富士急行が念願の「箱根」進出 観光の高付加価値化、訪日客取り込みへ

絶叫系コースターで全国的に知名度の高いテーマパーク「富士急ハイランド」や山中湖畔別荘地など、山梨県の富士北麓地域を地盤としてきた富士急行が事業エリアを広げている。このほど同社が参入できなかった富士山が展望できる日本を代表する観光地、箱根エリアでの事業をスタートさせた。将来的には、箱根と富士北麓を連携させる新たな展開も視野に入ってくる。

「箱根や芦ノ湖の自然の美しさ、富士山の眺望を、船の上から時間の経過とともに楽しんでほしい」

富士急の堀内光一郎社長は「湖に浮かぶ緑の公園」をコンセプトにして今年2月23日の富士山の日に、就航させる芦ノ湖の新しい遊覧船「SORAKAZE(そらかぜ)」をアピールする。

2月に就航する芦ノ湖遊覧船の新船「SORAKAZE」(箱根遊船提供)
2月に就航する芦ノ湖遊覧船の新船「SORAKAZE」(箱根遊船提供)

富士急は昨年3月に「箱根芦ノ湖遊覧船」の事業を取得。今回の新船は、同事業参入以降、最大の取り組みだ。新船の屋外デッキには、富士山型のベンチや天然芝を敷き詰めた広場をつくり、富士急がほかのロケーションで展開するように、富士山の展望のよさを売りにする船へとリニューアルする。

事業譲渡を契機に

富士急は山梨県の大月市と富士吉田市や富士河口湖町を結ぶ私鉄「富士急行線」やバスなどの運輸業、別荘地管理などの不動産業、遊園地やホテルなどのレジャー・サービス業の3つが主力事業となっているが、そのほとんどは富士吉田市、山中湖村など山梨県の富士北麓エリアに集中していた。

これに、静岡県で富士南麓エリアでのレジャー事業、熱海沖の初島でのリゾート事業、神奈川県で相模原市の遊園地などを加えたが、箱根地区は老舗旅館が強いことや、小田急・東急グループと西武グループが激しく交通シェアを争った「箱根山戦争」が長らく繰り広げられ、富士急に入り込む余地はなかった。

だが、西武グループが新たな長期戦略で事業ポートフォリオの組み換えを打ち出したことで、転機が訪れる。令和4年に箱根と熱海の中間に位置し、富士山を望む大パノラマが楽しめる十国峠のパノラマケーブルカーなどを取得。5年には芦ノ湖で遊覧船事業も得るなど2年連続で事業を譲り受けた。すでに十国峠では新たに富士急プロデュースのグランピング施設を追加し、拡充を図っている。

高級感やプレミアム感のある観光地として高く評価していた念願の箱根の足掛かりを手にした富士急は、箱根での事業を自社のノウハウに取り込むことで、富士急の観光での高付加価値化が図れるとみている。西武グループから箱根関連事業の譲渡が続くことも予想されるが、堀内社長は「そういった話があれば歓迎だが、今は〝新参者〟なので、まずは観光で富士北麓よりも洗練されている箱根の流儀を学んで溶け込むことが重要」とのスタンスを崩さない。箱根で信頼を獲得し、存在感を示すことが次の譲渡案件にもつながるとの見方だ。

知名度抜群エリア

また、近年では訪日外国人観光客にとって日本を代表する観光地として箱根の知名度が高いことも魅力に映っていた。訪日外国人は、箱根と富士北麓エリアを同じエリアとみる向きも多く、この2地点を連携させることができれば、大きなインバウンド需要を獲得できることになることも大きい。ただ、現時点では、富士北麓と箱根の客層が大きく異なるため、どうやってこの2つのエリアを連携させていくのか、青写真を描けるかが重要になっている。

富士山を中心に富士山麓一帯を世界的観光地として大規模に開発することを目的に設立された同社は、令和8年9月に創立100年を迎える。堀内社長は、現時点では「まだ、点のレベルだが、箱根で事業ができるようになったことで、富士急を大きく変えていく可能性が広がった」と、次の100年でのさらなる成長に向け、期待を寄せる。

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