宿泊業が新型コロナウイルスの感染拡大で大打撃を被る中、1日1組しか受け入れない「一棟貸し」の宿泊施設が静かな人気を呼んでいる。「普段付き合いのない人との接触を避けたい」「人目を気にしたくない」といったニーズと合致。老朽化した別荘や社員寮を改修して「特別感」を演出する試みも功を奏し、家族連れを中心に堅調な予約が続く。
東北有数の避暑地、宮城県蔵王町の山あいにある築30年の一戸建て別荘。「一棟貸し切り」をうたい文句に仙台市の旅行会社「たびのレシピ」が運営する。木漏れ日が差し込むリビングや温泉が引かれた風呂は掃除が行き届き、ベッドメーキングもしてある。
蔵王町では1970年代後半~80年代に温泉付き別荘地の開発が盛んだった。しかし、その後は景気悪化や持ち主の高齢化もあり、利用されない建物が目立ってきた。
たびのレシピ社は近年の空き家活用の動きを踏まえ、2014年から別荘を借り上げたり買い取ったりして一般客が宿泊できる事業を開始。食事は自炊で、利用代は1泊(1棟当たり)1万5千~5万円前後。建物ごとに人数制限がある。現在は宮城、神奈川、京都、沖縄の1府3県で計約60棟が運営され、コテージやマンションタイプもある。
当初はスキーなどで訪れる外国人観光客に人気だったが、感染拡大でほぼ全ての予約がキャンセルに。しかし、昨年夏ごろから口コミで家族連れを中心に新たな予約が入るようになった。家族6人で蔵王町の別荘に宿泊した山形市の女性会社員(41)は、近所の目もあり1年以上旅行を控えていたとし「温泉もあるし、ぜいたくな時間を過ごせた」と喜ぶ。
このような別荘を利用した一棟貸しは、兵庫でも人気を呼んでいる。
兵庫県宍粟市一宮町東河内に昨年オープンした1日1組限定の貸別荘「ソラやど」もその一つだ。庭や外構の設計施工業・庭彩(にわいろ)(同県姫路市)代表の吉川泰弘さんが、売りに出されていた築約30年の別荘などを改装し、ウッドデッキを周囲に巡らせた。12人がゆったり泊まれる広さを備え、清掃担当として地元住民5人が働いている。
豊かな自然に加え、自分でテントを設営しなくても宿泊できるグランピングの人気を追い風に、利用者は順調に推移しているという。家族連れなどの予約が多く、卒業旅行で泊まった高校生たちもいた。吉川さんは「アウトドアにこだわらず、室内で映画を見るなど、さまざまな過ごし方を楽しめる」と魅力を語る。ソラやどの堅調な需要を受け、吉川さんは旧一宮町内で2棟目の開設を検討している。
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