ケーススタディ(主催者の声に学ぶ)

シリーズ「MICE市場はどう変わったか」

② もう一つのキーワードは「絆」

(株)ツーリズム・マーケティング研究所主席研究員 磯貝政弘氏(株)ツーリズム・マーケティング研究所主席研究員 磯貝政弘氏

サントリーがウィスキー「トリス」の大キャンペーンを始めたのは1961年。 「トリスを飲んでハワイへ行こう!」という名コピーが一世を風靡し、キャンペーンは大成功。日本にも洋酒文化が花開くことになった。

さて、今、あらためてこのキャンペーンに私が注目するのは、その景品であるハワイ旅行が、3年先の海外旅行自由化を待って、はじめて実施されるものであったこと。それにもかかわらず、このキャンペーンが大成功したという事実である。時はまさに日本が高度経済成長へと向かう上り坂の二合目当たり。大多数の日本人が将来への希望に胸膨らませながら、3年後のハワイ旅行に熱き思いを馳せて、せっせとトリスの杯を傾けていたのだろう。

庶民にとって海外旅行が夢のまた夢、高嶺の花だった時代ならではのことだといってしまえばそれまでだが、そのインセンティブ効果の大きさに様々な企業が目をつけたのは当然の成り行きだったといえるだろう。商品の販売促進から社員や販売店のモチベーション・アップのために、海外旅行がさかんに持て囃される時代の始まりである。

しかし、バブル経済崩壊後、1990年代の半ばからその様相は一変することになる。海外旅行よりも現金、仮に海外旅行をするにも団体旅行ではなくて個人旅行、という時代の到来である。そうした流れがいまだに本筋として続いているのは間違いないようだが、ここにきて少しまた新しい変化が生まれつつあるようだ。

社員構造の多層化、成果主義の導入などによる企業内の人間関係の希薄化、ともするとドライになりがちな取引先との関係など、いわゆる「不機嫌な職場」現象が目に余るようになったことへの反省から出てきたとみられる、人と人との「絆」再生をめざすプログラムを組み入れた旅行を実施する企業が、メディアにも取り上げられるようになってきた。

そうした中で、つい先頃、オーストラリア政府観光局が「グループ&インセンティブ ツアー・ガイド」を発行した。この冊子が目を惹くのは、「オーストラリア体験。その新鮮さと印象深さが、より強い絆を生み出します」というコピーに表現された内容が、具体的に、自然に、首尾一貫語られている点である。海辺の白砂で一心に綱を引く角刈りの健康そうな若者やクルーズ船のデッキでカジュアルなパーティーに集う人々のスナップ写真が語りかけるものが何かは、あえて説明するまでもないだろう。

前回、MICEマーケットのキーワードは「グローバル化」であると書いたが、これに「絆」というキーワードをもう一つ加えておきたい。