インバウンド誘致狙った「熊野白浜リゾート空港」 新愛称「長い」「安っぽい」疑問視も

「熊野白浜リゾート空港」の看板がかかる予定の南紀白浜空港=和歌山県白浜町
「熊野白浜リゾート空港」の看板がかかる予定の南紀白浜空港=和歌山県白浜町

関西有数の観光地・和歌山県白浜町にある南紀白浜空港の愛称が「熊野白浜リゾート空港」に決まった。県はインバウンド(訪日外国人客)や国内観光客の誘致を目指して海外で知名度が高い「熊野」を入れたとするが、「長すぎる」「『リゾート』は不要」といった声もある。愛称をつけた国内の空港は増加し、「鳥取砂丘コナン空港」(鳥取空港)や「徳島阿波おどり空港」(徳島空港)など和歌山県のまとめでは30カ所以上にのぼる。愛称は誘客に効果があるのだろうか。

過去には「パンダ空港」案も

和歌山県の岸本周平知事は今年1月10日の定例記者会見で、公募の結果、南紀白浜空港の愛称を「熊野白浜リゾート空港」に決定したと発表した。応募があった案から「熊野」「白浜」「リゾート」という言葉を選び組み合わせた。

県が愛称選定に動いたのは、県内の熊野古道などで構成する世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」が7月に遺産登録20周年を迎えるためだ。岸本知事は「『熊野』は世界的にとても有名な名前」とし、「インバウンドを特に誘客したい」と力を込めた。県は愛称を前面に出していく方針で、空港に愛称の看板を掲げるという。

ただ関係者によると、この愛称に対し「長すぎる」「熊野とリゾートは合わない」といった疑問も出ているという。同空港利用者からも「リゾートはなくてもいいのでは。安っぽい感じがする」「長いので定着するか疑問」などの声が聞かれた。

同空港の愛称をめぐっては平成22年、当時の仁坂吉伸知事が空港近くのレジャー施設「アドベンチャーワールド」のジャイアントパンダにちなみ「南紀白浜パンダ空港」とする案を公表したことがある。周辺自治体の首長や経済団体関係者らでつくる同空港利用促進実行委員会が難色を示し、決定に至らなかったという。

鳥取は「コナン」効果

鳥取空港(鳥取市)は平成27年から「鳥取砂丘コナン空港」という愛称をつけ、ターミナルにも愛称の看板を掲げている。鳥取県を代表する観光地「鳥取砂丘」と同県大栄町(現・北栄町)出身の青山剛昌さん作の漫画とアニメの「名探偵コナン」の知名度で、空港を国内外に発信するのがねらいだ。

「名探偵コナン」は国内だけでなく世界的に人気を集めており、同県の担当者は「コナンが有名なので、まず鳥取に行ってみようというインバウンドや国内客が増えてきている」と効果を強調する。ただ鳥取市観光コンベンション協会によると、「観光客は『鳥取空港』と呼ぶことが多い。愛称を知っているけど、長いから言いにくいのでは」という。

鳥取県境港市にある米子空港も、地元で育った漫画家、水木しげる氏の作品「ゲゲゲの鬼太郎」にちなんだ「米子鬼太郎空港」という愛称をつけている。このほか、「おいしい山形空港」(山形空港)▽「新鮮」という意味の方言を入れた「富山きときと空港」(富山空港)▽「岡山桃太郎空港」(岡山空港)▽「出雲縁結び空港」(出雲空港)▽「高知龍馬空港」(高知空港)▽「徳之島子宝空港」(徳之島空港)-など各地にユニークな愛称を冠した空港がある。

積極活用しないケースも

一方、愛称がありながらそれほど積極的に使われていないケースもある。

「熊野白浜リゾート空港」という愛称がついた「南紀白浜空港」=和歌山県白浜町
「熊野白浜リゾート空港」という愛称がついた「南紀白浜空港」=和歌山県白浜町

神戸空港は平成18年の開港前に決まった「マリンエア」という愛称があるが、運営会社「関西エアポート神戸」に出資する「関西エアポート」の広報担当者によると、「現在、PRで『マリンエア』という愛称は使っていない」と打ち明ける。「徳之島子宝空港」や、「コスモポート種子島」(種子島空港)、「えらぶゆりの島空港」(沖永良部空港)という愛称がついた離島3空港を管理する鹿児島県の担当者も「あくまで愛称で正式名ではないのでそれほど前面に出していない」という。

空港経営に詳しい慶応大の加藤一誠教授(交通経済)は「空港の愛称は交流人口を増加させる手段。愛称をつけると、県外や海外の人が注目するようになり、交流人口を増やせる。人々が実際に愛称をそのままの呼び名で言うかどうか別にして多くの人が知っていれば定着していることになる」と指摘。ただ「正式名が有名なら効果が薄くなることもある。また地名や名物と関係ない言葉が入ったものやあまりに冗長なものは一般受けしないのではないか」と話している。(張英壽)

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