itt TOKYO2024

インタビュー:トラベル世界常務取締役の渡辺孝雄氏

  • 2011年6月27日

5月以降の販売好調、いち早い営業活動と独自の商品造成で

 2011年3月11日に発生した東日本大震災は、出国者数の減少や、海外旅行需要の低迷の一因となっている。多くの旅行会社が苦戦を強いられるなか、70歳前後のシニア層を対象に少人数でテーマ性の強いツアーを提供するトラベル世界は、5月以降の取扱人数を伸ばしている。このような状況下でなぜ同社は取扱人数を増やすことができたのか。同社の取り組みについて、常務取締役の渡辺孝雄氏に話を聞いた。


-直近の取扱人数はどのように推移していますか

渡辺孝雄氏(以下、敬称略) まず、3、4月は、震災よりむしろ中東の政情不安による影響で取扱人数は3月が前年比20%減、4月が30%から40%減と落ち込んだ。ゴールデンウィーク前まではスーダンやアルジェリア、レバノンやチュニジアといった中東・北アフリカ方面のツアーが売り上げの約4、5割を占めていたからだ。

 しかし、5月以降は取扱人数を伸ばしており、5月が15.5%増、6月も37.3%増、7月が31.2%増となり、リーマンショック以前と比較しても好調に推移している。特にハイシーズンであるヨーロッパ方面が人気で、10日前後で旅行代金が40万円台前半の商品が中心に動きがある。

 リーマンショック以来の経済不況もあり、ここ数年は顧客がコストセーブする傾向があるため高額商品は動きにくくなっているが、これまで13日間で40万円台後半で提供していた商品の日程を2、3日短縮し、利益や商品のクオリティは落とさずに旅行代金を40万円台前半に抑えたところ、良い反応が返ってきた。この価格帯の商品はよく動く。さらに40万円を切れば、爆発的なヒット商品になる傾向がある。


-5月以降の取扱人数が好調に推移している理由について、お考えをお聞かせ下さい

渡辺 震災後も営業を自粛せず、通常通りお客様に接したことが、5月以降の増加の一因だろう。弊社では震災の前日である3月10日に、次期商品のパンフレットを顧客にお送りしていた。3月10日は木曜日で、週末にゆっくり見ていただき、週明けの3月14日から営業を開始する戦略だった。ところが3月11日に震災が発生した。

 (諸々の影響はあったが)震災後も活動の自粛はせず、3月14日から通常営業する方針をとった。これは、震災で旅行どころではない、といったお客様の気持ちを尊重する必要はあるが、旅行会社が自ら引く必要はないとの考えからだ。もちろん、すぐに商品が売れると思ったわけではない。しかし、アウトバウンド専業である弊社にとって、旅行マインドの冷え込みは業績低下に直結する。自分たちの業務に集中すべきだと考えた。

 震災と旅行は別のことだと言うと語弊があるかもしれないが、被災地のために何かすることと、海外旅行をすることは同じ文脈ではないと顧客に早急に伝える必要があった。今すぐ旅に出る気持ちにはなれなくても先のことを考えて心をほぐしてもらい、旅行に行きたくなったら我々が(震災前と)変わらずここにいると伝えるため、東京以西へのセールスコールなど、全社一丸となって営業活動に取り組んだ。

 その結果、震災によるキャンセルは、幸いなことにほとんど出なかった。4月は低迷したものの、通常通りの営業活動をしたことが5月以降の回復に結びついたと考えている。


-この夏、ロングステイ商品に旅行会社の注目が集まっていますが、どのようにお考えですか

渡辺 ひと口にロングステイと言ってもさまざまな商品がある。典型的なのは往復航空券と滞在する宿泊施設を組み合わせたスケルトン商品で、これを扱っても低価格で大量販売できる大手旅行会社に敵うはずもなく、我々が参入する意味がない。

 それよりも、我々の強みを生かした商品の開発に力を入れている。我々の商品の特長は、社員添乗員が同行しフルタイムでアテンドすることと、知的好奇心を刺激する素材を組み込むこと。例えばベネチアのモノステイ商品なら、ベネチアの歴史や、地盤沈下と海面上昇による水没からベネチアを保護するための取り組みを学ぶなど、テーマをしっかり設定して、物語性のある旅づくりを心がけている。

 弊社の顧客の中心は、平均70歳前後の時間的、経済的に余裕がある層。全体の70%はリピーターで、もともと旅好きで本格的な旅行をしたいという気持ちが高い。物語の設定がこうした層の琴線に触れ、リピーターの獲得に繋がっている。


-商品造成の際に工夫している点は何ですか

渡辺 例えば、日本人旅行者になじみのある韓国でも、ウルルンドというあまり知られていないデスティネーションをツアーに取り上げたり、大手も扱っているスロベニアとクロアチアを除いた中欧諸国を周遊するツアーなど、他社がまだ取り組んでいない商品をいち早く造成することで差別化をはかっている。

 旅行会社が利益を上げられる商品に共通する特徴として、「ガイドブックがない」「観光局がない」「直行便がない」「日本語ガイドがいない」「ビザの取得が難しい」「治安が少々悪い」の6つがあげられる。FITでは行きづらく旅行会社に頼りたくなるデスティネーションこそ、旅行会社にとっては腕の見せどころと言えるだろう。例えば、弊社がここ数年実施している、西安からローマまで11ヶ国をバスで行く77日間のツアーなどは上記条件にすべて当てはまり、利益率も高い。


-震災などの外的要因に左右されず、顧客に旅行に参加してもらうために、どのような工夫をしていらっしゃいますか

渡辺 顧客の約7割がリピーターなのは先述の通りだが、約3割の新規のお客様もほとんどが既存顧客からの紹介だ。彼らは海外旅行をするライフスタイルを持っているので、災害や社会情勢にはあまり左右されない。そうした層は、きちんとした説明と信頼があれば、無闇に自粛などせず海外旅行に行く。

 弊社では治安が懸念されるエリアには社長をはじめ社員が必ず訪問し、実際に現地を旅行して治安を確かめ、お客様に報告する。たとえば、このほど募集を再開したチュニジア、エジプトツアーについては、4月下旬から5月初頭にかけて、社長自ら視察に訪問。弊社がお客様に配布している旅行情報誌や、ウェブサイトにレポートを掲載し、お客様に現状を報告した。

 このように現地の状況を確認しツアー催行が可能と判断した場合は、外務省の渡航情報が「渡航の是非を検討してください」でもツアーを催行することもある。お客様に情報を提供することが、お客様の「トラベル世界がツアーを催行するなら大丈夫だろう」という信頼につながっている。東日本大震災によるキャンセルがほぼ出なかったのも、その信頼関係が理由のひとつだ。

 こうしたノウハウの蓄積や、お客様と日頃から密にコンタクトを取り合うといった普段からの取り組みが、取扱人数の増加に結びついたと考えている。


-ありがとうございました