訪日客受け入れ、対応手探り 行動報告「非現実的」

訪日外国人観光客の受け入れ再開に向けた実証事業のため来日した米国の旅行会社関係者ら=5月、成田空港(福田涼太郎撮影)
訪日外国人観光客の受け入れ再開に向けた実証事業のため来日した米国の旅行会社関係者ら=5月、成田空港(福田涼太郎撮影)

訪日外国人観光客の受け入れ再開を前に、観光庁が7日、公表したツアー参加者のマスク着用や消毒の徹底などを求めたガイドライン。夜の飲食など自由行動は制限しないが、濃厚接触者を特定しやすくするため行動履歴の報告は求めており、「現実的ではない」と実効性を疑問視する声も。訪日外国人客(インバウンド)の回復を期待する旅行業界や自治体は、感染拡大を防ぎつつ誘客を進めなければならず、手探りの対応が求められそうだ。

「2年以上もの間、首を長くして待っていた瞬間がやっと来たという感じだ」。近畿日本ツーリスト(東京)の松岡正晴・事業推進本部長は水際対策の緩和を歓迎、京成トラベルサービス(千葉)の担当者は「外国のお客さまが戻ってくるので、できる限りの対応をしたい」と話す。

再開されるのは、旅行会社が全行程を管理しやすい添乗員付きのパッケージツアー。ガイドラインによると、濃厚接触者を特定するため、添乗員は交通機関や飲食店の座席配置などを含め行動履歴を記録すると定めている。

ただインバウンドに詳しい航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏は「他国ではありえない対応で厳しすぎる印象がある。ツアー添乗員の負担が相当大きくなる」と危惧する。感染者が出た場合の対処など業務量が増えることは明らかだ。

一方、買い物や夜の飲食など自由時間の個別行動にまで添乗員の目は届かない。鳥海氏は「マスクをつけずに大声を出している外国人観光客がいた際、誰が注意するのかも課題だ」と指摘する。

マスク着用に対する日本と海外の意識の違いも問題となる。「日常生活に戻っている国の人に対し、マスクに対する日本国内の温度感を伝える必要がある」(鳥海氏)ためだ。

観光庁によると、海外4カ国を対象とした旅行客受け入れの実証事業では、本来マスクを着用しなくてもよい温泉で、着用したまま入浴した外国人もいた。どういった場面でマスクや検温などが必要か分かりやすく説明するため、観光庁は一目で分かる「ピクトグラム」を作成。実証事業では「分かりやすい」と好評だった。

観光庁が作成したピクトグラムの例。再開を前に政府が行った実証事業で外国人に分かりやすいと好評だったという(観光庁提供)
観光庁が作成したピクトグラムの例。再開を前に政府が行った実証事業で外国人に分かりやすいと好評だったという(観光庁提供)

外国人観光客を受け入れる自治体も試行錯誤が続きそうだ。鎌倉や箱根などの観光地がある神奈川県の担当者は「受け入れ再開の経済効果は期待しているが、感染が拡大した場合、地域住民の反発も考えられる」と懸念。富士山観光に力を入れる静岡県の担当者は「感染対策と観光促進は両にらみ。ガイドラインに沿って対応を進めたい」としている。

再開されるのが添乗員付きのパッケージツアーに限られたことについて、旅行ジャーナリストの村田和子氏は「団体客に限定したのは妥当な措置。個人旅行よりも参加者は自制して行動するはずだ」と指摘。「インバウンドを受け入れながら国内の観光事業をどう復興させるのか。受け入れ再開は両者のバランスを考えるよい機会になる」と話した。

(大竹直樹、星野謙)

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