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海外医療通信 2020年6月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

  • 2020年6月25日

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

【リンク】
東京医科大学病院・渡航者医療センター

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海外医療通信 2020年6月号

・海外感染症流行情報 

(1)全世界:新型コロナウイルスの流行状況

新型コロナウイルスの流行は6月24日までに感染者数が910万人、死亡者数が47万人にのぼっています(米国ジョンホプキンス大学 2020-6-25)。感染者数は1か月前に比べて2倍近くに増えており、WHOの事務局長は6月19日に、パンデミックが危険な段階に入ったとのコメントを発しました((WHO Director General speech 2020-6-19)。アジアではインドで感染者数が増加しており、最近では一日1万人以上の発生数になっています。パキスタンやバングラデッシュでも増加しています。米国では6月になり、南部の州で流行の再燃がみられており、全土で一日約2万人の感染者が発生しています。中南米では6月になり感染者数が急増傾向にあります。ブラジルでは1日2万~3万人の感染者が発生しており、死亡者数も毎日1000人前後にのぼっています。アフリカでは南アフリカで感染者数が著明に増加しており、それ以外の国々でも増加がみられます。

日本の外務省は海外感染症危険情報を6月5日に発出し、17か国をレベル3(渡航中止勧告)に引き上げました(外務省安全センターホームページ 2020-6-5)。この結果、渡航中止勧告が発出されている国は130か国近くにのぼっています。その、一方で、日本政府は感染状況が落ち着いている国との間で、渡航制限を解除する方針を示しています(第38回新型コロナ対策本部会議 2020-6-28)。詳細は今月号のコラムをご参照ください。

(2)アジア:東南アジアでのデング熱流行状況

東南アジア各地でデング熱の流行が報告されています。今年はシンガポールでの患者数が多く、6月下旬までに12000人と、昨年同期の2倍近くにのぼっています(Outbreak News Today 2020-6-23)。シンガポールでは昨年まで2型のデングウイルスが流行していましたが、今年は3型が増えている模様です。マレーシア、フィリピンでは5万人、ベトナムでは3万人のデング熱患者が確認されており、例年並みか例年より少ない数になっています(WHO西太平洋 2020-5-21)。なお、マレーシア北部のペラ州では、デング熱と同様に蚊に媒介されるチクングニア熱の患者数が増加しています(Outbreak News Today 2020-5-31)。東南アジアの多くの国はこれから雨季に入るため、蚊に刺されない対策をとるようにしてください。

(3)アフリカ:コンゴで新たなエボラ熱流行が発生

コンゴ民主共和国北西部にある赤道州で5月下旬からエボラ熱の流行が発生しました。6月中旬までに患者数は20人以上にのぼっています(Outbreak News Today 2020-6-15)。同国の北東部では2018年からエボラ熱が流行しており、3400人以上の患者(うち約2200人死亡)が発生しましたが、この地域では今年の4月下旬から患者の発生はみられていません(WHO Outbreak news 2020-6-18)。今回の北西部の流行は、新たな流行の発生とみられています。

(4)ヨーロッパ:フランスでダニ媒介脳炎患者が増加

フランス東部のローヌ・アルプス地域圏で6月にダニ媒介脳炎の患者が37人発生しました(Fit For Travel 2020-6-17)。患者の多くはヤギの生乳を飲んで感染した模様です。ダニ媒介脳炎はマダニに媒介されるウイルス疾患で、ヨーロッパ中央部からロシアにかけて流行しています。この病気は野山でマダニに刺されて感染するだけでなく、ウイルスに感染したヤギの生乳を飲んで感染するケースがあります。流行地域でヤギの乳を飲む時には、加熱処理がされていることを確認してください。

 

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2020年5月11日~2020年6月7日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。新型コロナウイルス流行にともなう渡航制限および入国制限により、この期間中の輸入感染の症例数は大幅に減少しています。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2020.html

(1)経口感染症:輸入例としてはアメーバ赤痢2例のみでした。

(2)昆虫が媒介する感染症:この期間にデング熱、マラリアの症例は報告されませんでした。

(3)新型コロナウイルス感染症:この期間中に42例の輸入例が報告されており、前月(33例)に比べてやや増加しました。感染国はブラジルとパキスタンが各13例と多くみられています。

(4)その他:麻疹、風疹の輸入症例はこの期間中に報告されませんでした。狂犬病が1例報告されており、フィリピンでの感染例です。本例は6月13日に死亡しました。

 

・今月の海外医療トピックス

国際的な往来の再開に向けて

現在、新型コロナウイルス感染症により、国際間の人の往来が制限されています。往来の制限は、海外からの感染症流入を阻止するメリットがありますが、経済には大きなデメリットになります。そこで、日本政府は『国際的な往来再開に向けた段階的措置』として、ビジネスに限定した渡航の制限解除を検討中です。流行が落ち着いている国との間で、渡航前のPCR検査証明書提出を前提に、ビジネス渡航の解禁について協議しています。これとは別に、既に複数の国が日本からの入国者に対して、渡航前PCR検査証明書の提出を求めています。PCR検査に関して留意すべき点は、①有症状者に対して精度が発揮されること、②陽性になった場合は感染症法により隔離対象になることです。医師の説明をご理解いただいた上で、検査を受けてください。そして、今後終息までの間、企業は社員の渡航が必須なのか十分に検討してください。平時の医療体制が敷かれていない国もあり、安全に帰国できるようバックアップをして頂きたいと思います。(医師 栗田直)

 

・渡航者医療センターからのお知らせ

(1) ビジネス渡航にともなう新型コロナウイルスPCR検査の開始

渡航者医療センターではビジネス渡航にともなう新型コロナウイルスのPCR検査と診断書の発行を開始しました。詳細は下記をご覧ください。

https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/news/shinryo/20200616.html

(2)「海外在留邦人向け新型コロナウイルス感染症よろず相談窓口」のお知らせ

渡航者医療センターでは海外在留邦人向けに「新型コロナウイルス感染症よろず相談窓口」を開設しています。海外在留邦人の方ならどなたでも、電子メールによる無料相談が受けられます。詳細は下記をご参照ください。

https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/news/shinryo/20200421.html