JR東日本やANA、久々の営業黒字 早期復活の鍵は出張?
新型コロナウイルス禍で苦しんできた鉄道・航空業界にかすかな光が差し込んだ。旅客需要が一定程度回復し、2021年10~12月期にJR東日本やANAホールディングス(HD)などが営業黒字に転換したのだ。足元では変異型「オミクロン型」の感染拡大が移動需要の回復に冷や水を浴びせているものの、「恵みの秋」を経て、早期の業績回復に向け取り込まなければならない需要が何かも見えてきた。
「(鉄道事業は)計画よりも好調に推移している」。こう話すのはJR東日本の担当者だ。2021年4~12月期決算は425億円の営業赤字に沈んだものの、同年10~12月期は実に8四半期ぶりの営業黒字だった。
黒字転換の大きな要因は不動産・ホテル事業だ。21年12月に「JR南新宿ビル」(東京・渋谷)をファンドに売却するなどして生まれた収益約600億円を営業損益に計上したのだ。
とはいえ、本業の鉄道事業も「収入が計画を上回った」(担当者)。新型コロナウイルスの感染拡大が21年秋に一息つき、9月末で緊急事態宣言が解除されたことが主な要因だ。
その回復ぶりには濃淡がある。10~12月期の単体の鉄道運輸収入約3250億円のうち、通勤・通学需要が中心の在来線定期券による収入は約900億円。18年同期に比べ25%減で、20年同期からも微減だ。対して、新幹線収入は900億円弱。18年同期に比べると4割減だが、20年同期比では3割強増えた。
21年10~12月期の営業黒字額が712億円に上ったJR東海は、新幹線収入が前年比35%増の2050億円となった。感染状況さえ落ち着けば、長距離の移動需要の方が回復しやすい傾向が浮かび上がる。
長距離の移動需要が中心の航空大手はどうだろうか。
ANAHDは21年10~12月期、わずか1億9000万円ながら8四半期ぶりに営業黒字となった。同期の国内線旅客収入は946億円と19年の5割の水準まで回復し、20年と比べると22%増えた。
寄与したのはビジネス需要だ。21年4~9月期はコロナ禍前に比べ約6割減だったビジネス需要が、10~12月期に3割減の水準まで回復したという。旅行などレジャー需要は10~12月期もコロナ禍前に比べ6割強の減少が続く。
日本航空(JAL)も同様の傾向だ。21年10~12月期は引き続き赤字だったものの、その幅を大きく縮小させた。国内線の観光需要向けの運賃を使った旅客数はコロナ禍前に比べ約50%減だったが、ビジネス需要向けは約35%減で収まったという。
「ビジネス需要はもう元の水準には戻らないかもしれない」。コロナ禍が続く中、運輸業界の経営トップはことあるごとにこんな見方を示してきた。
通勤需要は戻らずとも……
とはいえ、必ずしも業界で見解が一致しているわけではなかった。
「出張需要が戻らないとは思っていない。いくらテレワークやオンライン会議が浸透しても、ビジネスシーンで直接現場を見たり、人と会ったりする需要はなくならない」(運輸大手幹部)
「国際線はまだわからないが、国内線は元の水準まで戻る気配が見え始めている」(JAL関係者)
「国際線については(将来的に)コロナ禍前の水準、あるいはそれ以上のビジネス需要を見込んでいる」(ANAHDの芝田浩二代表取締役専務執行役員)
確かに日々の通勤需要が元の水準に戻る道筋は見通しにくい。それでも、21年秋の実績からは「出張需要」の底堅さが見えてくる。オミクロン型の影響を横目に見ながら、そこを取り込む準備をどれだけできるかが早期の業績改善の鍵を握りそうだ。
JR東海は21年10月から「のぞみ」の1編成あたり1車両をテレワーク専用として運用し始めた。無料の無線通信の容量を2倍にして利用時間の制限をなくしたり、通常車両では周囲への配慮を求めている座席での通話を許容したりしている。22年春からはのぞみの新型車両を対象に喫煙スペースの一部を打ち合わせなどに使える「ビジネスブース」に試験的に改装する。JR東日本などはウェブ会議や通話が可能な「新幹線オフィス車両」の運用を始めた。
ANAHDは22年3月、現在2万近くの企業や部署が使う国内線出張システムを約20年ぶりに刷新する計画だ。新システムでは精算実績を帳簿出力したり、ANAウェブサイトから航空券を予約したりできるようにして、使い勝手を向上させる。
移動需要を地に落としたコロナ禍の中、回復局面で効果的なビジネス需要の取り込み策を打てれば、競合から顧客を奪うことにもつながるだろう。高単価なビジネス需要の長期的な低迷を前提に旅行需要の深耕を急いできた鉄道・航空業界。そのさじ加減を見誤ると、業績回復が遠のくことにもなりかねない。
(日経ビジネス 高尾泰朗)
[日経ビジネス電子版 2022年2月7日の記事を再構成]
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