travelvision complimentary

スペシャリスト・インタビュー:ピコ 戸井川裕美子さん

今年は鉄道でのんびり旅する中国ツアーを

 大学で中国文学を専攻。卒業後、本格的に中国語を勉強し、中国専業の旅行会社で26年間、企画、営業、添乗業務に携わった戸井川裕美子さん。日本人の海外旅行市場が拡大の一途をたどるよい時代を経験できたと語る戸井川さんですが、一方で次第にお客様一人一人の要望に応えたツアー作りの必要性を感じるようになり、2004年、自らピコを起業しました。数の最小単位である「ピコ」という社名からもわかる通り、細やかなリクエストに応えるオーダーメイドツアーの会社です。現在、「日本旅行業女性の会」会長も務める戸井川さんが、中国観光の現状のほか、DS制度や観光業の将来についても語ってくれました。

ピコ(ピコツアー) 代表取締役社長
戸井川裕美子さん
2007年度(第3回)デスティネーション・スペシャリスト 中国認定



Q.DS中国を取得した経緯は

 中国専業の旅行会社に26年間勤務していたので、中国は自分の専門分野なのですが、自分だけで「中国が得意」と言っても、なかなか信用してもらえません。客観的な判断基準があればと思い、取得しました。長年中国に携わってきたため、教材の内容の多くは既知のものでしたが、知識の整理、再確認という面で役立った気がしますね。質問の切り口も新鮮で興味深かったです。


Q.DSを取得してのご感想は

 残念ながらまだ一般のお客様への認知度が低いため、今のところアピールにはつながっていません。ただ、スタッフ一人一人が専門性を持つコーディネーターとしてお客様に接し、ツアーを作っている当社にとって、本来DSのような資格は有用なもの。DSの認知度がアップすれば、アピールできるようになるでしょう。DSのバッジを付けてお客様と面談できるようになればいいですね。そうすれば、社員にも取得を勧めたいと思います。

 DS制度については、地域をもっと細分化してもいいかもしれません。私たちがランドオペレーターを選ぶ際、より特化した地域を扱う業者、専門性の高い業者を選ぶ傾向にあるように、一般のお客様も、よい旅をしたいと思えば、より専門性の高い旅行会社を選ぶはずなので。


Q.中国観光を取り巻く環境に変化は

 北京五輪前後から、民族問題をはじめ中国に関するさまざまな問題がマスコミに取り上げられるなどして、正直なところ中国人気は落ちています。安くて質の低い中国ツアーの販売によって、よくないイメージを抱いて帰国する日本人が増えていることも人気低迷の要因のひとつかもしれません。かつて特異地域だった中国が、ハワイ、グアムと並ぶ一般的なデスティネーションとなりつつある中、一度行けばいい国というイメージがついてしまうのは非常にもったいない。本来、とても多彩な魅力を持つ国で、陶器、お茶、音楽、食など、何をテーマにしても旅行が成り立ちます。数の論理を変えていかないと飽きられてしまうと思いますね。

 ちなみに当社では、中国のよいものを知ってほしいと思い、素朴な味わいのある金山の農民画や宜興(ぎこう)の茶器など、旅行以外のものを会社に置いたり、ウェブサイトに掲載したりして紹介しているんですよ。来社されたお客様には烏龍茶やジャスミン茶などを宜興の茶器でお出ししています。


Q.中国のお勧め素材はありますか

 今年は、鉄道の旅をぜひお勧めしたいと思っています。北京/モスクワ、北京/昆明間を走る特別列車を部分チャーターできるんです。ご夫婦お2人での参加もOK。車両には立派な食堂車がついていて、客室も快適です。今の時代、スピーディーに移動するのではなく、ゴトゴトと列車に揺られながら、ゆったり車窓を楽しむ列車の旅もいいと思いますね。


Q.会社の方向性について聞かせてください

 消費者の嗜好が細分化されている今、旅行会社としては、いかにその細かいご要望にお応えできるかが勝負になっていると思います。私が起業したのも、お仕着せのツアーでは、お客様の要望を満たせなくなってきていることを肌で感じたからです。歩く速度から食べ物までお客様の嗜好は十人十色。添乗中、「もっとこうしたかった」「あれが食べたかった」という声を身近に聞き、これからはオーダーメイドツアーにビジネスチャンスがあると思っての起業でした。このご時世、経営的には厳しい面も多々ありますが、旅行作りの方向性は間違っていないと思っています。専門性を追求しつつ、ホームドクターのように、ご家族の節目節目の旅行相談に応じられるような“ホームトラベルコンサルタント”をめざしたいですね。


Q.これからの旅行業のあり方についてのお考えを聞かせてください

 旅は本来楽しいもの。消費者がどんどん成熟していく中で、われわれ旅行会社は、もっと旅の楽しさや魅力を伝える提案をしていかなくてはいけないと思います。そのためには、外に出て学ぶことも必要でしょう。とくに女性たちにがんばってほしい。私が会長を務める「日本旅行業女性の会」では、勉強会や懇親会などの機会を提供していますが、会員数は70人程と、業界で活躍する女性の数に比べて非常に少ないのが現状です。私が働き始めた頃は、電話に出れば「男性に代わって」、添乗に出れば「なんで女なんだ」と言われた時代。今は、その立場が逆転するくらい女性が活躍できる場になっているのですから、もっと外に出て、交流し、知識を深めてほしいと思いますね。


ありがとうございました




<過去のスペシャリスト・インタビューはこちら>