大阪IRの経済効果は? 成長の起爆剤か、採算の見込みなしか

参院選大阪選挙区(改選数4)で一部の候補者が、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致の是非を争点に掲げている。新型コロナウイルス禍で観光業界が低迷する中、年間1兆円超とされる経済効果への期待感は大きい。一方で行政手続きが国の審査に移行していることもあり、予定地の人工島・夢洲(ゆめしま、大阪市此花区)の整備費やギャンブル依存症対策といった課題をめぐる論戦は低調だ。

観光関係者は期待

「IRが実現すれば、コロナ前よりも多くの観光客に来てもらえるのでは」

夢洲の対岸の人工島・咲洲(さきしま)に建つ「クインテッサホテル大阪ベイ」のマネジャー、西山潤さん(42)はこう語る。コロナ禍の2年間でホテルの業績はほぼ10分の1に。「界隈(かいわい)の観光業界関係者は誘致を非常に期待している」と話す。

咲洲内の商業施設の運営会社に勤める三浦伸夫さん(57)も「開業すればベイエリアの開発にも目が向くだろう」と期待する。

国土交通省によると、新型コロナが感染拡大した令和2年に関西国際空港から入国した訪日外国人(インバウンド)は、前年比88%減の約101万1千人。3年は約4万1千人に落ち込んだ。

大阪府内の宿泊客数も2年は延べ約1971万人と前年の約4割程度にとどまる。3年は1785万人余りだった。

一方、11年秋以降のIR開業を目指す府市は、整備計画で国内外の年間来訪者数を約2千万人と想定。近畿圏への経済波及効果は年間約1兆1400億円、雇用創出効果は同約9万3千人を見込む。府市双方の首長を務める日本維新の会や、公明党は賛成派で「経済成長の起爆剤」とみる。

もっとも府市が示す経済波及効果はインバウンド増が前提で、立憲民主党は選挙前から「採算を取れる見込みがない」と批判してきた。共産党や国民民主党、れいわ新選組も反対の立場だ。NHK党は候補者4人で賛否が分かれる。

自民党は世界規模の国際会議場(MICE施設)設置には賛成だが、採算などの点で現行案を問題視する。

別の論点として、土壌汚染や液状化層の存在が判明した夢洲の整備費がある。所有者の大阪市は約790億円を負担する方針だが、35年間の借地契約で市が得る賃料の総額計875億円の大半が消える計算だ。

整備費負担を上回る税収効果があるとこれまで主張してきた賛成派に対し、反対派は多額の公費投入によって将来世代の負担が増すとしている。市民団体は7月中旬にも、誘致の是非を問う住民投票条例の制定を府に直接請求する。

依存症者増の懸念

カジノ解禁に伴うギャンブル依存症対策も欠かせない。独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターの令和2年度調査では、依存症が疑われる人の割合は推計で2・2%。誘致によって依存症者が増えるとの懸念があり、国のカジノ管理委員会は開業に際し、入場回数の制限など厳しい規制を設けている。

一方でこんなデータもある。2010年にカジノを開業したシンガポールで依存症者の割合を調査したところ、開業前の05年は4・1%だったが、11年は2・6%に減少。20年には1・2%にとどまった。

依存症に詳しい精神科専門病院「よしの病院」(東京)の河本(こうもと)泰信副院長は「株などギャンブル性の高い行為に厳格な規制や対策は講じられていない。カジノ誘致によって依存症者が増えるとは限らず、冷静な議論が必要だ」と指摘する。

府市のIR整備計画は地元議会で3月に承認され、すでに認定を国に申請済み。参院選で反対派候補の多くは誘致の是非を争点化しようとしているが、賛成派候補は「すでに議論は終わった」として論戦は深まっていない。ただ誘致の成否が大阪の将来を左右することは間違いなさそうだ。(吉国在)

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