【音声解説つき】楽観許さない中小企業の資金繰り~コロナ融資調査から

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POINT
■コロナ関連融資を借りている企業は、全体の50%を超えた。「旅館・ホテル」や「飲食店」など対面型営業の業種は利用率が高い。中小企業の利用率が高いのも特徴だ。

■資金の使途は人件費が一番多かった。企業経営者がまず、雇用の維持と従業員の収入確保を優先したことがわかる。前向きの投資に使った企業も2割近かった。

■8割の企業が条件通り返済できる見通しを示したが、問題なく返済できるかどうか不安を訴える回答も1割近かった。今後の企業の資金繰り状況は、楽観を許さない。

■2023年末までに実質9割の企業が返済を開始する。業績回復が遅れて返せない場合に「ゾンビ企業」だと安易に切り捨てていいのか。金融機関の「貸し手責任」が問われる。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて設けられた「コロナ関連融資」を、企業の5割超が利用している。資金繰り支援のために設けた融資制度が、倒産防止に役立っているのは間違いない。ただ、今後の返済に不安を抱える企業も1割に迫る。これらの企業はこの先、経営が行き詰まるリスクに直面する恐れがある。読売新聞と帝国データバンクが2022年2月に実施した「コロナ関連融資」に関する共同調査のデータをもとに、企業経営や資金繰りを巡る課題を考える。

調査研究本部主任研究員 林田晃雄 

「旅館・ホテル」が利用率トップ

 共同調査は、2022年2月14日から28日にかけて、インターネット経由でコロナ関連融資の利用状況や返済見通しなどを聞いた。回答した1万1562社の52.6%にあたる6084社が、コロナ融資を利用したと答えた。コロナ禍で、多くの企業で資金繰りが難しくなったことを物語っている。

 業種別の利用率は、観光需要が急減した「旅館・ホテル」が72.3%でトップだった。訪日外国人客がほぼゼロになったほか、遠出を自粛する動きが広がり、国内旅行が急減したことも響いた。休業や営業時間短縮、酒の提供自粛などを迫られた「飲食店」が72.1%と僅差の2位だった。3位は68.3%の「娯楽サービス」で、3位まで対面型営業の業種で占められた。在宅勤務や巣ごもり生活のあおりで売り上げが落ちたアパレル(繊維・繊維製品・服飾品小売り)も65.7%と、コロナ融資を使った割合が高かった。

 企業の規模別でも、コロナ融資への依存度は大きく違う。従業員20人以下の小規模な企業の利用率が62.1%だったのに対し、300人以上の大規模企業はわずか11.8%だった。コロナの影響を大きく受けた対面型業種には中小零細企業が多い。売り上げの急減で資金繰りが厳しくなった局面を、コロナ融資で乗り切った様子がうかがえる。

 一方で、借りなかった企業や、今後追加融資を受ける予定のない企業を合わせると全体の86.4%にのぼった。借りない理由を複数回答で質問したところ、最も多かったのが「負債を増やしたくないから」(36.2%)だった。ゼロ金利など破格の条件であっても、できるだけ借金を増やしたくない心理が、企業経営者には根強いようだ。「業績が回復し、資金繰りに困らないから」という回答も3割を超えた。

企業は雇用維持を優先した

 借りた資金の主な使途(複数回答)は、人件費(50.1%)が一番多かった。企業経営者の多くが、まずは従業員の雇用維持に取り組んだことがわかる。

 次いで、原材料や商品の仕入れ(43.4%)、設備の修繕・更新(25.3%)が続いた。家賃や地代(10.3%)を含め、事業の継続に欠かせない使途に優先的に資金を振り向けたようだ。

 これに対して、販促費や広告費(7.1%)、出張費や水道光熱費(2.2%)などに使った企業は少なかった。コロナ融資で得た虎の子の資金は、業績が悪化すると真っ先にカットされるといわれる「3K費」(交際費、広告宣伝費、交通費)にはあまり回さなかった。

 テレワークを含む通信費は、大企業は6.2%だったが、小規模企業では2.9%にとどまった。大企業の方がテレワークに必要な通信・ネットワーク環境が整っていることや、在宅勤務で対応できる業務が多いことを示している。

 新規の設備投資や事業の拡張という前向きの使途も18.5%あった。ポストコロナを見据えて、巻き返しを狙う企業が少なくなかったのは心強い。

1割近くが「返済に不安」

新型コロナの拡大を受け、融資の相談に訪れる事業者が相次いだ(名古屋市内の銀行で。2020年4月)
新型コロナの拡大を受け、融資の相談に訪れる事業者が相次いだ(名古屋市内の銀行で。2020年4月)

 コロナ融資を受けたと答えた6084社のうち、すでに全額返済した企業は120社にとどまった。融資を受けた企業の98%が、負債を抱えたままだ。借りている企業のうち55.6%と過半数がすでに返済を開始している。コロナ融資は、返済不要の据え置き期間を長めにとるなど優遇措置が講じられているが、少しでも負債を軽くしようと、返済を始める会社が多かったようだ。2022年中に返済が始まる企業は11.0%、23年の返済開始は14.0%だった。回答しなかった653社を除けば、23年末までに実質9割の企業が返済を始めることになる。

 返済の見通しについては、81.3%の企業が「融資条件通り全額返済できる」と答えた。ただ、問題なく返済できるとの回答率は、コロナ融資の利用率が高い業種では低めだった。「旅館・ホテル」(39.4%)、「飲食店」(67.3%)、「娯楽サービス」(72.1%)などである。

 一方で、「返済が遅れる」「(金利減免など)条件緩和を受けないと返済は難しい」「返済のめどが立たない」などと、返済への懸念を示す答えも計9.0%にのぼった。全国の企業数が386万社(2016年・経済センサス)に達することを考えれば、先行き返済が滞り、資金繰りに窮する企業の予備軍は相当多いと見たほうがいい。楽観を許さない状況である。

減る倒産と増える「あきらめ廃業」

 読売新聞と帝国データバンクの共同調査は、コロナ融資が企業の資金繰りを支え、雇用維持や事業継続の支えになったことを裏付けた。ただ、プラス面だけに目を向けていると、足もとで進む日本経済の構造変化を見逃すことになりかねない。

 コロナ融資の利用率が最も高かった「旅館・ホテル」の状況を、別の調査結果を交えて分析すると、コロナ禍が企業に及ぼした影響の重大さが浮かび上がる。

 帝国データバンクが2022年1月にまとめた調査によると、「旅館・ホテル」は、借入金が月商の何倍あるかを示す「有利子負債月商倍率」は、コロナ前の19年度は12倍だった。これが、コロナ融資が始まった20年度に22倍、21年末に30倍と右肩あがりに上昇した。特に年商1億円未満の小規模業者は56倍に及ぶ。旅館やホテルの多くがコロナ融資を受けて、加速度的に過剰債務に陥った様子がわかる。21年の「旅館・ホテル」の倒産は前年より41%少ない70件にとどまった。コロナ融資が功を奏して、倒産を免れたのだろう。倒産する前に事業継続を断念する「休廃業・解散」の件数は、前年より33%多い174件と、過去5年で最多となった。その多くは、余力のあるうちに事業をたたむ「あきらめ休廃業」とみられる。

 コロナで将来に見切りをつけたのは旅館やホテルに限らない。帝国データバンクの「全国企業『休廃業・解散』動向調査(2021年)」によると、資産超過で事業をたたむ「資産超過休廃業」の比率は右肩あがりに高まり、21年は62%に達した。当期利益が黒字の「黒字休廃業」も56%を占める。

貸し手責任も問われる

 財務省理財局の資料によると、官民を合わせたコロナ融資は、2020年5月に10兆円を超えた後、6月に20兆円、10月に40兆円と、急ピッチに大台に乗せた。その後やや増加のペースは鈍ったが、その1年後の21年10月は60兆円に迫る水準に達している。

 60兆円の貸出金残高は、3メガバンクの80兆~110兆円には及ばないが、大手のりそなグループの約40兆円を上回る。わずか1年半ほどで、これほど巨額の新規融資が行われた。内訳は、政府系金融機関が23兆円、民間金融機関が36兆円である。融資規模は支援策の大きさを示すと同時に、企業の返済負担の重さを物語っている。

 23年末までには、コロナ融資を受けた企業の実質9割で返済が始まる。返済が滞った場合、金融機関は金利減免や返済猶予などの条件緩和や追加融資で金融面での支援を続けるか、それとも事業継続は難しいとみて融資の回収を進めるか、難しい判断を迫られる。コロナ融資返済によって起きる生き残る企業の「選別」は、日本産業の生産性向上を図る好機だと考えている識者もいる。「競争力の低い会社の退場は当然」「これも時代の流れ」といった考えにも一理ある。

コロナ禍で多くの老舗旅館が姿を消した。コロナ融資の返済に不安を覚える旅館は少なくない(2020年8月に閉館した静岡県浜松市の旅館「松本屋」)
コロナ禍で多くの老舗旅館が姿を消した。コロナ融資の返済に不安を覚える旅館は少なくない(2020年8月に閉館した静岡県浜松市の旅館「松本屋」)

 ただ、コロナで多額の借金を背負った旅館が次々に 淘汰(とうた) されれば、世界的に賞賛されてきた 老舗(しにせ) 旅館の「おもてなし文化」は失われよう。同様のことは、かなり前から町工場や商店街で起きていた。オンリーワンの精度を誇った町工場の手仕事や、地域のふれあいが消えていく。コロナ禍で借金を背負い、事業の歯車が狂った企業は多い。さらにウクライナ危機などで原油や食料など輸入品の価格が急騰し、不況と物価高が同時進行する「悪いインフレ」に陥る懸念も指摘される。企業の経営環境は厳しさを増すだろう。コロナ禍で多額の融資を受けざるを得ず、身の丈を超える過剰債務を背負い込んだ中小企業を、単に「ゾンビ企業」だと切り捨てていいのか、疑問は拭えない。

 「助けましょう」と言ってコロナ融資を実行し、業績が回復しないからと容赦なく取り立てるようでは、金融機関は「貸し手責任」を果たしたとは言えまい。不測の危機がなければ健全に経営を続けられた企業は多いはずだ。そうした企業が、本業を盛り返して過剰な債務を徐々に減らし、経営を安定させていくことは、日本経済にとってプラスとなる。政府系、民間を問わず、金融機関に求められるのは、事業継続の意義がある企業を見極める目利き力と、立ち直るための具体策を提案して実行させるサポート力だろう。


読売調研RADIO音声解説

 新型コロナ感染拡大に伴い、多くの企業が休業や売り上げ減少を受けて資金繰りが悪化。政府はそうした企業を支援するため、金利や返済条件を優遇した融資制度を設けた。利用状況や返済の見通しについて、読売新聞と信用調査会社・帝国データバンクが行った緊急共同調査の結果をもとに解説する。

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2847008 0 経済・雇用 2022/03/18 15:38:00 2022/06/08 19:08:05 2022/06/08 19:08:05 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/03/20220318-OYT8I50030-T.jpg?type=thumbnail
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