【コロナに負けず】べっぷ野上本館代表取締役社長の野上泰生氏

収益ポートフォリオの多様化でコロナに立ち向かう
別府は「サバイバル時代」、地域や長期滞在に活路

野上氏。インタビューはオンラインで実施した

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で国内旅行が伸び悩むなか、政府が始めた「Go Toトラベル」キャンペーン。一部世論の逆風も受けつつ旅行会社や宿泊施設は需要獲得の取り組みを強化しているが、地方の宿泊施設の現実はどのような状況なのか。別府市で旅館「べっぷ野上本館」とアパートメントホテル「シンプルステイ別府」を展開する、べっぷ野上本館代表取締役社長の野上泰生氏は、長年まちづくりに携わり、別府市議会議員を務めた経験もある。同氏に、現状と今後の展望について聞いた。インタビューは8月4日に実施した。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)

別府の観光の現状と今後の見通しについてお聞かせください

野上泰生氏(以下敬称略) 別府は他の地域と同じく大変な状況にある。別府の宿泊人数の5分の1を占めていた訪日客がCOVID-19の影響でいなくなった。国内旅行も減り、特に団体を取り扱っていた宿泊施設は苦しい状況にある。

 べっぷ野上本館の場合は個人客がターゲットで、お客様の半分は訪日客だった。現在は日本人のみで、6月の売上は前年の2割弱、7月は4割弱。7月は三連休までは伸び、Go Toトラベルで需要が戻るかと思っていたが、感染が拡大してきたので伸び切れなかった。傾向としては週末の宿泊がほとんどで、平日は少ないが、日本人のみの市場では仕方ないと思っている。

 8月の予約は2割弱で、9月はほぼ動いていない。間際予約が多く、前日や当日にお客様が入ってくる状況だ。我々の場合、常連の方々が電話で予約してくださるし、地元のお客様が5分の1くらいいるのでまだよいほうだ。さらに、別府市が大分県民と別府市民を対象に宿泊料金を割り引くキャンペーンを実施しており、そのおかげで底上げができている。

 べっぷ野上本館に泊まるお客様は、旅行の予算ありきで、予算内で宿泊施設を選ぶという方がほとんど。別府の場合はそういう宿泊施設が多いため、宿泊自体も目的になる高級リゾートホテルよりお客様の戻りが遅いと思う。

 今後はサバイバル時代が来ると思う。別府には新しい宿泊施設が増えており、競争が激しくなるなか生き残りましょうというしかない。ビデオ通話システムなどを活用した「オンライン宿泊」を始める人など、コロナ禍でも心折れずにいろいろな活動に挑戦している人々もいる。個人の事業者としてはライバルが多くて大変だが、地域全体では良い雰囲気だと思う。

感染者が増加するなか、別府の方々は県外からの旅行者をどう感じていらっしゃるのでしょうか

野上 行政は「自粛しよう」など余計なことは言わず賢く静観している。経済活動も感染症予防も両方重要という発信を常にしていただいているので助かっている。地元自治会では、年配で経済的に安定している方などからは「他県からの観光客は来てほしくない」という意見が出ているが、商売をしている若者からは「ぜひ来てほしい」という声があがっている。

 立場で意見が異なるが、別に喧嘩をしているわけではない。別府は古くから湯治でにぎわっており、もともとはよそ者だった人も多い。多様な人が来る町で、よそ者を排除するという雰囲気はあまりない。それが別府の良いところだろう。