ふるさと納税の返礼品に「旅先納税」が拡大 電子商品券、二地域居住の費用軽減のヒントに

「旅先納税」で使える電子商品券の画面。スタンプ型の読み取り機で決済する(ギフティ提供)
「旅先納税」で使える電子商品券の画面。スタンプ型の読み取り機で決済する(ギフティ提供)

人口減少に悩む地方の活性化策として、都市と地方にそれぞれ居住拠点を構える「二地域居住」が注目される中、2つの拠点を往来する負担軽減策として、ふるさと納税を活用した「旅先納税」のサービスが関心を集めている。旅行先の自治体で使える電子商品券が即座に発行され、食費などの滞在費に充てることができるからだ。

地方の滞在費に活用

二地域居住は、かつては週末の「いなか暮らし」のイメージだったが、近年はテレワークやオンライン会議が普及し、あり方も多様化。地方の人口減少という国家的課題の解決策としても注目されている。

国土交通省は今国会へ二地域居住の促進法案を初めて提出。石川県は先月末、能登半島地震からの復興プランの骨子案で「二地域居住希望者などの受け入れ推進」を掲げた。

一方で、二地域居住のために都市と地方を往復する新幹線や高速道路、飛行機など交通費の負担がネックになっている。負担軽減のため、ふるさと納税を活用できないかという模索が始まっており、そのヒントとなるのが「旅先納税」のサービスだ。

基準は「地場産品」

旅先納税は、スマホなどで旅行先の市町村の専用サイトにアクセスし、クレジットカードでふるさと納税(寄付)をすると、寄付額の3割相当の電子商品券が即座に発行され、飲食店や宿泊施設などの当該市町村の加盟店で利用できる仕組みだ。

システムを開発したのは、電子ギフトサービスを提供する会社「ギフティ」(東京)。自治体から「ふるさと納税を増やしたいが、返礼品になる1次産品は多くない。一方で、観光資源はたくさんある」と相談を受けたことがきっかけという。

1次産品が乏しい自治体でも寄付を集めやすくなるようにと、令和元年にサービスを始め、同年11月に岡山県瀬戸内市が初めて導入した。先月25日時点で北海道から沖縄まで15道府県の65市町村が利用している。

同社によると、電子商品券を利用できる加盟店は当該市町村が総務省の「地場産品基準」に基づいて選ぶ。当該市町村内での利用が大前提で、新幹線や高速道路代など市町村をまたぐサービスを商品券で支払える自治体はないという。

一方で、当該市町村内を走るタクシー会社が加盟店となっている実績があるほか、以前は加盟店にガソリンスタンドが入っていた自治体もあったという。

3年からは、ワーケーションなど1~2週間滞在する場所で保育園に子供を預かってもらう費用の一部を「旅先納税」の返礼品で支払えるサービス「留学先納税」も始まっている。

同社は旅先納税について「移動費用を補填するための手段ではなく、あくまで旅先で利用できる返礼品の提供が主となる。今後も総務省の基準にのっとって運用していく方針」としている。

目的は地域活性化

総務省によると、返礼品の対象は平成20年の制度開始から、自治体の自主性を尊重してきた。だが、自治体間の競争が加熱し、ハワイのホテル宿泊券や高額な家電製品など過度な返礼品合戦が問題化。令和元年から地場産品基準が導入され、返礼品は地場産品や地域内で提供されるサービスに限られた経緯がある。

同省は「基準に照らして、エリアをまたぐ交通費は少なくとも地場産品ではないし、その地域内で提供されるサービスでもない。あくまで法律が定める範囲内で返礼品を選んでいただくほかない」(市町村税課)と説明する。

同省は「ふるさと納税ポータルサイト」で地場産品基準の運用などについての「Q&A」を公開しており、それによると、ツアーなどの「旅行商品」の場合、宿泊などとセットなら新幹線や飛行機の利用も認められるが、交通機関だけの商品は認められない。

ただ、二地域居住が増えればその地域の経済活性化につながり、往来する人がふるさと納税をすれば税収増にもなる。大都市の税収を財源の乏しい地方へ移し、地域を活性化させるというふるさと納税制度本来の目的からすれば、二地域居住者の往復交通費が返礼品として社会で認められる日も、遠くないかもしれない。

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【電子商品券】 従来の紙の商品券と異なり、インターネットのサイトやスマホのアプリなど電子的な形で提供される商品券。自治体が家計支援策などとして、地域商品券(地域振興券)を電子商品券として発行する場合もある。

店舗ではQRコードやバーコードをリーダーなどで読み取って利用。紙の商品券の多くと違って1円単位から使えるのが特徴だ。

「旅先納税」の場合、電子商品券を使う際はサイト上で支払額を入力し、画面を店側に提示。店側はスタンプ型の決済装置でスマホの画面を押すか、画面に表示されたQRコードで決済すれば支払いが完了する。

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