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現地レポート:アイルランド、街の散策が深めるデスティネーションの魅力

  • 2011年1月21日
じっくり歩いて楽しむアイルランド
現地の人々との触れあいが旅の魅力を増す


 どこまでも続きそうに見えるのどかな牧羊の風景や荒々しい大自然の景観、全土に見られる教会遺跡に大地の滋味にあふれたおいしい食事――。こうした素材をぐるりとかけ足に周遊するのが、日本発のアイルランドツアーの定番だ。しかし、近年はツアー送客数が減少し、FITや語学留学の訪問が主流となっており、こうした訪問者の人気が根強いというのがアイルランドの特徴となっている。昨年開催された新市場をターゲットにしたFAMトリップでは、ダブリンとコークの2大都市を中心にじっくりと街を散策。リピーターをひきつけて離さないアイルランドの楽しみ方を再認識するとともに、新しい旅行商品の方向性が見えてきた。


歩いて回って小さな発見、FITならではの楽しみ

 アイルランドの魅力を知るのに一番いい方法は、街を歩いてみることだ。まずは基本をおさえ、ダブリンで有名な観光地をめぐってみたい。

 2009年に創立250周年を迎えた「ギネス」。その醸造所であるギネス・ストアハウスは、旅行者に最も人気のあるアトラクションだ。巨大なパイントグラス(ビール用のグラス)を模したという建物内部では、ギネスの歴史や歴代の広告、製造方法を、サンプルを見ながら学ぶことができるようになっている。学習の後はギネスの注ぎ方を教えてもらい自らグラスに注いだギネスをいただくことができるほか、最上階にある360度ガラス張りの「グラビティ・バー」で、できたてのギネスをいただくことができる。ダブリンには高い建物がないため、ここからの景色はまさに絶景だ。

 トリニティカレッジ(ダブリン大学)はアイルランド最高学府であり、400年以上の歴史と伝統を誇る大学でもある。構内を散策するだけでも建物の美しさに感動するが、ここでの見どころはなんといっても図書館の所蔵する『ケルズの書』。8世紀に手書きされた聖書の写本で、ラピスラズリなどの宝石からとった染料を用いて描かれた絵がすばらしい。また、図書館の「ロングルーム」も、天井までびっしりと収められた20万冊にも及ぶ古書の数々に圧倒される。大学は町の中心部にあるので、見学が終わったら土産物屋や雑貨屋、洋服屋などがひしめくナッソーストリートやグラフトンストリートで、ストリートパフォーマーを見物しながらショッピングを楽しむのもいいだろう。

 街散策はガイドをつけてじっくり見て回るのが理想的だが、ダブリン市では事前にiPhoneに無料でダウンロードすることができるガイダンス「iWalk」を導入しており、名所ごとに説明を聞くことができるので、FITにもおすすめ。iWalkには観光局のウェブサイトからアクセスすることができる。

 もうひとつ、散策に役立ちそうなサービスも登場している。ダブリン市の運営するレンタサイクル「ダブリンバイクス」だ。街のあちこちにあるステーションで自転車を借りることができ、ほかのステーションに乗り捨てることができる。クレジットカードを持っていれば3日間2ユーロから会員登録でき、旅行者でも利用できる。


古くて新しい町コーク、ぶらり街歩きがおすすめ

 コークはアイルランドで現在、最も注目されている町だ。世界的な旅行ガイドブック『ロンリープラネット』による「Best in Travel 2010(2010年注目の旅先)」の10都市のひとつに選定され、日本の京都やトルコのイスタンブールなど旅先としてすでに人気のデスティネーションと、肩を並べる観光地として紹介されたのである。2010年8月にはダブリンとコークを結ぶ高速道路が完成し、所要時間が2時間30分ほどに短縮された。これを機に周遊プランに組み込んでみてもよさそうだ。

 コークは2005年にヨーロッパ文化都市に選ばれて以来、街並みが美しく整備され、歴史都市でありながらモダンなテイストを感じることができる。町の中心部をリー川が流れ、中州の部分が最もにぎやかな商業エリアとなっており、交通はバスのみ。どこでも十分歩いて回れる広さなので、こちらもウォーキングツアーがおすすめだ。ダブリンと同様にiWalkを導入し、いくつかのウォーキングルートを紹介している。

 その中の一つを実践すると、まずは町の中心にあるイングリッシュ・マーケットからスタート。野菜や果物、魚介類、肉、乳製品などあらゆるものがそろい、その多くは地のもの(アイルランド産)だ。「グルメの町」とも呼ばれるコークの人々の食卓はさぞや豊かであろうと想像できる。2階には地元料理がいただける「ファームゲート・カフェ」もある。その後、地ビール「ビーミッシュ」の醸造所(現在は外観のみの見学)や教会、ストリートマーケットなどをたどりつつ川を渡ってコークの“顔”「聖アン教会」、通称「シャンドン」へ。近くにはコークで活発だったバター取引の歴史を学ぶことができる「バター博物館」や手作りキャンディの工場兼ショップもある。シンプルな昔ながらの製法で作られるキャンディは、カラフルでかわいらしくお土産に最適だ。

 さらに「クリスティ・リング・ブリッジ」を渡って再び中心地へ。オペラハウスの横には「クロウフォード・アートギャラリー」があり、アイルランドの作家による作品が見られる。数百年前に描かれたコークの様子を見てみると、現在とあまり変わらないのに驚かされるだろう。そして最後に目抜き通りである聖パトリックストリートへ出て終了。お店を冷やかしたりギャラリーに立ち寄ったりと、コークの見どころをぶらぶら歩く約3時間のコースだ。

 そのほかにも見どころがある。7世紀まで歴史を遡ることができるという「聖フィンバーズ大聖堂」や19世紀中ごろに創設されたコーク大学は、当時と同じたたずまいを今に残す“名所”のひとつだ。コーク大学の構内にはアイルランドの作家によるモダンアートの数々を展示する「グラックスマン・ギャラリー」が近年オープンし、入場無料で観光客でも自由に出入りできる。

 ユニークな体験としては、リー川をカヌーで散策するというアクティビティもある。防水スーツなどはすべてレンタルできるので、動きやすい服装であれば大丈夫。パドルの握り方からパドリングのコツなどのレクチャーを受け、2人乗りのカヌーで水上へ。特にガイドはないので先に歩いて街を散策し、建物などを覚えてから挑戦するほうがよりおもしろいだろう。橋を渡る人々が立ち止まって手を振ってくれたり、橋の下部に設置された聖パトリック像が見られたりと、地上とはまた別な景色が見られる。


足を伸ばしてほかの町へ、遺跡とグルメの旅

 コークの町からは少し離れるが、「ブラックロック城」もその意外性がちょっと興味深い。16世紀にバイキングの進入を防ぐために見張り台として建てられた小さな城が、現在は天体観測所に生まれ変わり、一般公開されているのだ。英語の説明しかないが、遊び感覚で学べるので小学生くらいの子どもから大人まで、宇宙の世界を楽しめるだろう。

 また、コークを拠点に、あるいはダブリンからコークに来る途中に立ち寄りたいのが、「ブラーニー城」や、石灰岩の上に建設された城が後に教会になったという遺跡「ロック・オブ・キャシェル」だ。ブラーニー城は15世紀に要塞として建設された城で、岩肌がむき出しの朽ちた内部には「領主の部屋」「若い娘の部屋」といったサインがあり、かつてそこがどのように使われていたか想像力をかきたてる。城の外にはホテル、レストラン、土産物屋が入居する「ブラーニー・ウールン・ミルズ」があり、特にショップはアイルランドを代表する工芸品やニットウェアなどがそろっているので、城の見学後に買い物の時間を設けると喜ばれるだろう。大型バスも駐車可能だ。

 このほか、コーク付近にはかわいらしい小さな町が点在するが、ぜひ訪れたいのが港町のキンセールだ。アイルランド随一のグルメの町として知られ、小さな町ながら年中訪れる人が後を絶たない。おしゃれな雑貨屋やカフェがあったり、観光用の小さな列車(連結バス)が走っていたりと町歩きも楽しいので、この町ではぜひ1泊してじっくり時間をとりたい。

 ダブリンとコークはよく東京と大阪になぞらえて説明される。特にコークは大阪のように気さくな人柄の人が多いというのだ。実際のところ、アイルランド第2の都市とはいえ田舎であるがゆえのリラックスしたムードが漂い、それこそが大きな魅力となっている。ここでは車窓から眺めるのではなく、実際に外にでてフレンドリーな人々と触れ合い、のんびりと自分のペースで好きなものだけを見て回る“疲れない旅”がおすすめである。






現地ワークショップ開催、アイルランドの魅力をアピール

 FAMツアーの最終日には現地でワークショップが開催
された。今回のワークショップは、アイルランドにとっ
て新しいターゲット市場に向けた情報提供が目的だ。今
年で3回目となり、ターゲットは日本、中国、インド、
中東、東ヨーロッパの国々の市場。それらの国やエリア
にとってアイルランドは“新しいデスティネーション”
だが、日本の場合は違う。10年ほど前まで「アイルラン
ドブーム」があり、日本人は団体でアイルランドにやっ
てきていたからだ。しかし今年度はわずかに上昇したも
のの、以前に比べ日本人旅行者の数は半減しており、再びはずみをつけるため、ターゲッ
ト国となっているのである。

 アイルランド政府観光庁オーストラリア及び開拓市場担当のジム・ポール氏は「日本の市
場の場合、ただ観光情報を提供するだけでは多くの人々を呼び戻すことはできないように思
う。旅先決定のポイントが素材のよさだけに限らないからだ」としたうえで、「アイルラン
ド人はとにかくフレンドリー。外国人で言葉が通じなくても伝わってくるホスピタリティを
持ち合わせている」とアイルランドの「人」をアピールする。アイルランドの魅力の最たる
ものは、観光素材だけにあるのではないのだ。それゆえ、セールストークが難しくなってい
るのでは、とポール氏はいう。

 逆にひとたびアイルランドを訪れてもらうことができれば、ファンを獲得しやすいデステ
ィネーションだといえるだろう。行けば気に入ってもらえる良さをいかに伝えていくか。一
筋縄では解決できないが、FAMツアーやワークショップに積極的に参加してその良さを自ら
体験することも、自信を持って販売するために必要なことの一つといえるだろう。


取材協力:アイルランド政府観光庁
取材:岩佐史絵