コロナで壊滅のインバウンド、再開の議論望む声

台湾人旅行客と交流する農家民宿の女将ら=平成22年10月2日、山形県飯豊町(飯豊町観光協会提供)
台湾人旅行客と交流する農家民宿の女将ら=平成22年10月2日、山形県飯豊町(飯豊町観光協会提供)

長引く新型コロナウイルス禍は国内旅行だけでなく、インバウンド(訪日外国人客)を壊滅状態に追い込み、地方創生の柱となってきた観光産業の疲弊感は色濃い。海外ではワクチン接種を条件に外国人旅行客の受け入れ再開を進める国が増えているが、日本は再開のめどが立っていない。31日投開票の衆院選では、政府の観光支援策「Go To トラベル」の再開が争点の一つだが、その先の議論を望む声も強い。(本江希望)

「ハグをされると、最初は恥ずかしかったけど、だんだん慣れてきたよ」

山形県飯豊(いいで)町の中津川地区で農家民宿を営む伊藤信子さん(82)は照れ笑いを浮かべ、外国人観光客との交流を振り返る。

山々に囲まれた田園風景に古民家が点在する同地区は、昭和56年完成のダム建設で約3千人の人口が約300人に減少。高齢者が5割を超える「限界集落」となった。「何とかしなければ」と奮起した伊藤さんたちが平成19年に始めたのが、自宅の一部を客室として提供する農家民宿だった。

当初は学生の教育旅行が中心だったが、町の観光協会が企画したツアーで台湾人観光客の受け入れに成功。地元食材を使った料理や心尽くしのおもてなしに「帰りたくない」と涙ぐむ参加者もいたという。

道の駅などの施設もツアーの立ち寄り先として人気を集め、町全体ではコロナ禍前の30年に台湾から年間3800人以上が訪れた。コロナ禍の感染防止対策で全ての民宿が営業を休止し、今月に一部を除いて再開したものの、経営側に高齢者が多いため、いまだ感染への不安も大きい。

「県外からの問い合わせは増えているが、地元の人たちは『ウィズコロナ』ではなく、『ノーコロナ』という意識が強い。感染への恐怖心はまだまだ薄れていない」。観光協会の高橋達哉さん(36)は複雑な思いを打ち明ける。

現在も台湾の旅行会社と連絡を取り合っているが、「日本の感染対策は緩いのではないか」という声も聞かれるという。「インバウンド再開のためには感染対策を徹底し、国民だけでなく、海外の国や地域の信頼を得ることも重要だ」。高橋さんはこう訴えた。

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