EU、14日に環境対策の基本計画を発表

EU、14日に環境対策の基本計画を発表
 欧州連合(EU)は7月14日、世界に先駆けて環境対策の基本計画「フィット・フォー・55」を公表する。独ハーナウで2016年11月撮影(2021年 ロイター/Kai Pfaffenbach)
[ブリュッセル 12日 ロイター] - 欧州連合(EU)は14日、世界に先駆けて環境対策の基本計画「フィット・フォー・55」を公表する。
承認されれば、2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で55%削減できるとみられているが、今後進められるEU加盟27カ国と欧州議会の交渉には、何カ月もかかる見通しだ。
米中など、他の諸国も排出量を実質ゼロにする目標を掲げているが、今後十年間の排出量削減に向けて、法律を全面的に見直すのはEUが初めて。
EUの環境政策の立案に関わった元政策担当者は「どの国も目標は掲げているが、それを実際の政策に移し、実際の排出量を減らすことが最も難しい」と述べた。
EUは2019年時点で、排出量を1990年比で24%削減しており、55%の削減目標を達成するには、あと9年間でさらに21%の削減が必要になる。
<幅広い分野が対象に>
欧州委員会は14日公表する基本計画で、エネルギー、産業、輸送、建築物の4分野で12の政策を提案する。
欧州では、電力部門の排出量が急ピッチで減少しているが、他の部門は排出量の削減が進んでいない。
EUの総排出量の4分の1を占める自動車、飛行機、船舶からの排出量は増加しており、建物からの排出も総排出量が3分の1を占めている。工場同様、多くの家庭でも、化石燃料由来の熱を利用している。
今回発表する対策の大半は、企業や消費者に対し、グリーンエネルギーの移行を促すものになる。
例えば、報道された草案によると、温室効果ガス排出量の多いジェット燃料に初めて課税する一方で、低炭素の航空燃料に10年間の優遇税制を適用する。
また、EUの炭素市場を改革し、産業部門、発電所、航空会社の二酸化炭素(CO2)排出コストを引き上げるほか、船舶にも環境汚染に対する負担を求める。
自動車のCO2排出基準強化で、2035年には事実上、ガソリン車・ディーゼル車の新車販売が禁止される可能性もある。再生可能エネルギーの普及についても、野心的な目標を掲げる。
世界で初めて導入する「国境炭素税」の詳細も明らかにする。鉄鋼やセメントといった排出量の多い製品の輸入を標的にするが、ロシアや中国といった貿易相手国が神経をとがらせる可能性がある。
<一般世帯にも影響>
今後、EU加盟国と欧州議会は、欧州委が提案した対策について協議を進めるが、前途は多難とみられている。
経済的に豊かな西欧や北欧諸国では電気自動車の販売が伸びているが、貧しい東欧諸国は、脱石炭化の社会的コストを懸念。両者の間にはすでに亀裂が生じている。
加盟国が特に懸念しているのは、欧州委が計画している輸送部門と家庭用暖房向けの炭素市場の創設。家計の燃料費が増える可能性があり、欧州委は、低所得層を支援するための基金設立を約束している。
また、今回の基本計画の発表で、環境対策の中身が明らかになり、有権者の支持が得られるかが試されることになる。
ロビー活動の活発化も予想されている。欧州の鉄鋼・セメント部門からは、CO2排出権の無償割当停止に反対する声が既に上がっている。
<他国は追随するか>
環境対策で世界に先行するEUに、他の主要国が追随するかも不透明だ。
国連のチーフ・ポリティカル・ストラテジスト、トム・リベットカルナック氏は「他の主要国、特に中国と米国が追随する必要がある。これが課題だ。EUが外交的にこれを実現できるかは、まだ分からない」と述べた。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab