インタビュー:JTB西日本海外旅行部部長の佐々野真一氏

  • 2011年4月12日
企画性が高く、内容の濃い商品で回復の波をつかむ

 大阪を中心とした関西経済圏における旅行市場の動向は、東京を中心としたエリアとは違う特性が見られる。リーマンショックによる経済の悪化は、関西エリアにも大きな影響を与えたが、徐々に回復の兆しは見えるとJTB西日本の海外旅行部部長佐々野真一氏は語る。テーマ性が高く、内容の濃い商品を用意し、コンサルティングを強化したリアルな営業活動で、この上昇傾向をつかんでいくと意欲的だ。関西国際空港の利用など、関西市場の特徴をふまえた営業戦略を聞いた。

※インタビューは東北地方太平洋沖地震発生前の2011年2月下旬に実施しました
このたびの大規模地震により被害を受けられた皆様に、心からお見舞い申し上げます。
一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。  (JTB西日本)



−ここ数年間の関西における海外旅行市場の推移と現状についてお聞かせください

佐々野真一氏(以下、敬称略) 2001年以降、9.11、SARS、リーマンショックとさまざまな影響があった。関西特有の状況としてよくいわれることだが、東京に比べて景気悪化の影響がいち早く表れ、戻るのが遅い。いろいろな要素があるなかで、関空発着の座席供給量の問題が一番大きいと思う。1994年の開港以来、供給量はずっと増加していたが、2005年をピークに減少している。今後、市場が回復傾向になっても、供給量で頭打ちになる状況もあるのではと思う。

 関空発着の座席供給量が減っている原因としては、イールドの問題があると思う。首都圏に比べて関西はビジネス需要が少なく、レジャー需要に依存することになり、アジアを中心として安売り傾向となる。そうなると、ロードファクターは高いけれど、イールドが下がって航空会社の減便や撤退につながる負のスパイラルに入ってしまう。ただし、新型インフルエンザの影響が払拭された2009年8月以降は、月によってばらつきはあるものの、関空からの出国者数は回復傾向にある。2011年も今のところは回復基調だ。しかし、2010年度下期に日本航空(JL)が大幅に減便撤退をしたので、そのことがやはり痛い。


−関西圏におけるビジネストラベルの状況は

佐々野 ビジネス渡航は、関東に次いで大きな市場だ。景気が回復するにつれて拡大していくと思っている。一昨年、ビジネストラベル営業部を立ち上げて、業務渡航市場の営業を強化しているところだ。航空会社のイールド向上と路線維持という観点からも、ビジネストラベルの取り扱いを重要視している。


−関西市場の特徴を踏まえた御社の今後の方向性は

佐々野 インターネット販売の領域はこれからますます拡大していくと思う。この傾向に対して、我々旅行会社の存在意義は、まずビジネストラベルの強化、そしてインバウンドだ。さらに海外旅行市場を拡大するためには、ウェブ販売を強化する一方で「リアルな販売」、つまり店舗や渉外営業を通して、機械では伝わらないようなハイタッチなものを提供していく。こういうことを求めていらっしゃるお客様がまだまだいると思っている。

 座席数が限られているので付加価値を付け、内容の濃い商品に仕立てていく。テーマ性のある商品をリアルな販売に連動させていきたい。それを象徴するのが、ルックJTBの「革新」と「進化」。市場調査をして、お客様の求めているものを踏まえ、内容の濃いものを販売する流れになっている。


−商品の開発という面で、特に関西ならではの工夫はありますか。「付加価値の高い」とか「内容の濃い」商品とは具体的にどういったものなのでしょうか

佐々野 JTBグループ全体で「革新」と「進化」という一本筋の通った方針があるわけだが、やはり地域、地域で特徴があるし、航空会社の就航状況も違うので、それぞれ工夫はしている。関空発商品では例えば、日程や価格に幅を持たせるために航空会社指定を数社に広げるなど、地域性に応じた商品造りをしている。

 関西で今一番力を入れているのは、「食」をキーワードにした商品だ。一時、グルメの旅というのが流行っていたが、必ずしも高級なものではないがとてもおいしいものを紹介する商品だ。例えば韓国といえば当然焼肉が人気だが、実は蒸しガニもおいしい。アジアではリーズナブルな値段の美味しい食が多いので、それを切り口にしている。

 また、市場を掘り起こすということで、現地でのイベント開催もしている。2011年に3回目となる「YOSAKOIソーラン祭りin タイランド」もその一つ。札幌で毎年開催される「YOSAKOIソーラン祭り」は全国から2万人ぐらいの方々が参加している。これをタイで催すことになって、日本から100名ぐらいの方々が参加されただけでなく、現地にもチームが生まれ、バンコクの若い人たちの熱狂振りに日本からの参加者も感激されていた。今後は参加者を広げていって、国際交流の実現とともに、イベントをからめて需要を掘り起こしていきたい。

 エコ旅の「LOVEARTH」や女子旅の「姫様シリーズ」なども、JTB西日本が最初に取り組んで全国に広がっていったもの。他とは違う特徴を出さなければ関西ではやっていけない。


−関西圏の国際線の状況については、どのようにご覧になっていますか

佐々野 羽田が国際線化して、航空会社の目が羽田に向いているなか、関空発着の供給量が増えるのには、もう少し時間がかかると思っている。しかし、関空会社様が多数の航空会社にアプローチされており、今後は関空に関心が戻ってくると思う。特にヨーロッパ系の航空会社は伸びる可能性が高く、2011年にもやや増えることになっている。底を打って、後は伸びるだけという状況だと思う。関西圏全体で、高いイールドを保てるような販売をしていきたい。そのためにはお客様に対するコンサルティング力を高めていかなければならないと思う。

 また、関空には数年前からLCCも乗り入れており、全日空(NH)などのLCCが拠点とする予定もある。ただし、LCCにはそれぞれ特性があるので、会社によっては完全にウェブ販売のみというところもあり、旅行会社として何ができるか、アプローチさせてもらっている。今のところ、LCCは中国や韓国からのインバウンドに着目して乗り入れていると思われるものが多い。日本からのアウトバウンドにどの程度期待しているのかによって、お付き合いの仕方も違ってくると思う。


−チャーター便の利用も大きな鍵になるかと思いますが、今後どのようにお考えですか

佐々野 ピーク時の供給量が少ない時期については、やはりチャーター便での取り組みを考えている。一番座席数が減ったのはハワイで、不足分は当然チャーターで埋める。もしくは臨時便を出してもらうよう航空会社にアプローチをしたい。

 また、ルックJTBの長距離方面のなかではヨーロッパが特に好調なので、夏のピーク時にチャーターを計画している。アメリカ方面には今のところチャーターの計画はないが、あれだけ人気のあったカナダへの関空発着の直行便がなくなった。成田経由でカナダへ多くの人が行っているので、その辺の事情も見ながらチャーターを考えたいと思っている。


−2011年および、今後の中長期的な関西市場の展望は

佐々野 ここ2、3年ぐらいで座席供給量の減少は底を打ち、上昇に転じるだろう。当社のデータでは、2011年は前年比5%増くらいの微増傾向にある。景気は全国的に回復傾向にあり、自動車や家電業界などが動いているので、ビジネス客も増えている。個人の旅行客では関西ではメディア販売が強く、また熟年市場が景気に左右されずに底堅いところがある。しかし、熟年市場は国際情勢に左右されがちだ。このほか、家族旅行が好調。夏休みだけでなく、学校の休み以外の時期でも動いているので期待している。市場をクラスターに分けて、伸びていく傾向があるところは強化していきたい。

 中長期的にはウェブ販売が伸びていくと考えている。しかし、先ほど話したように、リアルでハイタッチな営業もやっていかなければならない。また、若者層の掘り起こしという面では、値段だけでなく、他社が飛んでいない路線については、LCCにも期待したい。

 首都圏が圧倒的なボリュームがあるので、東京中心に物事が進んでしまう傾向がある。しかし、地方の動きにも注目してもらえるとありがたい。何よりこれからは元気を出していくことが大事だと思う。行政とも消費者の方々とも一体になって、元気を出して海外へ行きましょう。


−ありがとうございました