれながら、(1)車いす利用者用の駐車場や「誰でもトイレ」は障がい者のために空けておいてほしい、(2)駅に設置された車いすの通れる幅の改札は、車いすの方がいたら譲ってほしいなど、「その設備でなければ使えない人達がいる。不要の時にはなるべくスペースをあけておくなど、配慮をお願いしたい」と訴えた。

 さらにホテルなどの施設におけるバリアフリー情報には、「シャワーチェアの有無や、フラットな場所を通りながら段差なく移動できるか」など、具体的な設備の記載などが必要だとコメントしたうえで、「お手伝いしましょうかという声かけや、車いす利用者の目線に合わせてかがんでの対応は非常にうれしい。ぜひ心のバリアフリー化をお願いしたい」と締めくくった。

潜在的市場規模は3兆円。来るべき高齢化社会に向けアクセシブ・ツーリズムの推進を

パネルディスカッションの様子

 第2部のパネルディスカッションは「世界一のおもてなし都市・東京と『アクセシブル・ツーリズム』」をテーマに、テーマパークやホテル、車いす利用者としての立場など、それぞれの分野からの登壇者がアクセシブル・ツーリズムについての事例や提言を述べた。

 まずチャックスファミリー代表取締役で東京ディズニーリゾートの運営部長を務めた経歴を持つ安孫子薫氏は、東京ディズニーリゾートの成功事例を紹介。障がい者にとっても「夢の国」としてそのホスピタリティに高い評価を得ている東京ディズニーリゾートでは「お客様一人ひとりの要望が違うことから、接客マニュアルは作成していない。キャストと呼ばれるスタッフ一人ひとりに何のために仕事をしているのかというフィロソフィー、東京ディズニーリゾートの軸となる文化を理解してもらい、キャストがそれに対して共感し、活動できる土壌づくりを徹底した」ことを述べた。

 ホテル椿山荘東京マーケティング課長の眞田あゆみ氏は、山県有朋の屋敷を土台に、設立から70年を迎える椿山荘の設備を生かしながらの、バリアフリー対応策を紹介した。障がい者だけでなく結婚式利用の高齢者の利用も多いことから、ホテルのPRポイントの一つである庭園の遊歩道を舗装化するなど、誰もが気軽に楽しめるように改装。

 さらに眞田氏は、ユニバーサルルームにも庭園の眺めが楽しめるカテゴリーを設定し好評を得ているといった事例を挙げ、「ユニバーサルルームは数が限られるが、シャワーチェアや入浴時の補助手すり、バスタブのラバーマットなど貸し出し備品を数多く取り揃え、それをホームページなどで具体的に紹介することで好評をいただいている。実態を誠実に伝え、利用者に過剰な期待を抱かせないことが大事」と語る。モニターを通してカーペットの厚みや段差、刻み食など料理についての配慮といったアドバイスも得ながら、今後も対応の充実を図っていく考えを述べた。

 このほか日本財団パラリンピックサポートセンター推進戦略部「あすチャレ!」プロジェクトディレクターにして、車いすバスケットボールの選手として2000年シドニー大会に出場した根木慎志氏は、「欧米ではほとんど車いす利用でも普通に移動ができる社会になっており、ホテルでも段差を感じることなく移動ができる。ホテルの手すりも右にあるか、左にあるかということが、我々障がい者にとっては非常に重要な問題。いろいろな声を取り入れながらバリアフリー化を進めてほしい。ちょっとした声掛けでバリアはなくなる」と、ここでも「心のバリアフリー化」の重要性を訴えた。

 モデレーターを務めた経済評論家の西村晃氏は「2019年の100歳越えの人口は7万1000人だが、これは2050年には100万人になると言われている。またシニアと障がい者を含め、現在のアクセシブル・ツーリズム市場は約1兆750億円にのぼり、今後の高齢化社会を見据えると市場規模は3兆円とも言われ、ある意味インバウンドよりも大きいとも考えられる。アクセシブル・ツーリズムの推進はあらゆる人々と社会の貢献に繋がる。日本のあらゆる場所がシルバーシートであるという意識が必要な時代だ」と締めくくった。